2-60 初ドライブデートは決死のドライブ?
結構エアカー用に取って来た丸太が余ったので、他の眷属と一緒に大型の丸太小屋を建てていたフォミオに声をかけた。
「フォミオ、バスの具合はどうだい」
フォミオは、小屋作りの作業を中止して説明してくれる。
バス作りに小屋造りとフォミオ監督は大忙しだ。
他の祭り関連や、子供達の出し物の監督も頼んであるしな。
従者の力は万能です?
「ああ、なんとか強度は確保できたようでやす。
ゲンダスが真ん中で持ち上げても両端はへし折れたりはしやせん。
一応、内外装はやり終わってますんで、ここまででOKならばほぼ完成でやす。
今のところ、造りはしっかりとしていて、前のように折れてしまうような事はござんせん。
後は宙に浮かべて耐久性がどうなのか、実際の飛行テストをしたいでやんすね」
頑丈な丸太フレームのアイデアは、なんとか成功したようだった。
「そうか、じゃあ今からこれで王都まで行ってみるよ。
乗るのは俺と泉だから、万が一壊れて落ちてもどうってことはない。
ここまでの部品は万倍化でキープしてあるから、どこからでも簡単に作り直せるしな」
「そうでやすか。
じゃあ、あっしは小屋造りと並行して、他の祭り関連の方をやっておきやす。
子供達も皆お祭りを楽しみにしておりやすよ」
「ああ頼むよ。
今から王都で『全日本勇者連合うどんスープ会議』を開催しにいくところさ」
「そりゃあ、楽しみでやんすな。
では期待して待っておりやすよ。
勇者様ご一行バンザーイ」
期待の眼差しで見送ってくれるフォミオに手を振りながら、俺は王都へと急いだ。
この飛空バスって大きいし丸太小屋っぽい雰囲気もあるから、小屋代わりにするとか、改造すれば祭りの時に出す臨時の店代わりなんかにも使えるよな。
「うわあ、なんか緊張するわね」
「お、おう。
なんたって落ちる事が前提の試作機だからな。
脱出できる時間が長い、高い高度の方がテスト飛行には向いているかもな~」
「ありえない、ありえないわ。
テストに参加する人が飛行能力を持っている事が前提で、落ちる事が当たり前という考えでテストする飛行機械なんて」
「でも実際に目の前にあるもんは仕方があんめえ。
まあ、いざとなったら、俺が君を抱いて絶対防御のスキルで守ればいいさ。
別に宇宙船みたいに大気圏突入テストをするわけじゃないんだからさ」
「まあ、そう言っちゃったらそうなんだけどさ。
こういうのも日本じゃ味わえない、異世界ならではの醍醐味……なのかしらね」
「まあ、飛行能力を持つ勇者同士のカップルで、そう固い事は言いっこなしさ。
ひゃっほう、こいつは日本でさえ持っていなかった『愛車』なんだぜー!」
「そういやこれって、そう言えない事もないわよねえ」
そういう訳で、俺達は『いつ落ちるのかわからないというオプション』付きで、大空のドライブをする事にしたのであった。
まあ確かに日本じゃありえないよな。
「へえ、ちゃんと丸いハンドルがついているのねえ」
「ああ、アクセルペダルにブレーキペダルもな。
これはそれぞれの部品の動きが何を現わすのかを、前もって魔核と打ち合わせをしてあるだけなのさ。
ここをこう動かしたら、こう動けっていう感じにね。
とりあえず、上昇や下降は飛行機と同じにしてあるんだ。
いっそ操縦桿の方が動かしやすいかもね。
まあ、音声入力による『お任せ自動運転』もなんかありのコースだ」
「あっはっは、もう全部インチキなのね~」
「そりゃあインチキだよ。
だってこんな異世界で、普通に飛行機や自動車みたいな機械が作れるわけがないじゃないのさ」
「そりゃまあ、そうよねー」
「よし、上昇するぜ。
こいつはザムザの飛空スキルパックで守られているから、そうそう無理な力がかかる事はないし。
村の間を運行する時には高さ数メートルの高度をゆっくり飛ぶだけだから、万が一落ちても致命傷を受ける事はないと思う。
一応、何かがあった時には、魔核が緊急停車させて安全に道に着陸させるようになっているんだ」
「へえ、本当に自動運転車だね」
「まあ、一応何かがあってもいけないので、当日は俺が運転する予定なんだけど」
「そうね。
せっかくの楽しい祭りの日なんだもの。
安全第一でいきましょ」
そして、俺達はあれこれと激しい機動を試してみたが、丸太作りの空飛ぶバスはビクともしなかった。
まあ、そのために太くて真っ直ぐな丸太を厳選させたのではあるが。
ちなみに丸太を切った跡地には、エリクサーを使用して回復させた、元通りの大木が青々とした葉をそよがせている。
植林は大事な事だよな。
植えてはいないけれど。