2-54 子供会
「「「「ひゃっはー!」」」」
風を切って奔る韋駄天弐号の走りに、お子様方がみんな大はしゃぎだった。
まあ、初めて観光バスに乗るようなものだからな。
しかも、このあたりではぜったいに見かけないような最新型の超高級荷馬車なのだ。
このオープンな感覚がいいんだよな。
足元は舗装されていて、この馬車の足回りならば快適な乗り心地だ。
フォミオも楽しそうに軽快に引きまくっていた。
馬車が高性能なので、体感速度では時速三十キロは出ているのじゃないかと思えるくらいの速さだ。
まだ初秋の時期なので、今日も温かいから、これくらい風を切っても爽快そのものだ。
まあフォミオの場合は、俺が何か言う必要など欠片もないほど心得ている奴なので、安全には非常に留意してくれているのもあって、すべて安心して任せておける。
「はやーい。
これじゃ、あっという間にベンリ村まで着いちゃうね」
「まあな。
でもこれは下の路面が石畳になっているせいだからね。
ベンリ村から向こうは遅くなるよ」
「なんでその向こうは舗装しないの?」
「ここから先はいろいろな部署で許可を貰わないとね。
これがまた面倒くさいのさ」
本来なら街道なんて代物は個人が整備するようなものではない。
お役所が税金の中から工事を発注して整備するものなので、そういう手続きそのものが存在しない。
通常なら、特別に領主の許可を取らないといけないのだ。
そのためには多分ビトーまで行かねばならないだろう。
あそこ以外に、この方面では他に辺境の街はないようなので、あの街の主以外の領主はいないはずだ。
アルフ村は特別な土地なので、おそらく国の直轄地だから、ここは国が呼んだ召喚勇者の縄張りだとか屁理屈を捏ねようもあるのだが、さすがに広域な辺境を預かるような大貴族に出てこられると、街道筋にある各村に迷惑がかかってしまう。
たとえば、俺が英雄扱いされているビトーの街の重鎮などは文句を言わないと思うのだが、必ず上の方の面倒くさい奴が出てくるはずだ。
今は空を行く事が出来るようになったので、俺もビトーまで石畳の街道を敷く事にはそう執着していないのだ。
「ふうん」
それを聞いたマーシャお嬢様は少し御機嫌斜めのようだ。
普段は割と大人びた感じの口を利きたがるのだが、ビトーの街へ行きたくて仕方がないのだから。
もうすぐ冬になっちまうな。
この辺はまだ気候がさほど厳しくはないし、王都も東方面で緯度が変わるわけでも厳しい山岳地帯というわけでもないため似たような気候だが、さすがに冬は子供を連れていけない。
飛空のスキルには自動で温度を調節してくれる機能も付随しているマルチ・スキルなので、空から行けない事はないのだが。
「今日はベンリ村で遊ぼう。
そのうちにビトーや王都にも行けるさ」
「本当? 約束だよ」
「ああ、勇者カズホは嘘をつかないよ」
「ようし、じゃあ楽しみにしておこうっと。
それよりも今日の女将さんの宿で出る御昼御飯は何なのかな」
「ああ、そいつは俺も楽しみだよ」
風を切る事四十分、韋駄天弐号の初営業運転は無事に目的地のベンリ村を捉えた。
「お、時速三十キロフラットってところか、やるなフォミオ」
「おそれいりやす」
「いや、今日の荷馬車は速さも乗り心地も最高だったねえ。
フォミオ君、ご苦労様」
フォミオを労いながら優雅に馬車から降りてくるゲイルさん。
子供達はとっくに飛び降りてキョロキョロしていた。
「ありがとうございやす。
それではいってらっしゃいませ、ゲイル様」
もう村の重鎮からもお褒めのお言葉をいただけるようになった、うちの魔物従者。
俺も主として鼻が高いぜ。
「今日も帰りの時間は、ゆっくりする予定ですが大丈夫ですか。
村に急ぎの用事が村に残っているんだったら、フォミオに言ってください。
送らせますから」
「ああ、大丈夫だよ。
わしもたまにはゆっくりしたいし、ここで祭りをやるのだから、あちこち挨拶にも回りたいしね。
わしは村長ではないから、こちらの方々とはさほど面識もないのでな」
「そうですか、じゃあごゆっくりどうぞ。
何かあったら、その都度俺に言ってください」
「ありがとう、カズホ。
じゃあ」
「いってらっしゃーい」
それから気がついて、子供達に一言だけ言っておいた。
「あ、子供達。
ここでは団体行動ねー、勝手に出歩かないように。
あと、かくれんぼは禁止だから」
これがアルフ村なら狭いし、特に行くところも森以外にないので、そうそうどこかへ行ってしまう心配はないのだが、ここでどこかに行ってしまってなかなか見つからないとかになると、また面倒だ。
まあその時は、エレに頼んで精霊を召喚して捜索隊でも組むかと考えているのだが。
子供会の幹事ともなると超大変だぜ。
なんといっても、よそのお子さんを預かるのが一番問題なのだ。
うちの小チビ二人だけなら、なんという事もないのだがな。