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2-32 冒険者ギルドへ

 俺はさっそく宿へ行って、フォミオを呼んで来て石畳の修理をやらせた。

 石畳のパーツは俺が出したし、道具や材料は街で貸してくれたのだ。


 巨大な左官屋さんは子供達に人気だったようで、日頃から雑用専門職と自ら胸を張るフォミオは子供達に思いっきり(たか)られていた。


 その横では冒険者ギルドへ行く前準備として、俺がもう一度外に出したザムザ1に命じて、ゲンダス1と命名した新しく仲間になったネームド魔核から、そのゲンダス1のボディを再現する作業をしていた。


「ひいいー、ザ、ザムザでやんす~。

 な、何故倒されたはずのあいつがここに。

 おまけに何故あのゲンダスまでいるでやんすか!」


「落ち着け、フォミオ。

 それはもうザムザではない、新たな俺の僕である勇者に仕えるネームド魔物ザムザ1なのだ。

 そして、さっき倒したばかりのゲンダスをネームドにしたゲンダス1も同様さ」


「そ、そうでやんしたか。

 あー、死ぬほどビックリこいた~」


 ザムザの姿を見たフォミオが最初は恐慌したが、事情が分かってホッとした様子だった。


 子供達は魔人に恐れをなして逃げ出した大人達とは違い、その貴重な魔人復元作業を楽しみに見物していたので、勇気ある子供達には褒美としてお菓子を配給しておいた。


 この子供達にとって魔人討伐・再生作業及びチョコとの出会いという、滅多に拝めない二大イベントは、生涯にわたって彼らの親族への語り草になるのではないだろうか。


 俺はやがてゲンダス1の再生が終了したので、ギルマスに率いられて冒険者ギルドへと向かったのだ。


 二体の魔人を引き連れて。


 子供達も、フォミオの修繕作業を引き続き見物している奴と、俺達の一行に加わる奴との二手に分かれた。


 街ゆく人々はそれを見てあんぐりと口を開けて固まっていたが、そやつら魔人どもが自分達に何一つ危害を加える事無くすれ違って

 またギルマスの顔を知っている者などは、その悪戯そうな子供のような笑顔で楽しそうにしているギルマスの方に、より注目していたようだった。


 大概だな、このギルマスのおっさんも。


 だがよく観察すると、まだそうたいした歳ではないようだった。

 俺より少し年上のカイザに毛の生えたようなもんだ。


「ねえ、一穂」

「なあに」


 俺はデートの格好のままで、彼女と腕を組んだ状態で冒険者ギルドに向かった。


 あまり冒険者ギルドへの入会儀式には向いた格好ではないが、ギルドマスターが御一緒なので、そう問題はあるまい。


 だが泉がこそっと訊いてくる。


「ねえ、あの魔人連中についてこさせる必要があったのかな」


「まあ冒険者ギルドへ行くににあたっては【実績】を提示しておいた方がいいかなと思って」


「うん、まあそういう考え方もあるよね。

 いや別にいいんだけどさ」


 どうも俺の新しい彼女は、割と常識人のようだ。


 これがまた頭のネジがぶっとんでイカれたような、心のリミッターブッチギリの女だったら、それはそれで困ったものなのだろうが。


 少々そのあたりが物足りないと感じるのは、俺がこの異世界に毒されてきている証拠なのだろうか。


 それにギルマスなんぞは、俺が引き連れる魔人の家来など微塵も気にもしていないというか、むしろ面白がっているような向きもある。


「そういやさ、一穂」

「なあに」


「たまたま今回はうまくいったけどさ、ゲンダスがザムザを復活させる前に一穂がやられちゃうとか思わなかったの」


「ああ、相手はゲンダスだったからそれはない。

 それはネームドとして眷属化したザムザ魔核から伝わってきていたのさ。


 奴は俺からザムザ魔核を取り戻したがっていたから、それまでに致命的な攻撃はしてこないと。

 そして手に入れたら、何をおいてもザムザの復活を優先するのだと。


 奴もまた一途な性格らしい。

 妙に人間臭い奴らだ。

 だからそれに賭けたのさ。


 非常に勝算のある賭けだったし、君もいたのでいつでも逃げ出せた。

 その他にもまだ試した事が無いが、多分勝てなくても負けないだけの切り札は持っていたんでな」


「そういう事はお願いだから先に言っておいてね。

 思いっきりドキドキしたじゃないのさ」


「楽しめたかい?」


 俺の悪戯小僧のような顔に彼女は呆れたようだったが、ちゃんと手は握って歩いてくれた。


 さっきの広場自体は中心街にあるため、冒険者ギルドは百メートルほど歩いた賑やかな場所にある。


 一等地に構えた、その五階ほどの高さを誇る建物は、この比較的建物が低層な世界では、まるで高層ビルディングだ。


「え、これが冒険者ギルドって奴なの?」


「どうやらそうらしいねえ。

 こりゃ傑作だな。

 一体、どこのオフィスビルなんだよ」


「いやどう見ても、冒険者ギルドには見えないんだけど!?」


 なんというか、まんま事務所って感じのところだな。


 こりゃあ、あれだ。

『外人部隊オフィス』みたいなイメージだろうか。


 現地の訓練キャンプとか、兵隊の宿舎があるような場所ではない、例えばパリにある外人部隊契約オフィスとか、そういうようなイメージだ。


 請け負う御仕事の契約をしたり、入隊契約の事務などを行ったりする場所なのだろう。


 だがそこはそれなりの大きさを誇り天井も高く、ゲンダス1やフォミオなんかも充分入れるほどの大きさなのだ。


「へえ、事務所っぽい雰囲気にも関わらず、こんなにでかいんだな」


「はは、冒険者ギルド会館たるものが、そんなにちまちましているのもなんじゃないか。

 ちゃんと立派に利益を上げているのだし、仕事を依頼に来た客に見せるための本拠地を小さくする必要は特にない」


「なるほど!」


 ギルマスが笑って説明してくれるので、またもや納得できた。


 稼いでいるプロフェッショナルの組織なのだから、依頼者やギルドメンバーなどに対して、また世間に対してその威容を示す事も必要っていうわけなのか。


 冒険者ギルド会館ねえ。

 何かこの組織に凄く興味が湧いてきたなあ。


 そしてギルマスを先頭に、俺達は堂々と冒険者ギルドの門を潜った。

 面白いので俺は隊列を変えて下がり、ギルマスの次の打順はザムザ1とゲンダス1に任せてみた。


 それを見て呆れる泉が俺の背中を突いてくる。


「もう、カズホったら。

 この悪戯者」


「なあに、ここは一つ冒険者のお手並み拝見と行こうじゃないか」


「うわー、大丈夫でやんすかねー」


「大丈夫のわけがない……んだけれど、まあ面白いかもね」


 エレも話の展開を面白がっているようだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「奴は俺からザムザ魔核を取り戻し『』がっていたから」←『』に「た」が必要でしょう。
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