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1-15 初めての村へ

「やあ、子供達。

 怪我はなかったかい」


 俺は抱き合って膝で体を支えている、西洋人風の子供達のところへ駆け寄った。

 可哀想にまだ震えていた。


 まだ小さい子達だな。

 上の子も幼稚園の年長さんくらいだった。


「ありがとう。

 おじちゃんは冒険者さんなの?」


「なの?」


 ぐふっ。

 ここは「お兄ちゃん」と呼んでほしかったのだが、相手は幼稚園児二人だ。


 それにもう二十七歳にもなる俺は、この世界では標準でおじちゃん世代なのかもしれない。

 この世界の平均寿命は、きっと日本よりも短いんだろうなあ。


 もう既に二十歳の頃に、幼稚園児からおじちゃん呼ばわりされた経験のある俺は、強引に笑顔を召喚してみせた。


 確かに、俺はあの子達から見たら実の叔父であったのだが。

 俺はきっと、あのファッキン国王よりは素晴らしい召喚者のような気がする。


 それにしても冒険者なんて人達がいるんだな。

 狼を倒すと冒険者扱いなのか?

 猟師さんとの区別がよくわからないなあ。


 おチビ二人は金髪と明るい緑の瞳だった。

 あの王様ご一行では、こういう綺麗な色合いは見なかったな。


 王様は白髪にグレーの瞳だったし、神官も焦げ茶の髪に茶色の眼だった。

 子供のうちは綺麗な色合いの子も多いのかもしれない。


 日本人でも茶色や金髪に近いような髪に茶色の眼をした子供もいるが、そういう子も大人になれば結構黒くなっていくもんだ。


「ははは、そうじゃないけどな。

 俺は通りすがりの旅の者だよ」


「そうなの?

 でも、あの魔物達を全滅させたよね~。

 槍いっぱい投げてすごーい」


「ねええー!」


 なんと!

 俺の眼には普通の狼に見えたのだが、実は違っていたようだったわ。


 おお、こわ。

 まあ狼にしてはやけに大きいなとは思っていたのさ。

 全長が三メートル近くあったからなあ。



 見れば、真っ赤な目と異様に大きな牙の持ち主だ。

 言われてみれば、その図体とも相まって、ただの狼とは明らかに異なるようだった。


 よくぞ俺なんかが全部倒せたものだ。

 そう強くない魔物なのだろう。


 地球でも寒い地方へ行けば、体積に対し熱放射面積を抑えるため体が大きくなるというベルクマンの法則に従い体の大きな狼連中もいるから、そう不思議には思わなかったのだが。


 あの図体、あの数の群れが、小さな人間の子供二人でお腹を満足させられるとは思えんのだが、何故襲うのだろうなあ。


 魔物ねえ。

 まさかあいつらが魔王軍の手先とか言わんよな。


 この程度の槍の雨で倒せてしまえる雑魚が魔王軍なんかであるはずもない。


「家は近くなのか?

 送ってあげよう」


「ありがとう。

 ちょっと先へ行ったところにある村なの。

 今まで森に魔物なんか出た事がないのよ。

 薪拾いは子供の仕事なのに、これから困っちゃうな」


「そうなのか、子供も大変だな。

 俺は今夜、ここで野宿しようと思っていたんだ。

 今のうちに狼が出てきてくれて助かったよ。

 一人だったら見張りも立てられないからな」


「わあ、本当だね」


「ねえねえ、今夜はうちに泊まってー。

 旅のお話が聞きたいの」


 幼女様は旅のお話が聞きたいそうだ。

 旅と言いましても、この世界ではまだ徒歩二日分しかお話の分量がないのですがね。


 仕方がないので、地球の創作話で胡麻化すとしますか。

 こっちでは、俺のへたれ話しかないからな。


 そんな物は勇者の冒険譚には似つかわしくない内容だし、ここは思いっきり話を盛って吹いちゃおうかな!


 どうせ一晩だけの英雄様なんだしな。

 旅人なんて大体こんなものさ、特に子供相手ならな。


 真の英雄譚なるものは勇者陽彩選手に譲るぜ。


 あいつ、本当に冴えない奴だった。

 今頃魔王にビビっていて布団の中で蹲っていたりしないだろうな。


 あの最前線送りが決まった二人姉妹は今どうしているのだろうか。

 震えてしまっていないだろうか。


 だが抱き締めてあげたり慰めたりしてあげたくたって、今の浮浪者も同然の俺にはどうしようもない。


 もうどうにも、誰にも何にもしてあげられない。

 自分の事さえどうしようもないのだから。

 この子達を助けてあげられただけでもよしとしよう。


「へえ、いいのかい?

 それは助かるんだけど。

 ああ、お前達の名前は?」

 

 おうちの人がなんて言うかだけどな。

 見ず知らずの風来坊なんて、そうそう泊めてもらえないだろうし。


 しかし、村の中のエリアに泊めてもらえれば助かる。

 あの狼どもはまさしく悪夢だぜ。


 もう普通に野宿なんて怖くてできませんわ。

 昨日も何かの獣が寝床の近くをうろうろしていた気配だしな。


 あれだって魔物じゃなかったなどという保証はどこにもない。


「あたし、マーシャです。

 今六歳だよ。

 そっちは妹のアリシャ」


「アリシャなのー。

 今四つ~」


「そうか、俺はカズホ。

 カズホ・ムギノだ。

 よろしくな」


 はしゃぐ子供達に両手を引かれながら俺は村までの道を歩く。

 子供達に好きにさせているのは、まだ子供達は狼の幻影にビビっていると思うからだ。


 彼女達は、子供達からみれば超絶に強い戦士である俺の手を握って安心していたいのだ。


 ここの森に魔物が出るのは初めてだと言っていた。

 まだ怖いから余計に饒舌になっているのかもしれない。



 こうしていると、うちの姪っ子を思い出すな。

 うちに遊びに来た時に、こんな風に手を繋いで歩いたっけ。


 俺は少し心の中に暖かい物を感じて自然に笑みが浮かんでいた。

 この子達を助けられて本当によかった。


 もしかすると、この村も余所者の俺を排撃するかもしれないが、それでもだ。


 もっと手酷い排撃をワクチンとして食らったばかりだから、心の準備さえできていれば、さほどのものでもあるまい。


「マーシャ、アリシャ、どうした。

 その男は誰だ!」


 突然の詰問に振り向いた俺の前に、大きな斧を持った男性が現れた。


 きっと何かの作業をしていたのだろうが、そのスタイルで厳しめの声を眷属にしての御登場にはちょっとドキドキしたぜ。


 多分、その物の言い方は、彼が子供達の父親だからなのだろう。

 姿はあまり似ていないのだが、子供達はきっと母親似なのに違いない。


 俺は敵意がない事を表すために、革の帽子を脱いで胸に宛て軽く会釈をした。


 すかさず、チビの方のアリシャが走って行き、自分の目線近くまで屈んでくれた父親の胸に飛び込んでいった。


 そして耳元に甘えるようにしながら言った。


「あのね、あのね、お父さん。

 さっきねえ、びっくりしたんだよ。

 森に狼魔物がたくさん出たの。

 とっても怖かったの~」


「なんだって! それでどうした」


「カズホがねー。

 ぜーんぶやっつけてくれたの」


「なに!」


 男の顔には、自分の幼い娘達が巨大な魔物の群れに遭遇したという衝撃、そして無事だったという安堵、そしてそれを為したのが見ず知らずの余所者であるという、素直に喜ぶべきか、あれこれと警戒すべきなのか判断を持て余すかのような複雑な表情が表されていた。 


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