2-73 勇者祭り
本日、フォミオは韋駄天弐号で午前便を三往復して、それから後は子供達のジャグリングの指導をしながら自分も芸をして、またあちこちの屋台の具合を見たりしてもらう予定だ。
韋駄天弐号のご用命があれば、スポットでそちらに入ってもらう感じで。
村の鍛冶屋の親父にも、釜の具合などを見てもらう予定だ。
特に綿菓子製造機は荒い作りなども相まってメンテ係が必要な気がしている。
まあ、とりあえず故障したら屋台ごと取り換える予定なのだ。
カイザはチビどもに強請られて、一番速いエア馬車便で到着済みだ。
俺も今日はノンアルコールで、必要に応じてエア馬車臨時運行の運転士だな。
村長達も、俺の強制的に覚えさせられた回復魔法やエリクサーうどんを振る舞っておいたので、かなり回復した。
なんとか普通に歩けるくらいまで回復したので、自力で見回りができていて嬉しそうだ。
村中にゴミ箱を設置しておいたので、村の役員というか日本では町内会の組長に当たる家の人が定期的に、俺がスキルで作った材料と風魔法の中空成形で作っておいたポリエチレンの袋を取り換えて、いっぱいになったものはゴミ集積場に置いてくれる。
俺がマルータ号の運転業務を終えて宿の女将さんの店へ覗きに行ってみたら、焼きトウモロコシの看板が出ていた。
ここは街の広場の前なので、祭りの続きのスペースになっており、お店の中で落ち着いて食べられる。
ちゃんとした料理用の釜があるので、そっちで焼いてくれる。
そして、この香ばしい香りの正体は。
齧りついていた、お局様が叫んでいた。
「嘘っ、トウモロコシの醤油焼き!
麦野、あんたどこからこのような物を」
「ははは、こいつは醤油じゃなくて味噌作りの工程でできる『たまり』なのさ。
それも試作品の味噌で、まだ今一つの品なんだが、たまりの方はそこそこの出来だ。
まだ開発が始まったばかりで、そのままではまだ使い辛い品質なんだが、こうやって焼く分にはそう悪くもないのさ」
「あんたの従者も半端ないわねえ。
これでいいから、ちょっと分けなさいよ」
「じゃあ、ちょっと持っていきなよ」
そう言って俺はこの世界の武骨なガラス瓶に入れたそれを十本ほど差し出した。
そのうちに日本酒も出来上がるだろうから、一升瓶を作らせないとな。
もちろん日本酒用の樽も。
広場の方にはいろいろな屋台が出ている。
もう凄い人出で、総勢二千人以上はいるのではないか。
まるでユーモ村を思わせる喧噪だ。
この界隈の催しで、ここまで人が集まった事などないのではないか。
今回は大量輸送機関を導入したのに加えて、異世界飯の屋台を出す旨を大宣伝しておいたので。
更に加えて、あの大嵐で畑が壊滅した後の奇跡の福音に人々も酔いしれていたのだ。
収入の見込みが立っているため、懐も緩みやすい。
「さあさあさあ、弾けちゃうよ~、弾けちゃうからねー!」
「美味しいよお、美味しいポップコーンだよお」
指導の合間にショウに探させていた『爆裂種』のポップコーン、まさか本当にあったとはな。
ザムザと組ませて、わざわざあちこちを捜させた甲斐があった。
遠方の商業ギルドでこいつの事を知っている人がいたのだ。
火にかけるとポップコーンになるのは知らなかったようだが。
「二十箇所目でやっと見つかりました。
疲れましたよ……」
「ご苦労、いやあ本当にあるかどうかもよくわからない、文字通りの幻の商品だからな」
今日はショウと弟子二人の子供達も招待してあるのだ。
彼らは小学校六年生相当の少年と少女だった。
まだ子供なのに孤児院を出ないといけないらしい。
異世界もなかなか厳しいもんだ。
そして女子高生三人組が何をやっているのかというと、『ポップコーン屋台』だった。
何、単に釜のついた屋台で焼いているだけだ。
フライパンで加熱したって作れちゃうものだが、どこかへ飛んでいってしまわないようにというのと、祭りに出すための見栄えをよくするために囲いを付けてあるのだ。
こいつは俺がガラスで作らせた透明な板を使用している。
こういう透明度の高いガラスボックスは非常に高価なのだそうだが、お構いなしで買い求めた。
ポンポンと弾けるポップコーンは、その軽快な音で人々を集めまくりだ。
勇者陽彩には、同年代の女の子達と仲良くなれるように、ポップコーン屋台の『釜焚き』を命じてある。
「ほら、勇者陽彩。
火力が下がっているわよー。
ほら見て、お客さんがどんどん来ているわよ!
釜を焚いて、焚いて!」
「は、はい、ただいま~。
ひー」
だが残念な事に、今のところは釜焚き係以上の関係にはなれそうもないが、学園祭のノリなので奴もそれなりに楽しそうだ。
まあ魔王軍と戦うよりは楽しかろう。
まだ高校一年生の佳人ちゃんも是非参加させてあげたかったな。
今頃どうしているのだろうか。
あの姉妹ならコスプレもやってくれたかもしれない。
音を出すといえば、朝からザムザ達に花火を打たせている。
花火というか、地上に設置した鉄の筒の中で黒色火薬を破裂させているだけだ。
あれは花火にだって使われているものだから、音にもまったく違和感がない。
それを聞いた勇者達も懐かしそうだ。
今度、地上で遊べる花火でも開発するかな。
「この音は祭りの開始の合図と、盛り上げるために立てている音だから」と村人達にはお達しを出してあるので特に問題はない。
日本人だと『砲撃音』と間違えそうなほどの音がするが、この世界には砲撃なる言葉すら存在しないのだから。
他にも唐揚げ屋台、揚げポテト、串焼き屋台、すもも飴にチョコすもも、焼きたてロッシェなどがある。
そして目玉の綿菓子だ。
こいつは難しいので勇者の子にやってもらってある。
一応鍛冶屋さんもつけておいたのだが、穴が詰まったり機械が焼き付いたりすると、魔法使いの法衣さんが器用に魔法でメンテしてくれている。
魔法使いにも意外な才能があるものだ。
ゲーム関係は、派手に装飾するのに成功した美しい輪投げゲームに、ボール投げなどを用意した。
来年までには派手な色合いのゴム風船を開発して、ヨーヨー屋台を作ってみるとしよう。
今年は、なんとか間に合ったスーパーボールのゴムボール掬いをやってみた。
こいつは子供が絶対に呑み込めない、大きめのサイズに作ってある。
来年はガラス細工をあれこれ作らせて宝石掬いをやってみるのもいいな。
プラスチックもいいが、あれは不要な物が環境ゴミとして残ってしまうからな。
おチビ達も夢中で遊んでいるし、自分達も一生懸命に練習した大道芸をご披露して受けていたので大喜びだ。
広場の中央では、村人が演奏する祭りの音楽に合わせて踊っている人も大勢いる。
「はあい、美味しいフランクフルトにホットドックよ~」
泉はフランクフルトとホットドックの屋台をもう一人の女性勇者とやっていた。
俺も泉と一緒に屋台をやりたかったのだが、俺は全体のプロデューサーなので泣く泣く断念したのだ。
「お、やってるな」
「うん、これ勇者の子が開発して、今王都で大ブームなの。
ケチャップまで作ってくれたのよ。
その子がスタンド屋台まで用意してフランチャイズで売り子を募集しているの。
今日は一台借りてきたんだ」
「へえ、そいつは知らなかったな。
面白いアイデアじゃないの」
「ここで使っている屋台も、そのうちに魔道具化されて向こうで流行るんじゃないかしらね」
「がんばってくれよ。
こういうものは参加するのも楽しいからな。
来年は是非焼きそば屋台をやってみたいもんだ。
焼きそばソースを作らないとなあ」
「あはは、今年は焼き締めパンスープが繁盛しているじゃない」
屋台にはあれこれと派手な模様を描かせ幟を立てておいたが、女将さんの店の前でやってもらっている焼き締めパンスープの屋台は一際派手だ。
「ああ、いい祭りになったみたいでよかったなあ」
俺は少し行列ができたフランク屋台をさばく泉を手伝いながら、共に祭りの喧噪に身を任せていった。