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2-51 黄金の季節

 季節は秋に差し掛からんとしていた。

 だから初秋の風並みに、村の畑には揺れる金の稲穂の絨毯が輝いていた。


 それはヨーロッパの絵画などでも御馴染みの風景で、まるで黄金を敷き詰めたかのような美しさだ。


 俺の名は麦野一穂、そして召喚勇者としてのスキル名は本日一粒万倍日、言葉尻だけであるならば、秋吉だの万年豊作だのとほぼ同様の意味といってもいいような言葉なのだ。


 この牧歌的な風景が嫌いな訳はなく、まるで心が洗われて行くかのようだ。

 これが、この砦の代用を果たす村の命をこの先一年支えていく、尊い成果なのだから。


 この大昔の戦地アルフェイムの地であるが故に必然的に発生したとも言える、あの伝説級の超大型ネスト。


 それも、この村があったおかげでハズレ勇者といえども、仮にも召喚勇者たる者がここに留まり、本来ならあるはずのない奇跡が起こり、王国を脅かし魔王の高笑いを響かせるはずだった魔物の巣は見事に討滅されたのだ。


 それは、ある意味でこの村の功績であるといえよう。

 この国の王さえ見捨てた俺を、今や魔人と対等に戦える者になるほどに、この村が下支えしてくれたといっても過言ではないのだから。


「村は、もうすぐ収穫祭かい?」


「ああ、うちは農家ではないが、この村でただ一人の王国役人で、ただ一人の騎士なのだ。

 縁あって暮らす事になった村の繁栄を見届けるのは、俺としては非常に喜ばしい儀式なのだ」


「そうだよなあ。

 王国正式の役人なんて、そうそう小さな村にはいないんだから。

 おまけにハズレとはいえ召喚勇者付きなんだぜ。


 勇者カズホの、もっとも困窮と苦難に満ちた時期を暖かく幇助してくれた、このアルフ村に栄光あれ。

 まあ主食が焼き締めパンなのが玉に瑕かな」


 それを聞いてカイザは満足そうに、しばしその黄金の光景に見惚れていた。

 そして彼の娘がフォミオにまとわりついて楽し気な声を上げている声が聞こえていた。


「おや、どうしたい。

 やけに楽しそうじゃないか」


「今から三輪車なのー!」


「本日、華麗に街道で三輪車デビューなのです」


「あっはっは、そうだったか。

 いやあ、最初に三輪車を発明したのはどこの国だったのかなあ」


 俺も出発まで一緒についていったが、フォミオが両手に持っていた三輪車を村はずれの街道の端で下ろしてくれ、それをきこきこと一生懸命に漕いでいく二人を見送って、俺は思わず微笑んでしまった。


 フォミオが一緒だから、二人が疲れたら収納から出した韋駄天壱号で回収してくれるだろう。


 三輪車か。

 ヨーロッパあたりの馬車だって二輪と四輪くらいしかなかったのだ。


 もっと数の多い物もあったのかもしれないが、三輪馬車はなかったような気がするのだ。


 一体、オート三輪みたいな動力付きの三輪車は、どこで最初に考えられ作られたものなのか。


 まあ、今この世界には子供の三輪車でいいのなら、それについて知識のある奴はゴロゴロといるので。


 少なくとも、その中の一人には実際に作れてしまえるような雑用・職人仕事の天才のような従者さんがいた、というお話ですわね。


 もっとも奴は完璧主義なので、今日まで慎重に仕上げと調整をしていたから子供達はお預けを食っていたという訳なのだが、そのお蔭で齧り付き待遇での製作過程見学なども楽しめて、二度美味しいという訳だ。


 この世界で王子や王女でさえも享受できぬ、この子達だけの特権なのだろうな。


 王様も案外とすげないものだ。

 カイザなんか、もういっそここの領主にでも任命しておけばいいものを。

 どうせ冷や飯食いを拝命中の身なんだからよ。


 こんな村、本来ならあってもなくてもそう変わらないのだしなあ。


「是非とも、ここを治めたい!」という貴族も、他にまずいないだろう。

 むしろ、その反対なら貴族全員が手を上げそうだな。


 こんな村を拝領するなど、どこからどう見ても左遷にしかならないし、やっぱり王様も人を見て仕事をしているんだなと、つい思う。


 いっそ手切れ金代わりに、俺を領主にでも取り立てておけばよかったのさ。


 一応この俺とて、あの廃城・麦野城の城主ではあるのだが(勝手に拝命)。

 あ、今度暇だったらあの城の手入れでもするか。


 材料の石など、スキルでいくらでも増やせるし、城の石材も中が傷んでいないのなら表面を削って表面を装飾するのもいい。


 ピラミッドだって表に綺麗な石を張って装飾しているのだからな。

 まあそういう事をすると、経年劣化で段々と剥がれてくるのが玉に瑕だ。


 上等な石は、墓泥棒に皆剥がされてしまったようだし。

 せっかくお宝を捜しに来たのに、見つからなくても手ぶらじゃ帰れないわな。


 そして、あっちの方面の街道を城まで整備しておけば、片道四十キロくらいなら時速二十キロ以上は出るフォミオ馬車なら日帰りさえ可能だ。


 うちのお姫様達の素敵な御城にしてやるのもいい。

 カイザ家の別荘だ。

 あそこも、お父様の仕事の巡回コースに入っているのだろうしなあ。


 まあどうせ王国も、あと最低でも数十年くらいは見向きもしないだろう。


 もう、その時分には俺達召喚勇者やカイザの子供達なんかも、へたをすると全員寿命で死んでいるかもしれない。


「よし、久しぶりに、あの城でも見に行くとするか」


 俺はザムザ魔核の飛空スキルを用いて、あの城まで一ッ飛びした。

 近距離飛行の航空機と同じで、距離が短すぎてマッハで飛ぶと城を通り越してしまいそうだ。


 往復八十キロなんて地球の大きな飛行機だと、巡航高度や巡行速度まで達しないうちに降下しないと駄目なんじゃないだろうか。


 車や電車で小牧からすぐの名古屋から西三河の大型都市までがそのくらいの距離だ。


 名古屋からだと、静岡あたりなんて飛行機を飛ばしたってしょうがないもんな。

 空港まで行く時間と待ち時間の間に、高速で車を飛ばせばもう着いちまうよ。


 名古屋から飛行機で行くのなら、最低でも東京大阪よりも向こうじゃないとな。

 あとは松本空港あたりだな。

 あそこまで空の便があるのは本当に便利だ。


 あそこ近辺にある軽井沢その他の素敵な観光地まで遊びに行こうと思うと、車なら名古屋近辺から三時間から四時間はかかる、かなり遠目のコースなんだから。


 あの辺は東京人の日帰り別荘の縄張りだからね。

 名古屋人なら、ひるがの高原あたりの感覚だろうか。


 名古屋の空港から飛行機なら、へたに仙台・青森や九州なんかへ行くよりも、もっと遠くの沖縄や札幌へ行く方が便利だからな。


 でも花巻空港なんかにも便があるのは悪くない。

 ああ、あそこの名物である皿蕎麦とかを食いたいなあ。


 少し東へ足を延ばして、遠野見物がてらに東北の海の幸を楽しむのも悪くない。

 あんなとこ、名古屋から車で行こうと思ったら大変過ぎる。


 名古屋はマイナー路線の名古屋飛行場と、メジャー路線の中部国際空港があるから、しがない一地方都市としては空の便は凄く恵まれている。


 日本にいた頃に、もっとあちこちに遊びに行っておけばよかった。

 もう二度と行けないところばかりだ。


 名古屋飛行場はビジネスジェットの空港として日本で初めて本格的に整備されたし、日本一のヘリコプター基地とも呼ばれている。

 空自の輸送部隊の基地でもあり、発着の管制も自衛隊が行う。


 固定翼機との連携が空港内で可能な事と、日本の中央にあるため東西の空の要衝でもあるので災害時における空の大交差点でもある。


 そのため、災害時には日本で一番大きなヘリポートである東京ヘリポートさえ凌ぐ重要基地となるのだ。


 もちろん大金持ちならば、ビジネスジェット使用なら平時でも使い勝手は凄くいい空港となる。

 大阪や東京の真ん中にあるので、ここからなら海外から来てもどっちへ行ってもいいしね。

 むしろ快適な日本の新幹線の旅まで楽しめる。


 何がいいって?

 思いっきり田舎だから空の便も大阪や東京みたいに過密してないので、発着が自由自在だからなあ。


 今の資力なら俺だって空港起点で豪遊できそう。

 生憎な事に自力でもっと早く飛べちゃうけどなあ。


 このアルフ村なんか田舎という呼び方さえ面映ゆく感じるくらいド田舎なんだから。


 ああ、くそう。

 なんだか無性に日本へ帰りたくなってしまった。


 できれば、ここと日本が自由に行き来できると最高なんだが。

 まあ交通不便なこの異世界で、自らが飛行できるのは死ぬほど便利だ!


 日本じゃ、とてもこうはいかないぜ。

 ここには航空管制もなければ航路も存在しない。


 他に人間で飛んでいる奴らといえば、宗篤姉妹と愛しの泉ちゃんくらいのものなのだから、あの子達なら出会うのは大歓迎だ。


 そのうち情報が入ったら、あの姉妹を探しにいかないとな。

 通信宝珠の子機を渡しておかないといけない。


 あの子達は、こっちから頼みもしないのに、日本への帰り道を捜してくれているので本当に助かるぜ。


 その他に空にいるとしたらおそらく魔人なんで、見つけたらはたき落として俺の魔核コレクションに加えてやるか。


 その時には、この世界最高のコレクションに加えていただけて、ありがたく思うがいいさ。


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