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2-74 緊急なお呼び出し

 ふわーあ、という感じに大欠伸をして遅めの朝を起き上がった俺。

 朝帰りでもう一寝入りしたところだったのだ。

 服を着たままベッドで寝こけていた。


 外に出ると、おチビ達はまだ祭りの余韻が覚めないものか、朝っぱらから元気に走り回っていた。


 近隣の村で、ああいうお楽しみがあったら、ここの村での生活も楽しいというか張りもあるよな。

 祭りを盛り上げてよかったぜ。


 おや、泉から宝珠の通信だ。

 もしかしてまたデートのお誘いだろうか。


 まだ祭りで盛り上がった夕べの二人の夜の余韻が抜けない俺は、少しニヤけながら通信の宝珠を手に取った。


「おっはー、マイハニー。

 愛してるぜー」


「もう寝ぼけてないの!

 は、早く来て。


 王都に魔人、ううん。

 魔獣が出たわ、でかい奴ー!

 もう、あたしらの手に負えない。


 救援の魔人を出してほしいの~。

 助けて、カズホ!」


 ブフォオー!


「い、今行く! 待っていろ~」


 俺は慌てて速攻で家の中に舞い戻り、カイザを捜した。


 いねえ!

 あ、裏で薪割の音がする。


「カイザ!」


「どうした、寝坊だな。

 もうすぐ昼だぞ」


「王都に魔人が出た。

 かなりヤバイ奴らしいぞ。

 泉に呼ばれたんで今から行ってくる」


「なんだと!」


 俺は返事も待たずに、その場で意味もなく助走し、体を屈めてから飛び上がった。

 これは上に撃ちあがるイメージなのだ。


 体にはザムザ魔核を百個ほど巻き付けてある。

 ついに魔核の多重ブーストを試す日がやってきたのだ。


 こんな真似をしたって安全に使用できるのは、いつもの眷属との感覚共有で理解できていた。

 単に必要がないので今まで使っていなかっただけだ。


     ◆◇◆◇◆


 猛威を振るう魔物、いや魔獣。

 王国軍は消耗するばかりなので兵士全員を下がらせて、将軍は勇者を全面に押し出した。


 全員もれなく青い顔をしていたが、強引に押すというか無理やりに引き出される。

 王都の中枢を突然急襲した魔物に対して、戦力の出し惜しみは出来ない状況であった。


 思わず泉も、仲間の勇者達に向かって叫んだ。


「みんな、今援軍を呼ぶから頑張って!」


 だが皆も目を剝いた。


「援軍?」

「どこから!?」


「くそ、魔法を食らえ」


「ええい、デバフを。

 強度低下、硬度低下、熱耐性低下、衝撃耐性低下、魔法耐性低下……」


 そして、その勇者達の攻撃にも平然と耐えた怪物は、突然彼ら勇者に向けてまるで強力な熱線のような『ブレス』を吐いた。


 圧倒的な熱光線を浴び、一薙ぎされた勇者の群れはまとめて世界から蒸発した。


     ◆◇◆◇◆


 俺は文字通り天たる宇宙を駆け、加速した、加速した。


 俺は宇宙ロケットのように上昇の一途を辿り、そしてあっという間に大気圏脱出速度を越えて、見事に大気圏を突破した。


 抵抗し灼熱する大気との摩擦により全身を覆うシールド周りが灼熱し、途中で成層圏の一部が超高熱になっていた気もするが、それも一瞬で通り抜けた。


 俺のスキルでは、実は速度を測る機能がついていたようだ。

 抱えてくれる泉の速度は測れないが、自分で飛ぶとわかる。

 本日は実にマッハ二十六を記録した。


 そして、いい加減に宇宙空間で折り返して、村から八百キロ離れた王都へと落下していく。

 まるで自国の領土内に弾道ミサイルを撃ち込むかのような有様だ。


 飛空のスキルには、飛行者を守るシステムがついているが、その他に絶対防御百連装なのだからビクともしない。


 普段も宇宙空間でも大丈夫なようなシステムになっているが、魔核一つではせいぜいがとこスピードを出してもマッハ三前後なので宇宙へは出ないだけだ。


「見つけた。

 あれか、確かにでかいな。

 じゃあ遠慮なく行かせてもらうぜ」


 俺は、ザムザの特別な蟷螂アイの力で上空から確認した目標を目指して降下した。


 俺はスキルでブレーキはかけつつも、そいつの脳天に挨拶代わりに大気圏内垂直降下のドロップキックをかましてやるつもりなのだ。


「俺の女に手を出しているんじゃねえぞ、このムシケラがあ」


 そして、さしもの絶対防御を発動しても、その後は減速しながらも大気との摩擦で上手く言葉を発せていないようだった。


『い……ちど……やって……みたか……ったんだ……ぜ、大気圏突入……ヒャッハーをなー!』


 俺の必殺『超速ヒャッハー』を食らった、そいつの長細く巨大な体は見事にバナナを剝くかのように、いくつものめくれ上がった皮のように裂けたが、なんと次の瞬間には超絶な再生力だけで俺の命中衝撃を押し返しやがった。


 マジでありえねえな、なんて野郎だ。

 渾身のキックが魔核に到達できなかったようなので、一瞬にして再生したのか。


 俺はその反動で飛び上がり、宙に留まると泉を捜したが後ろからツンツンされた。


「何やってんのよ、もうビックリするじゃない」


「あはっ、今日は垂直上昇でマッハ二十六をマークしたぜ」


「うそっ。

 ああ、よく見たらザムザ魔核を体中に巻き付けているじゃないの~。

 インチキだあ」


「はいはい。

 しかし、あいつめ、凄まじい再生力だぜ」


「うん、見事な映像逆回転だったわ。

 それで、これからどうするの?」


「まあ、試してみるさ。

 しかし、こいつはすげえ。

 さっき、うっかり魔核を破壊して倒しちまわなくてよかった。

 こいつは是非とも俺の眷属コレクションに加えないとな」


「相変わらずいい根性しているわね。

 もうみんな戦意を喪失しちゃってるわよ。

 というか、今しがた三十人ほど勇者が殉職したばかりよ。


 勇者が二分の一にもなる人数が、いきなりやられちゃった。

 粋がって突っ込んでいったヤンキーどもやおっさんなんかも全部蒸発したわ。


 全員、超強力なブレスで一瞬にして塵にされたの。

 あの女子会の女の子達も、勇者の周りにいた人以外は半分死んでしまったわ!

 もう王国軍が浮足立って全員が逃げ出そうとしているし」


 よく見たら泉の顔が真っ青だ。

 おい、マジか。


 あたりをよく見たら凄惨な有様だった。

 おいおい、まだ碌に楽しんでいないうちに、よくも俺の大事な遊び場を壊しやがったな!


 チラっと見たら王様が唖然として棒立ちになっている。

 チっ、仕方がないな。


 あまり王様の前で見せたくはない手札なのだが、俺は駄目元でそれを試してみた。


 こいつだけは思いっきり増やしてあったので、収納からそいつをまとめてぶち撒いたのだ。

 特別性の虹色の雨をな。


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― 新着の感想 ―
人が死んだということを こうも簡単に感情少なく話せるものだろうか
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