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2-45 スキル公開

「さて、みんな。

 俺が欲しい物は聞いているかなあ」


「聞いてませーん」


「え、泉さんという素敵な彼女がいながら、あたしらピッチピチの女子高生の体を狙っていると?

 いやあ、誰かあの市場にいる御巡りさん呼んできてえ」


「あのー」


 これだから女子高生という奴らは困る。

 他にもう一人いたブレザーの女子高生も参加して、そういう事を口走っていやがる。


 久しぶりに摂取できたチョコ成分が、奴らのスイーツ脳に麻薬のような働きをしていないか?


「はーい、みんな食べながらでいいから、うちの彼氏の話を聞いてやってねえ」


 泉がパンパンと手を叩き、ハイになっている子供達を落ち着かせる。

 幼稚園の先生かよ。


 あれは妙に手慣れていると思ったら、ここでいつもやっているんだな。


「食べながらでいいと言われると、いつもあの王様を思い出すんだよね」


 それを聞いて、皆が少し吹いたので見せてやった。


「あーわかる。

 俺なんか、新焼き締めパンまで作ってもらっちまったのさ」


「何、それ」


「特製スープに浸して食うと、これがまた美味いんだ」


「えー、嘘くさあ」


「あら、嘘じゃないわよ。

 結構美味しいんだから」


「そうそう、俺の従者なんか自分でそれ用の屋台まで作っちまったんだから」


「従者?」


「ああ、魔王軍の雑用係をしていた奴でな。

 何でもできる奴だぞ。

 あいつが千人ほど魔王軍にいて雑用をしていて、その功績をもし魔王が高く評価して実力を発揮していたら、たとえあの勇者がいたとしても人間の連合軍は絶対に勝てまいよ」


「「えー!?」」


「嘘じゃねえって。

 人間軍と魔王軍が戦争してるんだぞ。

 工兵と兵站を舐めるな」


 そして袋女子は、正座してもくもくとチョコなどを食べていた。

 チョコの威力は絶大で、瘴気の放出は収まっているようだった。

 頼むから、しばらくそうやって大人しくしていてくれよな。


「はい、この中に太陽電池の付属した、充電用のハンディバッテリーをお持ちの方はいらっしゃいますか~」


「はい」

「おお、持ってるのか」


「うん。

 便利そうだから、兄貴の奴を勝手に持ち出してきたんだ。

 新品だけど、今は殆ど空だよ」


「ああいいよ、太陽電池はついているんだよな」


「そらもう、バッチリ。

 四枚パネル太陽電池付きの大出力製品よー」


「やるな、お前の兄ちゃん。

 そいつが欲しかったんだよ」


 だが、そいつ楯山姶良は片手をドンっと差し出した。


「ただじゃいやだよ」


「お化粧品は?」

「それは皆がもらえる約束じゃん」


「何が欲しいんだ?」


「えー、何でもいいよ。

 お金でもダイヤでも毛皮のコートでも」


「うーむ、女の子は物欲の塊だねえ」


 だが、そいつの襟首を持ち上げて、まるで背中に筋肉で鬼の顔を作っているんじゃないのかというほどの迫力を出されている御方がいた。


「ひいーーー! 覆面様!?」


「覆面様、覆面様の祟りじゃあ」


「やかましい、この小娘どもめ。

 さっさと、そのバッテリーを彼にお渡し!

 いつまでたっても化粧品ができないじゃないのさ!

 それと誰が覆面様だー!」


「「ごめんなさーい、お袋さま」」


「年増呼ばわりするな!

 あたしゃまだ二十八歳だよ!

 それにこれは袋なんかじゃないの。

 一応、防護服(面)の一種なんだからね。

 さらに私にはこう見えて、坪根濔刃風(つぼねではかぜ)という立派な名前があるのです!」


 お坪根様?

 そして首根っこを押さえられた女子高生二人がここぞとばかりに叫んでいた。


「「ははあっ、お局様!」」


「ええ加減にせんか、この小娘どもがあああ。

 デバフのスキルをかけて呪うわよ!」


 泉は笑って、姶良の手からバッテリーをさりげなく取り上げて俺に渡してくれる。


「じゃあ、みんな化粧品をありったけ出してね。

 はいはい、おふざけはそこまでで」


 いよいよ待ちに待った瞬間なので、皆がいそいそと動き出す。

 泉の分はすでにバッグに詰めてあるのだ。


「いつも、こんな風なのかい」


「うん、もうノリノリよ。

 だから鬱になっちゃうような人はいなかったんだけど……」


 あの二人の事か。

 彼女達も鬱にはなっていなそうだったけれど、脱走してしまったわけだね。

 一体何があったんだろうなあ。


 向こうも言いたくないようなので、俺も聞かないようにしているのだが、あの二人の事に関してだけはいつも明るい泉も辛そうにする。


 今日のこの雰囲気を見る限りは泉がムードメーカーというか、女性集団のリーダーっぽい感じなので、あの二人の事も年下だし可愛がっていたのかもしれない。


 化粧品を始めとして、お菓子に御茶にオニギリに、なんとかあれこれバッグに収まったので俺はスキルを発動した。


「スキル『本日一粒万倍日』発動」


 そしてバッグは光り、ちょっと悲鳴が上がった。


「何、これー」

「聞いてないよー」

「ふ、覆面女子に死角なし」


 いや、目の周りに穴が開いているだけでしょうに。

 死角だらけだぜ。

 っつうか、人間の視野は元々とても狭いのだ。


 だが彼女は動じる気配もない。

 名前も凄いけどな、この人。

 それ確か、人名には使わない特別な漢字だったはずだ。


 やがて目を開けた彼女達も、そこにあった光景を目の当たりにして、それを大きく見開いた。


「うわあ、すげえ」

「こ、これが全部あのバッグ一式?」


「うおおおおお、化粧品~」


 間髪入れずに突進しようとしたお局様を、俺は手で制した。


 彼女は鼻息も荒く俺を押しのけようとするので、制止するのに非常に苦労した。

 猛牛か、あんたは。


「お願い。

 危ないから、ちょっと待って」


「え、何がですか?」


 不思議そうに訊き返した薬師丸聖名に、俺はニコッと笑って、バッグの中から凶悪に光るそいつを取り出して見せた。


「うわっ、銃刀法違反だ」


「ヤクザだー。

 ハズレ勇者がグレたぞー、御巡りさーん」


「やかましい!

 その御巡りさんから正式に貰ってきたんだよ!」


「あ、そうか。

 この世界で他に銃なんてあるわけないもんね」


 俺はクルっと回転しざまに、立ちすくんだ女の子達を尻目に全てのバッグを一瞬にして収納し、そこから拳銃を抜いた物を取り出して、彼女達に一人頭十個ほど渡した。


「当座はそれで足りるだろう。

 無くなったら、また泉に言ってくれ」


 俺はそう言って、もっかの関心である拳銃の具合を見た。

 手入れはよくされているな。


 今度銃に付着しているガンオイルを収納で分離して、それを増やして用意しておくか。


 火薬ガスを除去するガス・クリーナーは、この世界で代用できそうないい物がないか探しておこう。


 当座は、銃にこびりついた硝煙やカスは収納で取り込んで銃本体から分離してもいいだろう。


 とりあえずは弾倉をマガジンに装着したものと、銃本体だけの物及び弾丸満タンのマガジンが、元本以外に一万セット。


 普通は弾丸をマガジンに詰めたままにしておくと、縮められたままのスプリングが逝ってしまうらしいが、収納しておけば問題はあるまい。


 廊下との境にある部屋のドアなんかも、ずっと開けっ放しなんかにしておくと、そういうへたってしまうような事はよくある。


 また弾丸は折を見て増やしておくとするか。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この能力はヤバいからなるべく秘密にするのでは。 高額宝くじ当たって浮かれてキャバクラで自慢してるのと同レベルな感じがする。 特に理由もなく村と街で同郷に対する警戒心が違いすぎ。
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