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2-47 射撃テスト

 翌朝、泉とたっぷりと名残りを惜しんでから別れ、俺は王都のはずれまで銀貨一枚で乗り合い馬車に乗って揺られていった。


 やはり旧式っぽくてもバネのサスがついていて、格別に綺麗な石畳舗装が敷かれていると、乗り心地もそれなりにスマートだな。


 そして王都の外へ出て、しばらく歩いて街道からはずれた場所でザムザ1の魔核を取り出した。


「さて、魔核のこういう使い方は可能なはずだが、はたして本当にいけるか」


 俺は真ん中に魔核を留められるよう工夫した丈夫な革製の胸当てを、フォミオに作らせて用意しておいたので、そこに取り付けた。


 そして、すーっと息を吸い込んで軽く気合を乗せる感じにそいつを発動した。


「スキル【飛空】発動」


 そして、俺は一瞬にして吸い込まれそうに澄み渡る夏の碧天へと舞い上がっていた。


 成功だ。

 実を言えば、俺にはできる事がわかっていたのだ。

 今回王都へ来る途中で確認しておいたのだ。

 

 あの『スキルがわかる感覚』からすると、俺が倒して魔核化した眷属のようなものは、その魔核の元の魔物が持つ能力を自分のスキルとして使用する事が可能だと。


「うひょう、泉と一緒に飛んだし、日本じゃ飛行機やヘリにも乗っていたんだ。

 空を飛ぶのは初めてじゃない訳だが、やっぱり自分の力で飛べるっていうのはいいねえ!」


 思わず気持ちも舞い上がる。

 俺は更に加速して、ぐんぐんと蒼空へ吸い込まれていった。


 シールドのような機能もあれこれマニュアル操作で試しつつ、俺は雲の上まで突き抜け、晴天三百六十五日の爽快な景観に、しばしの間、陶然と酔いしれていた。


「うーん、泉と一緒にアベック飛行も面白かったかな。

 まあ、あいつも王様のところへ納品に行かないといけないんで一人で来たんだが」


 大空アベックデートのアイデアはお預けにして、お次は絶対防御のテストだ。


 俺は地上に降りて、一応上級ポーションを用意してからナイフを持ち出し、おそるおそる左腕に突き刺そうとしたが、見事にカンっという感じに弾かれた。


「ふう、大丈夫とわかっていてもドキドキしたねえ」


 そして、さらにザムザ得意の風魔法を試してみた。俺は雲の高さまで上り、さらにそこから上に浮かんでいた雲を手に纏ったスキルから放った風の刃で切ってみたが、これまた見事に雲が真っ二つだった。


 そして、それを更に人参のように乱切りにし、さらに速度も早めていき、ラストは雲を風魔法で吹き散らした。


 また地上に降り、今度は風の力を利用したブーストを試す。


「まずは石と」


 ぶん投げた石が、見えないようなところまで飛んでいった。


「やべえ。

 どこかでうっかりと通行人に当たって死んだら、さすがに指名手配とかになりそう」


 次にもう少し離れたところまで飛んで、岩がゴロゴロしている荒れ地へと向かった。

 そこに人はいないが、大きめの木は生えている。


 なんで、そんなところへ行ったかというと、銃の試射をするためだ。

 銃声が響くし、あまり人に見られるのもなんだしと思って。


 俺は銃を取り出し、安全装置を解除してスライドを引いた。


 不通に警察官が持っていた銃なので、当然弾倉に弾は送り込まれていないし、暴発防止のため自動拳銃の撃鉄を安全に下ろすためのデコッキングレバーなんてものも使われていない。


 まず日本じゃ、警官が銃をぶっ放す事さえ稀だからな。


 まず普通に、直径一メートルはありそうな大木に向かって、腰を落とし加減に両手で握ってぶっ放した。


 軽い反動を伴った連射と共に、銃声と無煙火薬の紫煙が銃口から吹き上がった。

 弾丸は木の表面に食い込み、軽く木っ端を散らした。


 この快感・爽快感は本物の銃を撃った事がない人には理解できないだろう。

 人類は、そんな楽しみをも与えてくれる銃という道具を、射撃場から出すべきではなかったと思うのは俺だけだろうか。


「おお、久しぶりの銃の感覚、実に楽しいぜ。

 いや懐かしいねえ。

 やっぱり、槍や剣で突きあうのはちょっとなあ。

 大昔は日本だってそうだったんだけどさ」


 的までの距離は射撃場の的の半分くらいの五メートルほどだが、当然の事ながら射撃場の人間大を想定した標的に相当する範囲には入っていない。


 ま、素人が久しぶりに撃ったらこんなものさ。

 ただの餓鬼が、いきなり火薬式の銃をパンパン撃って当たりまくる異世界物語のアニメ達なんて、出鱈目な大ウソの塊だ。


 もう訴訟物の嘘臭さである。

 あれは銃を撃った事がただの一度もない人間の創作なのだ。


 射撃場で止まった的が相手ならばセンス頼みで、生まれて初めて撃つ銃、超大口径マグナムを全弾的の中へ集約できる人間は確かにいる。

 数回射撃場で撃った事がある人間でも敵わない腕前だ。


 だが実戦の動く的相手で、射撃場で銃を撃ち慣れた大人でさえも、素人にそういう真似は絶対に出来ない。


 そもそも相手が人間だと思っただけで、普通の人間には引き金を引く事が出来ないだろう。

 そして自分の方があっさりと的になるのだ。


 走行中ならプロでもまず正確に当たらないし、撃ち合いなら軍隊の兵士でも簡単には当たらない。

 だから、超高価なスマートブレットなどというハイテクな武器が実際に開発された。


 走行射撃訓練なんて日本では絶対にやらない。

 外れた弾がどこに飛んでいくかわからないので、訓練さえ絶対に認められないだろう。


 ハンターだって、鳥や動物がちゃんと止まっている時に撃つのだ。


 絶対に撃ち返してこない完全に止まった的を、架台で固定したレーザースコープ付きのライフルで五十メートルから百メートルくらい先からじっくりと時間をかけて狙えば、素人でも何度も撃てばそこそこ当たるかもしれない。

 そんな物、実戦では何の意味もないが。


 撃った弾を三十メートル先のカレンダーの字に当てられるという警察官の腕前は、定期的な訓練によって維持されているだけだ。

 日本は、殆どの警察官が訓練射撃以外で銃を撃つ事はない平和な国なのだがね。


 こりゃあ、俺にはかなりの練習が必要だ。

 幸いな事に弾丸の在庫には不自由していない。


 次に軽くザムザの風魔法によるブーストをかけてみたが、これまた強烈だった。


 風魔法の誘導にも乗り、弾丸が命中した途端に大木の裏側が木っ端の嵐になって、凄まじい大穴が空いてしまった。


 まるで二十ミリ対物ライフルで撃たれたかのように派手な着弾エフェクトだ。

 おまけに着弾点にあった小さめの木が木っ端微塵になって、その生涯を無残に散らした。


 そして、次の瞬間には目の前の大木が抗議するように枝葉を激しく揺らし、まるで打楽器の如くに抗議の葉擦れで轟音を奏で立てた。


 うわあ、怒ってる怒ってる。

 そりゃあ誰だって、いきなりどてっ腹にでかい風穴を開けられたら怒るわな。


 これが人間なら真っ二つになって吹き飛んでいるわ。


「う、うわっ。

 ごめんなさい、これで許して。

 今度から岩かなんかでやります~」


 植物って人の言葉も理解するし、葉や枝や蔓なんかでいいのなら案外とよく動かす奴もいるんだよね。

 カメラで撮影すると、朝顔なんか一瞬にして支え棒に巻きつくのが映っているし。


 そりゃあ誰だって、いきなりどてっぱらに風穴を開けられたら、どたまに来て怒るわな。


 俺がお詫びにエリクサーを振りかけたので、みるみるうちに木に空いた大穴が塞がっていき樹皮まで再生すると、さらに緑が青々濃くなったような気がする。


 更に木っ端微塵になった後ろの奴の残骸にも一本かけたら、あっという間に根っこから元通りに再生しやがった!


 エリクサー、半端なし。

 さすがは白金貨十枚だけの事はある。

 エレが少し離れた場所から見ていたが、ふらっと近づいてきた。


「あんた、何をやっているのよ。

 しかし、それにしてもエリクサーは凄い威力ねえ。

 こんなのは初めて見たよ。

 この効果の余韻というか魔法のパワーには何故か心を惹かれちゃうわ。


 それに、これがあんたの世界の武器か。

 これはまた結構な威力ねえ」


「ふ、こいつが欲しかったのさ。

 男の子はいつだってこういう物が好きなんだ。

 御巡りさん達、本当にありがとう」


 俺はあの天下無双な国護のおっさんとは違うのだから、白兵戦は御免だというか、魔物相手にそれをやっていたら、いくらなんでも死んでしまうわ。


 今は絶対防御も使えるようになったので安心なのだが油断大敵だ。

 このスキルを持っていたザムザがどうなったかは、間近で見ていた俺が一番よく知っている。


 他に佳人ちゃんの神の刃のようなスキルを持っている敵がいたら、最悪の展開だぜ。


 魔王って一体どんな奴なんだろうなあ。

 願わくは絶対に敵としては会いたくないものだが。


 まあ世の中は備えるだけ備えておけば間違いはないのさ。


「おや?」


 よく見たらいつの間にか大木の周りにエレのお仲間が寄ってきていて、さらに全員がクルっとこちらを向くと、今度は俺の周りを蜂のようにブンブンと大群で飛び回りだした。


「う、もしかしてアレか?

 エリクサーの効果に惹かれてやってきたところで『匂い』を嗅ぎつけたのか」


「もしかしなくてもアレよ、さっさとお出し。

 みんな、今チョコを出させるから待ってて。

 御代は加護で支払ってね」


 そして、挨拶も無しに俺を無視して茶色のチョコの山に群がっていく羽虫精霊の群れ。


 これは!


「まるで『何か』にたかる蠅の群れのようだ……」


「ありがたい精霊様に向かって、そういう変な(たとえ)はよすように!」


 まあ何故かアレっぽいハム音は聞こえないんだが。


 チョコは瞬く間に食い尽くされて、俺はまるでピンボールゲームのスコアの如くに精霊の加護を増やしていくのだった。


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