2-28 勇者カップルの物騒なデート
お次は俺の要望で武器屋へ行った。
ちょっとデートには相応しくない色気のない店だが、勇者カップルなのでその辺は御愛嬌だ。
少し年配の経験豊富そうな店員さんに尋ねてみた。
「この店に、いい槍は何かないかい」
「どのような物をご要望でしょうか。
さすがに、うちでは勇者様にお使いになっていただくような素晴らしい武器は扱っていないのですが」
俺はふと気が付いて泉に訊いてみた。
「君はどんな武器を使っているんだ?」
「ああ、マジックロッドの焔系の連射武器かな。
魔力で撃つんで高威力を連発すると、あたしの場合は魔力切れで滞空時間が減るから、あまり使わないの。
まあ岩でも集めて上から落としておいた方が効果的かな。
地上では打撃武器のメイスへ護身用に切り替えるわよ。
あたしに剣なんて扱えないもの」
「あはは、君も俺と似たり寄ったりの考えだなあ。
俺は持つのはもっぱら槍かな。
それに俺は槍落としが得意なんでね。
君、あれこれ槍を見たいんだが、できれば大型の物と切れ味や刺突力の優れたものが欲しい」
店員は首を傾けて思案していたが、やがて先頭に立って案内してくれた。
「そうでございますか、それではこちらの品など如何でありましょうか」
そして見せてくれた物は、なんともでかい槍というか、これまたなんと表現したものか。
その異様なサイズは刃渡り一・五メートル、全長三・五メートルといったあたりか。
刃はどんと厚みがあり幅も三十センチくらいある。
もはやドラゴンバスターと言ってもいいサイズだが、一体その重量は何百キロあるものかまったく知れない。
「おいおい。
これ、実際の戦いで本当に使える人間がいるのか⁉」
「おられます。
当店では人に使われないような飾り物の武器など販売しておりませぬゆえ」
これまた、はっきりと言い切られちゃったよ。
俺と泉は思わず顔を合わせたのだが、俺は笑い飛ばすと、そいつを収納してみせた。
多分、あの国護のおっさんのようなスキルを持った人間が使うのだろう。
まあ俺は火が使えないような場所でデカブツと出会ったら、こいつを脳天に食らわしてやるのみだ。
「面白い。
いただくから会計につけてくれ。
他には」
「は、これなどいかがでありましょう」
それはまた、えらく大仰なものだった。
「なんだこりゃ」
泉も首を傾げながら呟いた。
「卍手裏剣?」
「いやあ手裏剣にはちょっと見えんがなー。
しかも形が全然卍じゃないぞ」
その忍者的な武器はどうやら投擲武器らしいのだが、そもそも直径二メートルもある刃渡り三十センチはありそうなトゲトゲみたいな刃が数十本ついている手裏剣ってなんぞや。
どちらかというと超大型チャクラムに近いんじゃないのか。
真ん中に穴は空いていないのだが。
そうなると重量がどれだけあるんだよ。
こいつは厚さも結構あるぞ。
どう見たって完全にネタ枠の住人にしか見えないのだが。
「なあ、店員さん」
「もちろん、これも実戦用の武器でございます」
「よし、こいつももらった」
面白過ぎるわ。
ビトーの武器屋はネタ武器三昧だぜ、ひゃっはー。
これをフォミオにブンっと投げさせて、それを空中で万倍化した物をそのまま収納させるという荒業を試してみたいな。
収納から出した途端に飛んでいくぜ。
うっかりと飛ばす向きを間違えたら悲惨以外の何物でもないがな。
こいつは槍とは違って、上の空間が開いていない洞窟のような場所でも使えるぞ。
「お買い上げ、大変ありがとうございます」
「いやあ、あたしの彼氏が突如として中二病を発症したわ~」
泉が楽しそうに、両手をわなわな震わせるジェスチャーを交えながら叫ぶ。
「いや、重量級の武器は欲しいのさ。
どうも俺の武器は火炎系・爆発系が多くてな」
「あ、もしかして火薬とかも作ってるの?」
「へへ、黒色火薬はもう作っちゃった。
ザムザには通用しなかったがなあ。
まだこれから、あれこれと爆発物類は作る予定さ。
フォミオの名は調合という意味の英語から来ているんだ。
あいつのスキルも調合だしね。
俺のスキルと組み合わせると、いつかはメガトン級の破壊力も夢じゃない」
「あなたって、もはや人間核弾頭ね~」
「放射能がない分は環境に優しいよ~」
「うーん」
あとは投下用に相応しい感じの大型槍で、さっきの化け物槍とは異なる普通の槍であるが、これも今までの俺が使っていた貧弱な物と比べると段違いの威容だ。
今までの使っていた槍を、ヘリで輸送する装輪車の対テロ部隊が使うような特殊な軽戦車だとすれば、こいつは重量が五十トンを超す主力のキャタピラ付きの重戦車並みに感じる物で、これまたど迫力だった。
他にもあれこれ仕入れて、なんとミスリルの槍や剣、そして防具なんかも手に入った。
「魔法武器は?」
「ございます」
「俺は魔法を使えないけど、それでも使えるのかな。
召喚勇者だから魔力は十分あると思うのだが」
「魔法武器には二種類ございます。
己の魔法を通して特定の属性の魔法剣として使うような物、また己の魔力を注ぎ込む事により武器に宿った術式で魔法を発動させるような物と」
「よし!
この店の魔法武器は全部いただこうか」
「毎度ありい」
そして気が大きくなっている俺は、もう白金貨五百枚で堂々と支払ってやった。
ミスリルの武器は大変に高価だった。
もうそのうちに王国から怒られそうな勢いの高額貨幣の万倍化ぶりだなあ。
俺自身、白金貨はあまり出してはならないと思っていたし、マーリン師にも釘を刺されていたのだが、いちいち大金貨を数えるのが面倒でね。
まあここは村ではない、大きなビトーの街なのだし、俺は勇者扱いなのだからいいかと思って。
俺の金の出所を知っている泉も呆れ返ってその様子を見ていた。
「いやあ、いい買い物だったなあ」
「もう買いまくりねー、一穂ったら女顔負けだわ。
男の買い物がこんなに長いとは初めて知ったわねー。
買うのは中二病的な武器ばかりだけど」
それからも俺達は洋服を買ったり、アクセサリーを買ったりと金に飽かせて買い物三昧だった。
彼女にも結構プレゼントして着飾らせたし、俺の服を彼女が選んでくれたりして、なかなかの一日になった。
一旦は買い物を終えて街の大型広場に行った俺達は、この異世界の休日満喫ムードで、屋台の飲み物などを頂きながら熱い恋人達の夏を堪能していた。
そう、その災厄がやってくる瞬間までは。
「カズホ」
不吉を告げる使者のようにエレが突如警告を放った。
う、このパターンは記憶に新しいぞ!
俺にさえわかる明確な妖気が漂ってきて、もちろん同じ召喚勇者たる俺の彼女も感じ取って慌てている。
そして多くの人達で賑わった広場に、その死神は突如として、すーっと空から舞い降りた。
うーん、こいつはまたどこかで見た光景だなあ。
俺は落ち着き払って、作ったばかりの自分の彼女を引き寄せて守るように肩を抱いた。
今日はスキルをまだ未使用なのは、はずれ勇者としていい心がけだね。