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2-55 社会見学

 というわけで、まずはメインストリートのお店ツアーからだ。


 この子達の中には靴屋アルフの主人みたいに、将来この村で仕事をするようになる子もいるかもしれないので社会見学も兼ねて。


 行くのは当然、真っ先に馴染みの靴屋さんだ。


「ちは~」


「おお、お前さんかい。

 おやまあ、今日は子供がいっぱいじゃな。

 お前達、危ないから勝手にあれこれ触らんように」


 目を輝かせて、置かれていた道具に手を出そうとしていた子が慌てて手を引っ込めた。


「はっはっは、道具に触りたいのなら、こっちにおいで」


 そう言ってブートンは彼を招き、椅子に座らせた。


「お前さんはもう大きいから、この革切り鋏を持たせてもいいだろう。

 この革は端材だから好きなように切ってもよろしい。


 どうだ、どうせならこの型に沿って練習で切ってみなさい。

 真摯に修行して腕を磨くなら、革職人はどこに行っても食っていけるぞ。

 わしもそうじゃったが、あのアルフ村ではすべての子供が満足に食っていくことは難しいからのう」


 そう聞いて、えらく真剣に取り組むその男の子。

 茶色の癖ッ毛で雀斑のある子で、同じく茶色の瞳を手元に集中させている。

 素晴しい集中力だな、この手の職人には必須の能力だ。


 この子はベンリ村で働きたいのかもしれない。

 あの村じゃこういう体験も出来ないからな。


 いっそ、アルフ村に簡易な職業訓練センターでも作るか。

 所長はもちろん、うちの雑用万能勇者のフォミオ大先生だ。


 勇者が暇な時なら、女性勇者を王都から講師に招いてもいいな。

 縫物・編み物・イラスト・料理・お菓子作りなどなどの科目でね。


「ほお、なかなか上手にできたじゃないか。

 お前さんは筋がよいな。


 よかったら、来れる時にうちにきなさい。

 わしでよければ基本を教えてやろう。

 革の扱いを覚えると、仕事は靴だけではないぞ。


 大きな街で働くのなら、武具屋やその修理職人の仕事、冒険者ギルドなどからの革服の依頼もあるし、いい腕をしていればその手入れさえ任される事がある。


 皮革製品関連の仕事は都会なら仰山ある。

 職人ギルドに入れれば、食うにも困らんし独立する夢もあるじゃろう。


 わしは生まれ故郷を遠く離れるのは嫌なので、ここで小さな店を構えておるがな。

 どうじゃ、後はお前さん次第じゃ」


「本当? いいの?」


「ああ、いいとも。

 どうじゃカズホ」


「ああ、俺は構わないよ。

 フォミオ、この子がベンリ村に来る時は送迎してあげなさい」


「はあい、そうしやしょう。

 よかったですねえ、ソムル」


「うん、ありがとう~。

 僕は三男だから早めに仕事を決めないと、そのうちには家を出ていかないといけなくなるから」


 どうやら、早くも進路が決まった子がいるようだ。


 いやー、異世界もなかなか厳しいなあ。

 あの最果ての過疎の村では特にな。


 お次は洋服屋だ。

 この村のメインストリートには服屋さんが二軒ある。


 片一方は綺麗な子供服や比較的お洒落系の若向けの服を売っている店で、また値段もそれなりにするのだが、当然の流れで俺はもっぱらこっちで買うわけだ。


 そして、もう一軒はなんというか実用一点張りで、こっちはあからさまに地味系だな。

 どちらかというと年齢的には、いわゆるアッパー層を中心としたお客さんがお買いになる店だ。


 子供服なども置いてあるが、地味で本当に実用というか普段使いというか、そういう物で見事に客層が別れる構成となっている。


 カイザは当然こちらの店の常連で、当然のようにあそこの子もこちらの服を着ていたのだ。


 あの子達は最近に限れば俺の土産を着ている事も多いので、村の人間からも「そういえば、あそこの子は農民の子じゃあなくって騎士の子供だったよね」などと今更のように言われていて笑える。

 主にカイザがな。


 まず一軒目は地味な方の品揃えのお店から。

 それでも子供達は熱心に商品を見ていた。

 こっちの店の商品が、いつも自分の着ているような服だからな。


「やあ、すいませんね。

 今日は村の子供達をたくさん連れてきたので」


「いえいえ、ごゆっくり。

 まあこんな辺境地域ですから、そうそう村の外からお客さんも参りませんのでね」


 そして、子供達の服にかなりツギハギが増えていたのに気が付いたので、各自一着ずつ選ぶように言った。


「スカートやズボンの子は、上下で一式ね。

 ワンピースの子はそれと上に着るようなカーディガンなんかも一緒に買っていいよ。

 もうすぐ冬だから厚めの服がいいんじゃないかな」


「わあ、ありがとう、カズホ」


「嬉しい。

 冬のいい服がないんだよね」


「ワンピースの方が可愛いの」


 子供達には荷物を入れるような、フォミオに作らせておいた手提げ鞄を持たせて、それから隣のお洒落な店へと向かった。


 そちらはまた皆が熱心に見ていたので言ってある。


「こっちも村のお祭り用にまた一着ずつ買っていいよ。

 今年は盛大なお祭りだから、みんなも御洒落をしていこう」


「本当~!

 ありがとう~、カズホさん」


「こっちは秋物にした方がいいかもな。

 お祭りは熱気があるから冬物だと汗をかいちゃいそうだ。

 お祭りなんかは、また来年もあるしな」


 こっちの店は俺が常連なので、向こうから声をかけてくれる。


「やあ、カズホ。

 今日は賑やかですな」


 ナイスミドルといった感じの口ひげを生やした四十歳くらいの店主ナイーザが話しかけてきた。


「ああ、なんか最近仲良くしている村の子達でね。

 まあ社会見学みたいなものでして」


「そうですか、じゃあ買う服が決まった子からおいで。

 サイズ合わせをしてあげよう。

 作業が見たい子は見学していきなさい」


 これには何人かの女の子が手早く選んで、見学のために待っていた。


 どうやら洋裁は職業として人気が高いようだ。

 まあ裁縫なら鍛冶屋ほどの高等スキルは必要ないだろうしな。


 裁縫だって極めて行けばかなり厳しいのだが、入門は女の子でも比較的楽だと思う。

 あの村にいると一生最果ての村で農民生活だものね。

 

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