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2-72 歓びの宴

「これぞ、まさに奇跡だ」


「神は我らをお見捨てにならなかった!」


「よかった。

 あのような激しい秋の嵐に見舞われるのは一体どれだけぶりであろうか」


 村中をカイザと一緒に回っていたが、村人達の興奮と昂ぶりはいつまでも尽きる事もなかった。


 確かにあれは神の奇跡にしか思えないだろうなあ。

 勇者の福音というものが、あれほどに凄まじいものであったとは。


「どうだい、いい報告書は書けそうかい」


「はあ、これはまた頭が痛くなる。

 まったく勇者と来た日には。

 なんという連中なのか」


「じゃあ、アレ(勇者の福音)はよしておけばよかったかな」


「馬鹿を言え、あの広範囲で畑が壊滅状態であったのだからな。

 あのままだったら地域丸ごとで発狂するぞ。

 それどころか、この広大な地域一帯が壊滅し、この王国が亡ばんばかりに傾く」


「じゃあ、俺に文句を言うんじゃねえよ!」


「文句を言いたいわけじゃないが、こんな出来事に対して一体どのような報告書を書けばいいものか」


「何も、あんたが全部書かなきゃいけない事はないさ。

 あれだけの地域にスキルの力をばら撒いてやったんだから、誰か彼かは客観的な報告書を出してくれるさ」


「いや、この俺が詳細な報告書を出さない訳にはいかんのだ。

 何しろ、うちにはお前がいるのだからな。

 そのことを王はよく御存じのはずだ」


「あらま、王様ったらそんなに俺の事なんかを気にしてらっしゃるのかね。

 魔人なんか討伐したって褒美なんか貰った事は一度もないけどな。

 大体、あの時に俺を一人だけ城に置き去りにしたくせに」


「まあ、そう言うな。

 王にもお立場というものがあるのだから」


「冗談だよ。

 褒美なんかとっくの昔に、勝手し放題でくすねまくりなんだ。

 この俺は辺境の王者として何一つ困っちゃいないんだぜ」


「おいおい、頼むからあまりマズイ事はしないでくれよ」


「はっはっは、王国の役人であるお前の顔を潰したらマズイから、これでも俺としては大人しめに控えている方なんだぜ。

 まあ今回は仕方がないから、しっかりと机仕事を頑張るんだな」




 さあ、麦の刈り取りが終わったらいよいよ祭りの開始なのだ。


 俺は日々、収穫の喜びを村の人達と共にした。

 まあ、いわゆる農家のお手伝いって奴だ。


 カイザは役人なんで家庭菜園レベルの畑しか持っていないので、そっちは幼女様方の縄張りだからな。


 え、格好良すぎるって?

 だって汗して収穫作業をしないと、収穫祭の喜びがちゃんと味わえないだろ!


 そして刈り取った麦から集められた麦粒に積み上げられた藁。

 収穫の喜びは歌にされ、それがまた村の大地を喜ばせる。


 また来年、新しい恵みをその大地の懐に忍ばせるために、人々は感謝を込めて祭りの準備へと向かっていった。


 そして、ついに念願の祭りの当日がやってきた。

 もう向こうでは頼んでおいた屋台なども始まっている頃合いだ。


 日本の桜祭りのように、日が昇ったら延々とやるスタイルの屋台を出させたのだ。


 昼前から行くとちょうどいい感じだと思い、時間のかかる韋駄天弐号は早朝から運行し、あっという間に着いてしまう俺が操るマルータ号は少し遅めの時間から運行だ。


 だが、意外な問題が発生してしまった。


「え、空を飛んでいくのか!」


「大丈夫? 落ちたりしないの?」


 などと、先進的な乗り物であるはずの空飛ぶエア馬車は、村の大人の間では実に評判がよくなかった。


 これは製作段階から見ていた子供達には大人気だったので、もうちょい行けると踏んでいたのだが、麦野エア馬車運行会社は発足当初から予期していなかった落とし穴に嵌ってしまった。


「これはいかん!

 こういう話は予想していなかったな。

 前宣伝が足りない、完全なPR不足だった!

 果たして村の人達を運びきれるだろうか!」


 だが、そいつに乗りたくない大人達は半日かけて自分達の足で歩いていってしまうらしい。


 単に今まで通りというか、この両村による合同企画が出来た時点ではその予定だったのだ。


 帰りはどうする気なんだよ。

 酒も入っているだろうし、それだけの人数が泊まる場所なんかないんだからな。


 絶対に村人全員、飛空馬車に詰め込んで持ち帰るぜ。

 まあ歩きやすいように街道は整備されているんだけどな。


 村人っていうのは、そういうものなのかもしれないが、せっかく便利な交通機関を作ったというのにがっかりだぜ。


 俺としては非常に業腹であったのだが、子供達は空からの輸送アトラクションを楽しんでくれる予定だ。

 元々、こいつは自力で歩いて隣村へ行けない人達のために作った物なので、まあいいか。


 あと、チャイルドシートで子供達を韋駄天弐号に乗せると、大人が乗れなくなってしまうのだ。


 大人は空の便にビビっている奴もいるので、子供は空から行かせたのだが、フォミオの馬車がまた子供には人気なのでなあ。


 あれはどう頑張っても輸送能力は低く、三時間で二往復の、大人の定員がせいぜい九人といったところか。


 元々、あれは俺が歩いて移動するのに限界があったのと、幼女様方のために導入しただけの荷馬車の進化版なのだ。


 あと、勇者達はもう先に村へ運んである。

 彼らの中には自分で屋台をやる子達もいるので、早めに行きたいとのことだったので。


 一応準備はフォミオに頼んで前もって整えてあり、村に輸送しておいたのだし。


 特に高校生なんかの若い子達は学園祭のノリっていう感じじゃないだろうか。

 もう日本ならそんな時期だ。


 王都組は一回で運べてしまう人数だったので楽だった。

 女の子が十二人に、師匠とその相方、そして警官のおじさん二人を招待した。


 陽彩の奴は、ビビって王国から女性をつけてもらうのを断ったそうなので、一人だけだから合計で十七人だ。


 あいつも、せっかく歳が同じくらいの可愛い日本人の子が三人もいるのだから、少しは頑張って彼女でも作ればいいと思うのだが、心にあまり余裕がないらしい。


 まあ、その気持ちもわからんでもないのだが。

 ある日突然に勝手な勇者稼業を押し付けられて、あいつもさぞかし迷惑な事だろう。

 周りの連中まで巻き込んだ形になっているしなあ。


 むしろ、俺や師匠の方が性格的には勇者に向いているくらいなのだ。


 何気に、今日のメンツの中でお相手がいるのが、国護の師匠と俺だけなんだし。

 女の子達、あれだけ可愛い子揃いなのに余り過ぎだね!


 なんだかんだ言って、エア馬車は俺が飛ばすので早い。


 安全を見込んで、慣れない乗客のために揺らさないようにそうたいした速度は出していないが、丸太の強化フレームを持つマルータ号は少々の事ではビクともしない。

 絶対防御の力で護られているしな。


 まるで低速リニヤモーターカーのように滑らかだ。

 車輪がついていなくて宙に浮いていると乗り心地が凄まじいのだ。


 高速になると、今度は空気抵抗の影響を受けて車体がビビるのでアレだが、その辺の話もうちの場合は飛空能力とセットになったシールドなどの恩恵がある。


 十時頃から運び始めて、吊り革に掴まる人も入れると一度に六十人位は乗れるので大量輸送が可能だ。


 ザムザあたりに運転させれば二台以上の運行も可能だが、蟷螂頭だけで運行するのはアレだったので、さすがに本日それはやめた。


 たかが二十キロ程度などザムザ魔核を使用したマルータ号にとっては距離などないに等しいのだ。


 もうバンバン運んで、一時間もあれば主要な人は運べてしまった。

 村の人口はせいぜい六百人位なのだから。


 でもこれ、乗客にお年寄りも多いから、慣れない乗り降りに結構時間がかかるんだよね。


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