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2-49 騎士カイザへの土産

「よっ、ただいまあ」


 そして例によって家の前のデッキの手摺りにぶら下がり、今か今かと俺達の帰りを待ち構えていた幼女達が、フォミオの引く荷馬車を見つけると一心に駆け寄って来た。


「お帰りー、遅かったね!」


「ずっと待ってたんだよー」


 だがカイザは苦笑して挨拶をくれた。


「ビトーまで行った割には随分と早かったな」


「お父さん、ちっとも早くないよお」


「そうだよう、待ちくたびれたよう」


 俺はそんな子供達の頭を撫でて、カイザに言っておいた。


「そういや、ビトーでまた魔人が出たぜ」


「何っ、それでどうした!

 何の魔人が出たのだ」


「魔人ゲンダス、水龍のゲンダスだ」


 それを聞いてカイザは唸った。


「そうか、奴は確かザムザと近しい魔人であったと記録にはあるな。

 それでどうなった?」


 俺はにっこりと笑って、身に着けていたゲンダスの水色の魔核を手にして、御土産代わりにカイザへ見せつけた。

 それを見て彼も些かゲンナリしたようだったが、俺を労ってくれた。


「そうか、倒したか。

 さすがは召喚勇者だな、御苦労だった」


「なあ、ちょっと見てみな。

 こういうの、俺達の世界では水芸っていうんだぜ。

 よっ」


 俺はゲンダスの水色魔核をホルダーに戻すと、両手の先からピューっと水を吹き上げてみせたが、それはまだ日の角度の浅い朝方の太陽の光と相まって小さくて綺麗な虹を二つ創り出した。


「きれーい」

「わあ、虹さんだあ」


 だがカイザは目を丸くしている。

 明らかに魔人の能力なのだと思っただろうが、今までこういう話を聞いた事もないのだろう。


 俺だってゲンダスと出会わなかったら手に入らなかった力だからな。


 そして次にザムザ魔核の力でその虹を細切れにしてみせ、そして体を浮き上がらせてホバーリングしてみせ、追いかけてくる子供達と空中鬼ごっこをして遊んだ。


 それを見て、またしてもカイザの溜息を誘った。


「いや、お前。

 まあいいけどな。

 しかし、我が王は何と言われるものか」


「なんだよ、王都に報告するのかよ」


「それが俺の義務だからな」


「ちぇっ、わかったよ。

 最初に言っておくが俺は王様のところなんかへ行く気はないからな。

 まあ行きたければ王都なんか、もういつだって行けるんだが。


 とりあえず、お前に幾つか渡しておく物がある。

 この収納袋に入れてあるから確認してくれ」


「ほう」


 少し疑惑の眼差しで袋からカイザが取り出したものは、まずエリクサー。

 それを手に取ったカイザは固まってしまい、あたりに激しく沈黙の帳が下りた。


「こ、これは何だ。

 ポーションの一種に見えない事はないが、この虹色の燐光のような耀きは、まさかあの伝説の! 

 いやそんな馬鹿な、そんな事はありえん話だ。

 しかし」


「くっくっく、やっぱりこいつの事を知っていたんだな。

 さすがは王都の有力貴族出身にして王国監視官である騎士カイザ」


「なんだ、その話をビトーで聞いてきたのか。

 しかし本当にエリクサーなのか。

 うわあ、この中には何本入っているんだあ。

 ば、馬鹿な。

 こんな物を買おうとしたら、金に糸目を付けられんほどだろうに。

 吐け、こんな物をどこから手に入れてきた!」


「ふ、錬金の伝道マーリン師からだが気に入らないかい、騎士カイザ殿。

 あの婆さん、本当に食えない人だよなあ。

 いやあ、マジで俺のお気に入りなんだぜ、あのお方はよ」


「はあ、錬金の伝道マーリン師か。

 あの人はなあ、王国の筆頭錬金術師として名声を馳せる事もできたものを、何故かビトーの街の奥に引き籠ってしまっている変人なのだが、その腕前は諸国に鳴り響いている。

 よくもまあ、伝手もないのにあの人に会えたものだな。


 あの方の身辺はとびっきりの錬金生物などが守っているので、強引に会おうとしようものなら、ぶち殺されかねんので有名な方なのだが」


「はっはっは」


 俺も少し乾いた笑いを見せておいた。

 し、知らなかった。


 ショウの奴め、どうやってそんな人物への伝手を捜してきたものか。

 相変わらず恐ろしい奴だな。

 奴が味方でよかったぜ。

 なんで、あんな凄い奴がこのような辺境にいるものか。


「エリクサーの件は王様には内緒で頼む。

 俺の恋人になってくれた女勇者の青山泉が、王様からお使いを頼まれていたんでな。

 たくさんあるのがバレると、報告しなかったあいつが大目玉を食らっちまう。

 エリクサーは一本しかない事になっているんだ」


「わかった、わかった。

 アレに関してはそうするとしよう。

 あまり妙な報告を出すと、いい加減な事を言うなと俺も怒られちまいそうだしな。

 しかし奇跡の霊薬エリクサーか、やれやれ」


 そして次に通信魔道具の子機を見て、カイザはまた眉を顰めた。


「こいつをどこで手に入れたんだ。

 これは通常なら国家で管理するようなものなのだが」


「ああ、ビトーの冒険者ギルドのギルマスからだ」


「ああ、そうか。

 なるほど、彼がお前に託したか」


「ああ、街で暴れた魔人を討伐したご褒美だとさ。

 実績のあるお前が役に立てろと。

 あと宗篤姉妹にも子機は渡しておかないといけないから、あの子達の情報が入ったら教えてくれ。

 あの子達こそ、俺が一番連絡を取らないといけない人達なんだからな」


「そうか、心しておこう。

 あと、他の子機は誰に渡した」


「えーとな、子機は全部で十個だ。

 ギルマスは子機を一つ持っているから、残りはあんたの分を入れて九個だ。


 ショウとフォミオ、マーリン師とゴヨータシ商会のサーイコ・ゴヨータシ、それと俺の彼女になってくれた勇者のイズミ・アオヤマ。

 残るは三個だが、宗篤姉妹を別にして王都で必要な分を使おうと考えている」


「なるほどな。

 身内と、後はあれこれ協力してくれそうな人物に配ったというわけか。

 特に問題はなさそうだな。


 そういや、勇者の彼女ができたのか。

 よかったじゃないか。

 勇者は価値観の違いというか、こっちの人間とは上手くいかない事が多くて、勇者同士であぶれると未婚になってしまう奴も少なくないからなあ」


「ああ、彼女も飛空の能力があるし、遠距離恋愛もバッチリなのさ。

 その他の物品は、各種ポーションやお菓子に料理、その他王都にも行ってきたのであれこれ買い物した物だ」


 だが、大人のお話があるのでずっと我慢していた幼女様方は、ついに痺れを切らした。


「にゃあああ、あたし達の御土産を早く見せてー」


「見せるのでーす」


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