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2-78 宴の終わり

 逃げたくても逃げられない、永遠とも思える時間を止めもさされずに嬲られるだけの怪物群。


 勇者達はとうに、安全な陽彩選人の陣に引き上げて一緒に守られており、全員もれなく所在無げにしている。


 俺を思いっきり馬鹿にしていた勇者連中も、茫然としてこのあまりにも無慈悲な戦いに目を向けており、また俺の方をチラチラと見上げていた。


 街で俺と出会ったあのヤンキー連中は、こそこそと他の連中の後ろに隠れようとしている。


「男子三日会わざれば刮目して見よ。

 昔の諺っていい事を言うわよね」


「まったくだ。

 THE LONGESTWAY ROUND IS THE NEARESTWAY HOME.とでもいうのかな。

 一番遠い道が一番の近道さ」


「いや、それちょっと違わなくない?」


 だが、大魔獣ミールは俺の眷属達の手によって、滅びまでの遠い道を歩かされていた。

 もう面倒なので、ザムザ達に魔核や素材は、どんどん目の前に運ばせていた。


 そして、巣に拾得物を運び込む蟻の行列のように彼らは並び、俺はそれをまるで収穫を捧げられる王のように受け取り、次々と収納していった。


 討伐中の眷属どもも、まるで死にかけの獲物を無慈悲に解体して巣へと運び込む蟻の群れの如くであった。

 片一方の魔人ザムザは蟻じゃなくて蟷螂なんだけどな。


 永遠とも思える収穫祭を退屈に感じたものか、泉がこんな事を言い出した。


「ねえ思うんだけどさ。

 あたしら、もう宙に浮いている必要ないんじゃないのかな」


「あーそれ。

 それは俺が下の連中と顔を合わせたくないだけ。

 どうせ王国関係者からは口煩い事を言われるに決まっているし、あの俺を見下していた腐れヤンキーや威張ったおっさんなんかの顔も見たくねえの!」


「ああ、そういやそうだったね。

 わかった、空中でデートしていましょ。

 それはいいけど、なんか御腹が空かない?

 もう御昼だし、今度デートの時にどうかと思ってサンドイッチを作って収納に仕舞っておいたのよ」


「お、いいねえ。

 うわ、美味しそうじゃん」


「へっへえ、今こういうのが王都ではやりなのよ。

 ローストビーフ風のお肉とたっぷりの葉野菜を挟んで、この流行りのソースをね」


 俺は泉に食べさせてもらって評してみた。


「うん、美味い。

 このパン、もしかして勇者がパン屋に作らせてる?

 外国資本の高級ホテルのサンドイッチ用パンみたいにしっとりして柔らかいな。

 それにこのソースは、もしかしてグレービーソースなのか?」


「そうそう、お肉料理の万能ソースよー。

 実はこれ、あの坪根濔さんが作らせているのよ」


「なんと!

 坪根濔の姐御、すげえなあ。

 うーん、美味い!」


 だが、この無限のデスマーチも、やはり永遠とはいかなかったようだ。


「ねえ、一穂」

「ん、何?」


 俺は美味しい空中ランチを終えて、上等な陶器製の器に注いでもらったお茶へと進んでいたのだが、泉に声をかけられたので胃袋に集中していた血液を少し頭に戻す格好となった。


「あれ見て、なんか様子が変だわ」


「どれ。

 あ、本当だ」


 ミールの奴め、なんだか少し縮んでいるような?

 俺の気のせいだろうか。


 それに数もさっきより減りだして、見た目も動きも何かこう弱々しい気がする。


「これは、まさか!

 いかん。

 ザムザ、ゲンダス、少し手加減を。

 そいつ、もう死にそうだぞ」


『いいから、さっさと魔獣を討伐しろよ、一人だけ飯まで食っていやがって』という視線の対空砲火の嵐は無視して、俺は焦りまくっていた。


 この無限魔獣牧場を失う事を俺は本当に恐れていた。

 だがエレは冷徹な宣告をしてきた。


「カズホ、もう終いにしな。

 あいつもう完全に弱っているから死に物狂いで包囲から逃げるよ。

 今度は姿を現さずに、残った分身もろとも地中からゲリラ戦略に出るから、王都が壊滅する。


 もう散々、素材も疑似魔核も手にしただろう。

 そろそろ勇者としての務めを果たすんだね」


「チッ、なんて忌々しい奴だ。

 このくらいの攻撃で参るとは軟弱者め。

 ちったあ、うちのザムザを見習えや。


 仕方がねえ。

 まだ遊びに連れてこないうちにこの王都が灰になったら、あのチビ達に怒られちまいそうだし。


 眷属ども、まず分身を全部狩れ。

 それも、まず素材を剥ぎ取ってからな。

 本体を先にやると分身は消えちまうそうだから」


 そして弱っていた百体ほどの分身の群れは残らず八つ裂きになった。

 俺の言いつけ通りに大きな破片に切り刻まれて。


 そして残った本体が最期に言い残した。


「おのれっ、このハズレ勇者めが。

 だが忘れるな、我は四天王の中では最弱なりっ」


 そしてその言葉を最後に、蠅か雲霞のように群がった俺の眷属達の手により、奴の甲殻の色同様の真っ黒な巨大魔核が抉りだされて、恭しく差し出す眷属から俺に捧げられた。


 そして、こいつの装備は『地突』で、地面に潜る時に頭に装着する物らしい。


 こいつの魔核から得た情報によると、それの素材は奴の甲殻よりはるかに頑丈な物で、地面に潜る時に装着するようだ。


 こいつを加工したら神の杖を遥かに超える究極の大気圏突入投下槍の出来上がりだな。

 それは暫定で『ミールの杖』とでも呼んでおくかね。


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