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2-57 必殺のアイテム

 庭では、というか家の周りのかなり広い空き地で、俺とフォミオは少し大掛かりな工作をしていた。


 例の子供会のメンバーである幼児達は、見学のためにカイザの家の木製デッキの手摺りに鈴生りである。


「ねえねえ、何が出来るのー」


「それは出来てからの、お楽しみー」


「えー」


「へっへっへー、これは『あの壺』じゃあないけど、いいものなんだぜー」


「ううー、待ち切れないー。

 教えてー」


「ふふう、内緒ー」


 もちろん、その筆頭はナゼナニ幼女アリシャさんなのだが。

 お姉ちゃんの方は俺が各所で回収した薪になる手頃な木を縛る作業をしながらの見学だ。


 これはたくさんあってもカイザの収納に入れておけば邪魔にならないので。


 他の祭りの準備をしたい子は、これを家に収めればお手伝いは免責なので、マーシャと一緒になって縛り上げている。


 今開発しているこれは、この村始まって以来の『大量輸送機関』なのである。


 合同で祭りを行うといっても、現地開催のベンリ村とは異なり、この村から行ける者は限られてしまう。


 残った人で、スケールダウンした催しをやるので、そっちは少し寂しくなってしまう。

 だから、中には今回の合同祭りには反対意見を唱える人もいるようで、そのあたりは賛否両論であった。


 その気持ちは俺もよくわかるが、この最果ての村で滅多にないイベントである祭りを、少しでも賑やかに行いたいという村の意向も理解できる。


 というわけで、なるべく多くの参加を見込むために『飛空車両』を作ろうという訳だ。

 材料はザムザ魔核と、王都で仕入れてきた大型馬車がメインだ。


 その万倍化した馬車を切り取って加工して何個も繋ぎ、空飛ぶ列車のような物を作るのだ。


 生憎な事に、列車のように連結して飛ばす事はできないが、かつてないほどの大量の人間を乗せる事が可能だ。


 中には木製ベンチを両サイドに置いて、吊り革も用意するので電車スタイルだ。

 サイズも電車の車両一台分程度を目標にしている。


 吊り革やポールにも掴まれば、満員電車状態で六十人くらいは優に乗り込めるのではないだろうか。


 まあすぐ隣の村までだし、別にマッハで飛ぶ必要もないので、その程度の作りでもそう困るものではない。

 とりあえず飛行テストをするために試作車両を作ろうというものなのだ。


「みゃうーん」

「うみゃあ」


 新乗物の完成が待ち切れない子猫達が鳴きだしたようだ。


「にゃあーん」


 俺も鳴き返しておいたが手は休めない。

 村の鍛冶屋も、大銀貨を用いて貸し切りで徴用しているのだ。


「こんな感じでどうかのう」


「うーん、やっぱり連結が弱いかなあ。

 ほら、触って少し押しただけで動く。

 これだと宙に浮かべるとすぐ壊れそうだ」


 俺はそっとそいつを浮かべてみたが、すぐに三台連結した馬車の前後車両の重みで、べきべきと鉄製の金具で繋いだ木製部分が割れて留め金具も飛んでしまった。


「やっぱり駄目なのかのう。

 このような重すぎる物を繋げて宙に浮かべるには部品がちと柔すぎる。

 やはり、この重量を金具で留めるのは、ちと難しいのではないか」


「うーん、ここは連結金具の形状から見直してみるか。

 こんな感じでどうだ」


 俺が描いて見せた、うろ覚えのデザインを見て、うーむと唸りながら腰を上げる鍛冶屋の親父。


 鍛冶屋に戻って勘考してくれるようだった。

 材料になる、俺が作った日本の高品質の鉄材は渡してある。


 フォミオは丁寧に次の試作弐号の車両を作成していた。

 切断してから組み合わせる形状から見直してみたのだ。


 元々強引に作る、ストレッチド・リムジン飛空列車だからな。


 これが通常の地上付近を走るエアカーのようなリムジン車両ならば負荷も少ないのだが、村長への体への負担の加減や、当日歩いている人とぶつからないように少し高度を上げようと思っているので、へし折れないようにしないといけない。


 あーでもない、こーでもないとブツブツ言っている俺にマーシャが作業しながら不思議そうに声をかけてきた。


「カズホったら欲張りすぎるんじゃない?

 それ一個だけでもなんか凄いし十分だよ。

 なんで無理して繋げるの?」


「えー、だってある程度の人数が乗れないと、村の人を運び切れないじゃないの。

 それだと作る意味がないんだ。

 運転手は基本的に俺一人なんだしさ」


 そうじゃない運用にできない事もないのだが、少し躊躇われる理由があるのだ。


「カズホ様、もういっそ丸太で外部を補強して繋いでしまっては。

 あるいはすべてを丸太で組んでしまわれるのもありかと。

 別に王様を乗せるわけでもないでやんすしね」


「う、そう言われれば返す事もないのだが。

 うーん、ちょっとそいつも考えるかあ。

 こいつを全部繋ぐような大きな鋼材は、村の鍛冶屋の親父さん一人じゃ、とても作れないしなあ」


 あの森で手に入れた巨大な鉄材もあるが、あれは硫黄分を分離収納してしまった残骸なので、中がくまなく()だらけで強度がないため、結局は鍛冶屋さんの御世話になってしまうような物なのだ。


 部品を王都に特注するという手もあるのだが、試作で早く使いたいのに、いつ出来上がるかわからないのが困る。


 炎の魔人でもいたならば魔力鍛冶もやってやれない事もないのだろうが、生憎とそのような人材はいないので。


「全部丸太で組むのもなんだ。

 とりあえず折衷案として、中は豪奢な馬車のままにして外はワイルドテイストな丸太補強で作れないものかな。


 フォミオ、ちょっと山へ丸太を取りに行ってきてくれよ。

 ザムザ1、ゲンダス1、フォミオのお手伝いしてあげて」


「ふ、このザムザ1に任せられい、カズホ様」


「我がマスターよ、このゲンダス1が確かに請け負った」


 子供達も、この数日ですっかりうちの眷属(元魔人)を見慣れたようだった。

 虫と蜥蜴なんて、特に男の子は好物だしなあ。


 しかしまあ、魔王軍の元大幹部が、こんな辺境の村で人間のお手伝いとかしているのを魔王が聞いたら、なんて思うのかね。


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