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2-36 買い出しの醍醐味

 俺の彼女になってくれた女の子は、この異世界にて大変な買い物上手であった。


 俺は金と買い物籠(収納)を持って後ろからついていくだけで、あれよあれよという間に要領よく一時間ですべての買い物が済んでしまった。

 ついでに、その合間の時間に要領よく村への御土産もかき集めてくれた。


 日頃からのコネも使い、的確に希少な物も含めて、相手に笑顔で差し出させる手際はお見事としかいいようもない。


「おや、イズミちゃん。

 もしかして彼氏を作ったのかい。

 おや、あんたと同じ黒髪黒目か、その人も勇者さんなんだね」


「うん!」


「そうかい、じゃあ今日はお祝いでオマケしちゃう。

 とっておきの品もつけちゃおうか」


「ありがとー、おばちゃん。

 やっぱりハンナおばちゃんは世界一だわ~」


「あ、どもー。

 カズホっていいます。

 よろしく、ハンナおばちゃん」


「あいよ、よろしくねえ」


 これで泉も、なかなかお愛想の鬼であった。


 まあそのノリの良さが魅力で付き合い出したのだが。

 どんなに美人でも、あまり陰隠滅滅な女ではなあ。


 泉も、あのマーリン師とは単に相性がよくなかっただけのようだ。

 あの人はまた、なんというか一筋縄ではいかない人だしな。


 泉と一緒にいると、このような異世界でも日本にいるかのような、まるで陽だまりのような心地よさだ。


 だから、この子も今こんな風にしていられるのだ。

 あの姉妹も、もう少し気を楽に持てればよかったのだが、俺だって人の事は言えない。


 あの日、マーシャやアリシャと出会わなかったら、俺は今頃どうしていただろうか。

 ちゃんと笑っていられただろうかねえ。


「泉って、きっといい商人になれるよね」


「あはは、勇者をクビにされたら、そっち方面へ行くのも悪くないわよね」


「じゃあ、商品は俺が用意するよ。

 ついでにショウも副社長につけるぜ」


 むろん、今回の勝負相手である『不屈』ことパウルのための食材もきっちりと仕入れてのけたのだ。

 ここであいつの好物を買って行かなくてどうするという話であったので。


 俺達が飛んでいっちまったのを見ているので、あいつももうふてくされて飲んでいる頃じゃねえのかな。


 そして行き返りの飛行による行程も非常に早かった。


「ひゃあ、やっぱり空を飛んでいくとはええなあ。

 それになんていい景色なんだ。

 羨ましいスキルだぜ」


 さらに言うのなら、抱きかかえられているので背中の感触も素晴らしいグラマーな彼女と密着しながらのスカイドライブなのだから、気持ちも上昇気流に乗ろうというものだ。


 どうやら彼女のような飛空のスキルには、抱えた時に腕力などの負担なく、人間などのような収納できない物体を『運搬』するための能力も付随しているようだった。


『護衛の騎士』も二人、いや二体ほど手に入れた事だしな。


 奴らも空くらい飛べるのだし。

 ゲンダスの方は、あまり速度が出ないようなので、ザムザと組ませる方がいいようだが。


「あはは、超マッハ出ているよ。

 正確に測った事はないけど、ビトーまでなんてそうかからなかったから。

 これ、曲がりくねった街道を行くならほぼ本州縦断コースに近い距離があるよね」


「うそ、マジで?

 初めて拝んだ空からの景色に舞い上がっていて時間の感覚はなかったかなあ。

 確かに景色が物凄い速さで流れていくわ。

 空から見ると結構ゆったりしているけどなあ」


「うん、あたし速さだけなら複数スキル持ちである采女ちゃんよりも速いから。

 まあこっちはこれしか能がないんだけどね。

 魔人と遭ったら、この逃げ足の早さでなんとかしようって、ずっと思っていたんだし」


「それは凄いな。

 音速を越えた衝撃波とかどうなってんの」


「さあ、細かいところはどうなっているのか知らない。

 でも付属スキルみたいなもので、空気の抵抗なども弾いてくれるシールドが張られていたり呼吸が普通にできていたりって感じなのよ。

 温度調節までついてる、滅茶苦茶に便利な飛行パックスキルよ~」


「へえ、あとソニックブームが武器になるとかの機能はないの」


「あー、それは考えた事がなかったかなー。

 今度それ試してみようかな」


 泉はのんびり飛んでいたように見えるが、そんな話をしているうちに着いてしまった。

 なんとはなしに時計で測っていたのだが、十五分もかかっていないくらいだ。


「すげえ、マッハ二は軽々と越えてるなあ」


「そっかあ、今日は初搭乗のお客様がいるから、かなり速度は抑えていたつもりだったんだけどなあ。

 いつの日か、伝説のブラックバードの記録を越えて見せるわよ」


 伝説のブラックバードというのは、別にこの世界の魔物とかの話ではない。


 かつて冷戦の時代にアメリカが開発したSR71ブラックバードというジェット偵察機の事だ。

 高速偵察任務を主体とする泉にとっては、まさにライバルのような存在だなあ。


 あの伝説の、当時の対空ミサイルの速度では撃墜不可能だったという超音速偵察機のマッハ三・五の速度記録に挑戦するというのか。


 あれも、どう頑張っても人工衛星には敵わないから引退しちゃったけどなあ。

 それ並みの速度を誇る飛行能力は、この異世界では偵察に伝令に、そして買い出しに大活躍の便利なスキルだよ。


 泉ほどじゃないけど、ザムザだって飛んで遅くはない。

 まあ蟷螂なので隼のようにとまではいかないのだが。


 しかし、多くの敵を苦しめた『大空の死神』とも呼ばれた怪物なのだ。


 風魔法使いだから、もしかしたら速度ブーストも可能なのかもしれない。

 よかったわー、あの時に追い回される羽目にならなくって。


 だが、なるべくならザムザは出したくないんだよな。

 だって、あの蟷螂頭が誰かに見つかると大騒ぎになっちまいそうだからね。


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― 新着の感想 ―
[一言] ブラックバード! 懐かしい。「ファント○無頼」を思い出しました(笑)
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