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2-68 裏切り者

 これには師匠もキュッと眉を寄せた。


「それは本当なのか、麦野」


「ああ、俺のネームドとなったザムザ1にも確認したが、あいつが魔王の命令で諜報に移ったのは最近でな。

 その前からの話らしく、奴もそいつが誰かは知らないそうだ。


 情報だけはかなり頻繁に細かく受け取っていたらしい。

 何人いるかもわからないが、内容からすると一人では調べきれないし、あちこちの情報が入るらしいので多分複数だな」


 師匠は少し腕組みしながら考え込んでいたが、ややあって訊いてきた。


「それは俺達が来た後か、それとも前か」


 ああ、俺達の中に裏切り者がいるんじゃないかという心配をしているのか。


「ザムザの話のニュアンスからしたら、前じゃないかな。

 はっきりと断言はできないけど。

 あと、その後に魔王軍に唆されて抱きこまれた勇者なんかがいなかったとは断言できん。


 師匠やここにいるような人は割としっかりしてるというか、割り切ってこの世界に馴染んでいるというか、そういうムードはあるけどさ。

 そうじゃない奴なんかもいるわけだろう?」


 特に俺を蔑んでいるような連中は危ない。

 他人を見下すタイプだから、地球に比べたら遅れた世界を蔑んでいる可能性もあるし、あの連中は物欲に弱そうだ。


 女を宛がわれているにも関わらず、女性勇者にちょっかいをかけているのも良くない印象だ。

 そういう連中は魔王軍の仕掛けたハニートラップなんかで容易に転ぶだろう。


 たぶん師匠も同じような事を考えているだろう事は目を見ればわかった。


「わかった。

 王にも相談してみよう。

 もしかすると王は既にご存知の話なのかもしれないが」


「ああ、あの王様はボンクラじゃないから、多分もう知ってる。

 へたをすると泳がせて偽情報くらい流しているのかもな。

 まあ俺の情報なんか魔王に流されたって、王国は痛くもかゆくもないのだろうが、生憎とハズレ勇者さんも日々進化しておりますのでね」


 むしろ、あの当時の情報を流しておいてくれれば「勇者カズホおそるに足らず」という話になっている訳で、魔王軍なんか闇討ちにし放題なんだから、俺としたらむしろ大歓迎だぜ。


 もっとも大幹部を次々と倒してやったわけで、その信憑性も薄まってしまった気もするのだが。

 師匠は軽く苦笑いをしてから、腹に落ちたかのように頷いた。


「そうか、そうなのかもしれんな」


「じゃあ、そういう事なので打ち上げはしたぜ。

 今日はあれこれとくれて、ありがとう。

 いやあ、魔法の調味料はやられたっていう感じだなあ。

 こういう物ばっかりは王の傍にいる人じゃないと手に入らないよなあ」


 しかも、王から『勇者の母』認定されているくらいの人じゃないとな。

 お、ついでに一言だけ言っておこうかな。


「あのさ、今日は王城の泉の部屋に泊まるので、なんかあったらよろしく~」


「はっはっは、お前らもやるな。

 ハズレ勇者がお城の勇者といい仲になって、堂々と城に無断宿泊か。


 まあいい。

 何かあったら、実質的に勇者のリーダーである俺が許可を出したと王には言っておいてやろう。

 陽彩の小僧にもそう言わせておけば盤石だ。


 もしお前が見つかったとしても王は文句を言わないだろう。

 あれが、陽彩が、お前の事を随分と気にかけていた事も王は知っておられるからな。

 むしろ、それで勇者陽彩の陰鬱な心の憂さが晴れるというのなら、王も喜ばれるだろう」


 あはは、そこまでですか。

 師匠もまた随分と王を買っているものだねえ。


 まあ、このおっさんくらいの人物ならそうあるのが当たり前レベルか。

 雑魚おっさんや、糞餓鬼ヤンキーなんかとは人間の出来そのものが違うものな。


「じゃあ、お邪魔しますよ」


「ははは、どうせなら俺と一緒に城へ行くか?」


「ぶははは、さすがにそれはマズイでしょ。

 そいつも面白そうではあるが」


 いや、ちょっと想像して笑っちまったわ。


 誰か、王様のところへ走って御注進か、あるいはシカトか。

 どっちかというと後者かな。


 さすがに不法侵入でいきなり討ちに来たりはせんと思うが、たとえ討とうとしても絶対防御を手に入れた俺には通用せんけど。


「後で陽彩を連れていくから会ってやってくれ。

 あいつは、自分が正規の勇者なのだから、あの時自分が声をかけていればお前を置き去りにしなくて済んだのだと、ずっと自分を責めていてな。


 他の人間には立ち場的に無理だったと後で思ったそうだ。

 そんな物は俺も同罪だと言ってやったのだが、あれはあの子の性分なんだからしょうがない。

 会って、あいつの気持ちに一区切りつけてやってくれ。

 今日はお前に会えてよかった」


「俺の方こそ、あんたからそんな風に言ってもらえて凄く嬉しいよ」


 ありがとう、国護師匠。

 さすがは、みんなの『お母さん』だけの事はあるぜ。


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