2-61 美味しいうどんを食べたい人は手を上げて
「おお、なんとか丸太号は空中分解しないで王都まで着いたわねえ」
泉が、まるで途中で落ちるイベントがなくて残念だったみたいな台詞を吐いた。
確かに二人でタイタニックごっこみたいなのはやってみたかった。
俺達は別にそれで死んでしまうわけでもないんだしなあ。
「いやいや空中分解どころか、飛空のスキルで守られているのもあるんだろうが、まったくビクともしてねえよ。
こいつって無茶苦茶に頑丈だなあ。
まあ家でいえば、丸太の柱と丸太の張りで作った、全体的にも頑丈な田舎の家みたいなものだし。
見かけは少々武骨なんだが。
それに丸太号ってなんだよ。
せめて、こっち風にマルータ号くらいにしておいてやってくれ」
元魔王軍の雑用係が作るものは頑丈だな。
柔な人間が使うものじゃないから、頑丈じゃないと持たないという事なのだろうか。
「だって、どう見てもチャームポイントというか特徴は丸太じゃないの~。
武骨どころか、直径五十センチもある頑丈な丸太で組まれて補強されているもの。
元になった馬車だって、結構堅い上等の木材でできているよね」
「ああ、王都の貴族御用達の馬車店で仕入れたからな。
その辺の安商会が使っているような、柔な代物じゃねえんだ。
内張りの中に厚めの鉄板が張ってあるから、このボディは矢も通さないんだぜ。
その分は重いから、こいつを引っ張る馬が大変だ」
「へえ、まるで装甲リムジンねえ」
「まあこんな馬車を襲撃するとしたら、今の御時世だと魔王軍だろうからな。
中東あたりのロケット砲や対空ミサイルで武装したテロリストと結構いい勝負じゃねえのかな。
いや、やっぱり魔物の方がもっとヤバイかもなあ」
「まあ、空を飛んでいれば割と安心じゃない?」
「空を飛ぶ魔王軍の魔物っていないのかな。
前にいるって聞いた気がするのだが」
この世界の航空兵力ってどうなっているんだろうな。
飛竜隊とかはいないのだろうか。
「ああ、それも魔法で撃ち落とされると被害が甚大なので、一般には使っていないみたいよ。
ザムザやゲンダスみたいに能力の強い大幹部は、空を飛ぶ奴も多いらしいんだけど」
まあ、魔王軍の大幹部のような奴らが大勢いたんじゃ王国側も飛行戦力は使い辛いから、お互いに発展していないのか。
空飛ぶ魔物や魔人はいるから、その辺りは王国の方が不利だな。
勇者サイドの方が空は分が悪い。
宗篤姉妹は本当に大事に使うべきだったね、あと俺もな。
「へえ、空爆っていう考えはないんだ。
そういや魔王は昔の勇者だから、もしかしたら爆撃機とかの存在を知らないのかな」
「さあどうなのかな。
この世界には、君みたいに魔法じゃなくて本物の隕石をぶちこんでくるような人もいるんだしね」
「はは、あれは自分も危ないから最終手段に近いよ。
ザムザクラスだと、あれでも通用しないし。
まあ、あの絶対防御スキル持ちはかなり特別だけどな。
俺達召喚勇者の中にも一人しかいなかったくらいなんだから。
だが魔王軍の中で、他にそいつを持っている奴がいないと限ったものじゃないから要注意さ」
敵にあの能力があると、互角に戦えはするが千日手の悪手となる。
将棋ならば有効な戦術だろうが、こっちは打つ手がなくなる。
今のうちにザムザを実験台に、あのスキルを破る手を考えておくか。
己の弱点を知っておくのも必要だ。
慢心はよくない。
俺はもっと魔王軍の情報を知る必要がある。
「ただ、魔王城上空は強力な飛行魔物が守っているらしいから、空から行くのはまず無理ね。
そこにいるのは、かなりヤバイ奴らなんだってさ。
あたしも、その偵察には絶対に出さないって言われたわ。
魔王城はその地域にある他国が監視しているみたい」
「そんな国、いつ滅んでしまってもおかしくないんじゃないのか?」
「だから相当必死らしいわよ。
自分の国に勇者を寄越せとか言っているみたいだけど、志願して行く人はいないでしょうね。
王国も無理に出すつもりはないでしょう」
「そういう国では自力で勇者召喚しないのか?」
「そういうのは、あの城みたいに特別な場所でしかできないんですって」
「ああなるほど、そうそうおいそれと昔に開かれた次元通路なんかは存在しないという事か。
あそこも昔、向こう側から開いた通路なんだし、新しく次元通路を開けるのは凄いエネルギーがいるだろうしな。
魔王も間抜けだな。
俺ならその手の城はずっと見張らせておくのに」
「そういう連中は真っ先に人間の軍に狩られちゃうそうよ。
人間側も必死だからね」
「そうか、だから何かあった時にはフォミオみたいな隠密タイプが派遣されるんだな。
まあ、あれは完全にミスマッチだったけどな」
そして俺達は王都付近でテスト飛行を終了して、自前の飛空スキルで王都へと入った。
俺は泉が取ってくれた、キッチン付きの大人数旅行者用の大部屋で他の女の子達を待つ事になった。
ここも王城に近い場所にあり、ほどなくして、女子会の面々が続々と集まった。
「ヤッホー、ハズレ君。
元気してた~」
「ああ、一応な。
それと俺の名前は麦野一穂だ」
「もう、姶良ちゃんってば失礼でしょうに。
こんにちは、麦野さん。
この前はいろいろくれて、ありがとう。
今日はうどんの企画なんですって?」
「ああ、みんなで美味しいうどんを考えて、作って食おうぜ」
「いいですね、うどん。
たくさん食べますよ」
「ああ坪根濔さん、こんにちは。
それはいいんだけど一応スープのネタはくださいな。
まだ味噌も溜まりも無くて、どうしようもないんだ。
昆布もカツオブシも日本料理の素材が何にもないですしね」
「まあ、うどんですから、なんとでもなるでしょう。
でも私はラーメンが食べたいのですよ」
そいつには俺も激しく同意するね。
じゃあ、お願いだからあなたが作ってくださいな。
「ねえ、むしろラーメンの方がスープもなんとかなるような気がしません?
醤油や味噌がなくても、なんとかなりそうな気が」
「うーん、薬師丸さんの言う事も確かなんだが、まだ潅水の用意ができていなくてさ。
錬金素材を今うちの商人に集めさせているから、そのうちには麺だけでもフォミオに作らせようと思っているんだ。
今度ビーフンにも挑戦しようと思ってる。
焼きそば麺も捨てがたいけど、それを言ったら、それができるくらいなら同じようにしてラーメン生地もできちゃいそうだしなあ」