2-66 神うどん
「それでは、大量入手に成功した神素材による、うどんスープ教室を始める!」
「「「ハイっ、お母さん」」」
「やめんか、餓鬼ども! せめて師匠と呼べ」
みんなから懐かれているな、おっさん。
それにしても何がどうなってこうなってしまったものか。
異世界は食い物の素材も半端ないなあ。
俺が作りたいのは、村の秋祭りに出す普通に美味しいうどんのスープなのですが!?
「はい、先生!」
「なんだ、薬師丸」
師匠も、もう先生呼ばわりくらいじゃ突っ込まないつもりなんだな。
なんか女子高生相手に先生でも似合っているし、お母さん呼ばわりよりはマシって事なのかもしれない。
あの薬師丸ちゃんは真面目そうな子だが、自然にこのおっさんの頼りになるキャラに惹かれているようだ。
お父さんか年配の先生のように想っているのではないだろうか。
そんな風に頼りになる男性の大人がいてくれるのは、この子達にとってもいい事なのだろう。
泉、坪根濔さん、師匠の三人で精神的な勇者軍団の三本柱なんだな。
肝心の勇者君がアレな感じなんだし。
「どうせなら、うどんにもその神素材を練り込んでみませんか?」
「うむ、そいつはナイスなアイデアだな。
これから寒くなると、このうどんがますます重要な意味を帯びてくる。
あの勇者は少々ひ弱なので冬には風邪を引くかもしれん。
滋養強壮スープに加えて、やはり麺の強化も必要だな」
そういう事ばかり言っているから、みんなからお母さん呼ばわりされるのだが、本人はまったく気が付いていないとみえる。
これは、もう女子会と言えるのだろうか。
いや、お母さんなのだから、俺などよりも遥かに女子なのではないだろうか。
俺から見ても年齢的にはお父さんなのだが。
この人、なんだかんだ言って遠く離れたままだった俺の心配なんかもしてくれていたし、みんなのお父さんなんだ。
そして各人で通常ならありえないほどの量の神素材をふんだんに使い散らして、麺とスープを作っていたところまではいいのだが、おいそこの女子高生グループ。
「なあ、せめて葉は細かくしてから入れないか?
それにその量はいくらなんでも入れすぎなんじゃ。
うどんの粉が麺で出来た繋ぎみたいになっているし、それだとうどんの味がしないんじゃないか。
いくら高級素材だといっても、それじゃまるでスパイスの葉が主体の素材みたいだぞ」
「これぞ、女子高生流の新感覚、神うどんの決定版!
まあそうケチケチしなさんなって。
葉っぱなんか、ハズレさんのスキルでいくらでも増やせるんでしょ」
「まあ、そう言っちゃったらそうなんだがな……」
駄目だ、こいつらには何も期待できない。
たぶん、遊んでいるだけだし。
「泉、俺達は真面目に作ろうぜ。
お前の料理の腕に期待している」
「まっかせてー。
うどん作りは初体験だけどね!」
「なあに、料理はセンスさ」
実は、こいつをあの二人の村長に食べさせたら、少しは体もよくなるのではとか考えているのだ。
ああ、回復魔法を使えるようになったんだから、俺が少し診ようかな。
ポーションって、ああいう経年の加齢的な病気には効かないらしいんだよな。
あれは冒険者だの兵士だのからのご用命の物なのだから。
あ、そういやアレがあったな。
いい事を思いついたぜ。
うちはうどんの作り方はオーソドックスに行く。
「泉、うどん生地はたくさん作っておいてくれ」
「いいけど、どうして?」
「いいから」
この世界には、すりこぎ棒とすり鉢がないので、用いる道具は小型の石臼と石棒だ。
これも調合のスキルの範囲内と見えて、フォミオが完璧な物を作ってくれてある。
これで、まるで火薬の原料を磨り潰すかのごとくに丹念に例の葉を磨り潰した。
さらに別の石臼で木の実を磨り潰し、ペースト状になるまで練り込んだ。
葉を磨り潰した超極微粉末をあのオイルで混ぜ合わせ、それをペーストに加えて混ぜた。
これで神のペーストの完成だ。
こいつは俺も多めに作ってある。
まあ、後でフォミオに頼めばいくらでも作業はしてくれるのだが。
その半分は後でスキルを使って増やせるようにとっておき、その間に泉が作ってくれたうどん生地と、そいつを捏ね合わせる。
そして、更にそのうどん生地も半分に分けた。
「なんで半分に分けるの?」
「決まっている。
こうするのさ」
俺は寝かせている半分の、残りの生地に『虹色の液体』を振りかけた。
やや大きめの生地の塊に、小瓶を丸々一本振りかけてやったのだ。
「きゃははははは、もう一穂ったら。
たくさん生地を作って何をするのかと思っていたら。
あの子達の事を笑えないじゃないのさ~」
「これは別に遊びじゃないんだぜ。
こいつは体を壊している村長達に食わせようと思ってなあ。
食は百薬の長ってね」
「アホやあ、うちの彼氏はアホやあ」
「この小瓶の中身は、そうおいそれとそこいらに出しちゃいけねえ物なんだよっ。
せめて小細工はしないとな」
「それは、そうなんだけどさ。
あーあ」
だが、師匠が不思議そうにこちらを覗きに来た。
「どうかしたのか、お前達」
「あー何でもない、何でもないです」
まだ笑いを堪え切れない感じの泉に首を傾げながら、師匠は自分のうどん作りに戻っていった。
俺はこの生地も半分にして収納へ仕舞っていった。
まあ手前味噌になってしまうが、これこそは体さえ癒す究極の神うどんだね!