2-30 魔人復活の儀
「ね、ねえ一穂。
あれ、ちょっとマズイんじゃないの?
もう! 一体何をやっているのさ。
あいつ、自分の魔力をザムザの魔核に注いでザムザの本体を復活させる気よー」
「そうさ、そのためにわざわざ奴にくれてやったんだからよ」
「ええーーーーー!」
そして奴はさっそくその作業に熱中しており、もはや俺達などには一切構わない様子だ。
「あんたも悪ねえ」
俺付きの妖精さんが、二人の間に軽く翅を羽ばたかせながら俺の頭の上の特等席から降りてきて、呆れるのを通り越して感心したような声を出した。
「くっくっく」
「え、え、それって一体どういう事?
ねえエレってば」
「なあに、見ていればすぐにわかるよ。
このカズホが、ただでザムザ魔核なんかを魔人にくれてやるはずがない」
そして、徐々に復活していくザムザの体。
同じ大幹部から魔力を最大に注がれて、みるみるうちにその凶悪な姿を、カップ麺ができる時間も待たずに取り戻してしまった魔人ザムザ。
その頂きに戴冠された禍々しい蟷螂顔に、固まって動けなくなっていた広場中の人々がさらなる絶望に凍り付いた。
魔人ゲンダスの勝ち誇る、これまた禍々しい笑顔は、そこに居合わせたすべての人々を蒼白にさせた。
「終わりだ、この街はもう終わりだ。
魔王軍幹部の魔人が二人も揃ってしまった」
「なんという事だ。勇者様は一体何故あのように無謀な真似を」
だがすぐ傍にいた、同じく屋台の飲み物を堪能していたらしいシルクハットのパリっとした紳士は、俺の欠伸の出そうな様子と、その隣にいる勇者である彼女も俺の腕を掴んだまま落ち着いているので、「ふむ」とでも言いたそうな顔で静観していた。
おー、こりゃあまた糞度胸だねえ、ジェントルマンよ。
やがて明確に姿を取り出したザムザの前に広がる、そこに居合わせた人々の動揺と恐怖。
しかし、誰もが金縛りに遭ったかのように動けない。
それを見物しながら大欠伸をしている俺と、その脇腹を少々焦り気味にツンツンと突いている俺の彼女を除いては。
「おお、おお、我が戦友、我が兄弟魔人ザムザよ。
今再びここに蘇り、また共に戦おうぞ」
おやまあ、あの冷血そうなザムザに、ここまで想ってくれる仲間がいたなんて驚きだぜ。
よし、それに免じて貴様のその熱い願いを、特別にこの勇者カズホ様が叶えてやるとしよう。
そして、やがてザムザは完全に蘇り、その冷たく澄み切った真っ赤な目を開けたようだ。
開けたというか、瞼すらないので光が戻ったというだけなのだが。
蟷螂頭なんで、無表情でいられるとその心の内はよくわからないのだが、ふいに奴が動き出した。
そして喜びに咽び、前屈み加減でザムザに覆い被さっていた水龍のゲンダスの胸を、ザムザの右腕が瞬時にスッパリと、見事に真一文字に体の中心にまで達するほど深く広く切り裂いた。
二体の間の身長差体格差を考えると、狙い通りの見事な腕前としか言いようがない技だった。
うん、褒めてつかわそう。
だって、こいつは。
「な、何をするザムザ、気でも違ったか。
我だ、お前の盟友たるゲンダスぞ」
見事に胸のあたりを体の半ばまで裂かれてしまったゲンダスも、図体こそでかいのだが、どうやら絶対防御のスキルはない模様だった。
だが、そのままだとすぐに再生してしまうだろうし、滅多に攻撃など食らうような奴でもないのだろうがな。
そして美しい水色に輝く魔石がそこに輝いていて、今にも零れ落ちんばかりに露出していた。
そして自らが甦らせた同胞の攻撃を突然に食らい、心が凍り付いたようにその場に棒立ちのままのゲンダス。
「へえ、あの腕、鎌に変化するのかあ。
いい切れ味だなあ」
「ザムザは風の魔人よ。
だから残虐に切り刻むの。
ねえ、それよりもあれは一体どうなってるの!?」
そして驚きに固まってしまっているゲンダスを尻目に、ザムザは情け容赦なく鎌にしていない方の左手を素早く伸ばすや否や、手早く傷に突っ込んで奴の魔核を抉り出し、それを見物人に見せつけるかのように天に掲げた。
俺はそれを目視収納し、同時に魔核を失ったゲンダスは力を失って、目の光も消え失せて膝をついた。
盟友に裏切られた失意も相まって、次の瞬間に何一つ抵抗もなく奴は、その巨体を持って石畳を打って轟音を眷属としながら倒れ伏した。
そして俺が、くたばったそいつのボディも無事に収納できたので、これで新しく姿を現した魔王軍幹部相手の戦闘はあえなく終了だ。
さっきのゲンダスの魔核は間髪入れずに、すでにネームド化しておいた。
もう名前は体系的に決めておいたからだ。
倒して取り出した魔核と死んだ魔人のボディを収納しておいても、内部で融合して勝手に復活する事はないのだ。
水龍のゲンダス、奴が敵として俺達の前に立ちはだかる事などはもう二度とない。
あくまで敵としてはだ。
「よくやった、我が僕第二号【ザムザ1】よ」