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2-34 面倒くさい奴

 そんな俺達の暢気な会話を聞いていた、周りを取り囲んで聞いていた武装した男達。

 その中の一人が、突然前に進み出て不満そうに言い放った。


 まるで戦士のように逞しい、はち切れそうな鍛えられた筋肉を纏った男であった。

 筋肉馬鹿というのではなく、しなやかなバネのようなタイプだ。


 別に雲突くような大男ではなく、アメリカのプロバスケット選手にはありがちなくらいの高身長といった感じか。


 頭は短髪で上半身は日焼けして赤銅色をしており、上半身は比較的露出の高い、まるで筋肉見せびらかし仕様の服装だ。

 もろに理想的な、剣と魔法の国の戦士そのものだな。


 少なくともバスケット選手のような、しなやかさを優先した体ではなく、肉弾戦を想定して鍛え上げられたというか、まさしく魔物との戦いの中で作り上げられた戦士の肉体だった。


「気に入らんな、ギルマス。

 勇者だかなんだか知らんが、特別扱いで入会か。

 ここは王都とは違い、そういう半端なものがねえのが売りだったんじゃねえのか。

 他の冒険者連中にも示しがつかねえぞ」


 周りの男達も腕組みなどして一様に難しい顔をしている。


 強い勇者を『会社』に迎え入れるのはいい、というか能力の高い者の入社はむしろ歓迎だ。

 だが確かにそこの男の言う事にも一理あると。


 なるほどね、彼らはこのギルドの幹部メンバーなのだ。

 どいつもこいつも、実にいい面構えをしていやがるぜ。

 気に入った。


「よしわかった。

 お前、名は何というんだ」


「俺の名は『不屈』」


「あのなあ、誰が二つ名を言えといったか」


「うーん。冒険者ギルドって、実は君向きの中二病を患った集団なんじゃ」


「おい!」


 そして他の連中は口々にこう言うのだ。


「じゃあ、そのパウルと勇者が手合わせをしてみたらどうだ」


「そうだな、リーダー格のパウルが相手なら、それで皆も納得するだろう」


「そっかあ、そいつは確かになあ」


 結局そういう結論なのかよ。

 こういう連中が相手なら、それはそれでやりようはある。


「じゃあ、どうするんだ?」


 すると、その中のこれまた筋肉隆々の男が言った。

 これはまたこれで、さっきの不屈君に比べて一回りは確実にでかい、盛り上がる筋肉の化け物である。


 まさしく人間重戦車のようなお方だな。

 筋肉周りだけなら、不屈よりも二回りほど違う感じだ。


 そこの不屈(本名パウル)のようにしなやかという感じではなく、ごつい魔物と両手でがっぷり組み合って、力比べでも始めそうなタイプだ。


 こっちはがっちりと革の鎧で身を固めている。

 こいつが相手ならアームレスリングで勝負とか言われそうだが、さすがにそれだと勝てる気がピコ1㎎さえないわ。


「そんな物は決まっているさ。

 そんなに俺と戦いたかったら、まずそこにいる俺の子分をぶっ倒してからだ!

 当然だろ、俺はそいつらに勝ったんだからさ」


 二体の元魔人が前に進み出て、ボディビルダーっぽいポーズで力瘤を作ったり腕を鎌に変えたりしてアピールを開始し、幾多の仲間達の爆笑がその場を支配したので、その『不屈』とやらが顔を真っ赤にして怒り出した。


「ふざけるな。

 男なら自分自身の力で戦え」


「だって、俺は魔人を打倒したから使役しているんだぜ?

 しかも二体もさ」


「し、しかしだな」


「じゃあ、これが実際の戦闘だと想定しようぜ。

 ドラゴンとか魔王軍の幹部を相手のな。


 手持ちの駒に常識はずれなまでにつええ魔人がいるのに、お前なら自力でそんなもんと戦うとでもいうのか? 

 そんな奴は長生きできないぜ。


 それにこの格好を見てくれよ。

 俺ってまだデートの途中なんだしさ。


 そのデートの片手間で魔人を一体倒してきたから、たまたまその広場でサボっていたらしきギルマスにスカウトされたんだけど、それでもまだ不満か?」


 更に爆笑が渦巻き、ギルマスが秘書嬢にジロっと睨まれて苦笑していた。


 だが、『不屈』はあくまで頑張った。

 彼はリーダークラスだと言われていたから、ここでは簡単に引けないのだろう。


「いくらギルマス推薦枠で、しかも勇者だからといって、入会時に力も示さずに入会してきた奴らなんて、うちでは誰にも認められんぞ」


 うわっ、面倒くせえ。


 アレだな。

 要は傭兵と同じようなものなのか。


 拳や剣で語り合わねば駄目っていう奴なのか。

 おまけに、ああ言えばこう言うというタイプなのかねえ。

 逆に自分の強さを証明できれば皆の尊敬を集められるという訳か。


 とうとう展開に焦れた泉がこう言い出し始めた。


「もうしょうがないからさ、冒険者になりたいんだったら、諦めて戦ってあげなさいよ」


「じゃあさ、特大のメテオレイン(本物の真っ赤に焼けた隕石群)とか、こういう物を使ってみてもいい?」


 俺は例の榴散弾を見せた。俺が収納から取り出した、その導火線付きの大昔のマンガに出て来そうな感じのレトロなスタイルの爆弾モドキを見て泉が顔を顰めた。


「ちょっと!

 そんな物を近くで使わないでよ。

 もっと広いところでやりなさいよね。


 というか、あんたの武器や能力ってあまりにも殺傷力が強すぎて、一般の冒険者じゃ相手にならないって。

 悪賢さも強さの内というのなら、はっきり言って今はもう、あんたが最強の勇者といってもいいくらいだわ」


「ひっでえな。

 俺は一応、君の彼氏なのだが!? 


 だってさー、魔人とかなら遠慮しないでいいからアレなんだけどさ、人間相手って手加減してやらなきゃいけないから面倒じゃねえ?


 こんな事でうっかりと相手を殺したりすると、もっと面倒な事になるのだし。

 じゃあ、泉がもっといい対決方法を何か考えてくれよ」


「えー、あたし?」


 俺の面倒くさいという気持ちを恋人にも分かち合ってもらいたくて、泉に話を振った俺。

 だって多分、こいつも本音で言えばきっとなあ。


「面倒くさいから、そういう話はパス。

 そもそも、あんたって本当に冒険者になりたかったんだっけ。

 特になる必要はないよね」


 ほらみろ、やっぱりな。

 すっぱりと立て板に水の諺のように断るところが、また泉だよ。


 俺達は絶対にそういうところまで気が合うと思っていた。

 そんなものは、いつも会話していればわかる。


「あ、うん。

 確かにそうなんだけどさ。

 俺もギルマス直々に誘われたからなんとなく来てみただけで、だんだん本気で面倒くさくなってきたなあ。

 いや仕事は欲しかったんだけどなあ。

 いつまでも無職でぶらぶらしているというのもな」


「あんたねえ、それこそ他の冒険者さん達に失礼ってもんじゃないのさ」


 だが、そこでギルマスが笑顔で提案してきた。

 彼の秘書嬢がこれまた渋い顔をしてそれを眺めている。


 なるほど、このギルマスが何かすると、いつも碌な結果にならないんだな。

 かといって、このままだと冒険者どもが収まらないのだし。


 眼鏡のおじさんも、やれやれといった感じでそれを見守っていた。


「では、どちらが冒険者として優れた資質の持ち主か、ギルドで試験をしてみようではないか。

 冒険者ども、その結果を見てお前達で判定しろ」


 ああ、もっと面倒くさい事を言い出した奴がいた!


 だが、その言い出した張本人であるギルマスは笑っていた。

 うーん、楽しまれているなあ。


 まあいいか、じゃあ俺も楽しむとしようかな。

 だって別にこんな試験は別に落ちたってかまわないんだし。

 デートの余興の一つでギルマスに付き合っているだけなんだもの。


 あ、そういやギルマスって、確か客をずっと待たせていたんじゃあなかったのか?


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