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2-27 気の利いた仲間達

「そういや、あの二人の姉妹はどこに向かったの?」


「ああ、あてどもない帰還への道を捜しにさ。

 可哀想に、まだ高校生になったばかりの妹を抱えて、どうしても地球に帰りたいって」


「そう……」


 俺は、王国に追われる身となった彼女達の事を想って少し沈痛な顔をした、恋人になってくれたばかりの女性を慰めるように彼女の肩を抱いて引き寄せた。


「俺の知る限りの情報や、十分な物資を与えて二人を送り出したよ。

 必要な物資が欲しくなったり、旅に疲れたりしたら、ふらっと顔を見せてくれるかもしれないなあ。


 そういうのもあるんで、俺としてはなるべくあの最果ての村から動きたくないんだよね。

 居心地がいいのもあるんだけど。


 運がいいと村にいながらにして帰還の道筋が立つかもしれないし。

 まあそいつばかりは確率も低いんで、あまり期待はしていないんだけどさ」


「そうか、じゃあまた遊びに行くから」


「待ってるよー」


 しかし、あいつら本当に部屋へ帰ってこないな。

 まあ気を利かせてくれているのだろうが。


 ショウは知り合いの女の子のところか娼館にでもしけこんでいるとして、フォミオは一体どこへ。

 まあ、どこへ行っても困るような奴ではないのだが。


 夕べは、あれこれと収納袋に詰めて渡してあるので、そうそう困る事はない。

 従魔証を首から下げてあるので、街に行ったってどうこうされる事もないだろうし。


 そして彼女を部屋まで送っていって驚いたのなんの。


 なあんと彼女の部屋の中に、あの二人がいたのだ。

 何故だ!


「あ、おはようございます。

 そちらの方が御戻りになったら出かけようかと思っていたところです」


「おはようごぜーます。

 夕べはお楽しみでやんしたね」


「ぶふうっ」

「きゃあー」


 泉は真っ赤になって俺の後ろに隠れた。


 ま、まさかこのような定番の台詞を己の従者の口から聞く日が来ようとは。

 俺もついにリア獣の仲間入りなのか!


「お前らこそ、な、何故そこに」


「あー、宿の方にお願いして別の部屋を取ってもらおうと思ったら夕べは空きがないそうで。

 それならこうした方がいいと宿の主人が」


 おお、勇者二人に対して気を利かせた宿のサービスであったのかあ。

 まあいいんだけれど。


「なあ、もう一回戻って部屋で御飯にでもする?」


「あー、どうせなら外のお洒落なお店で食べたいな。

 もう場所は聞いてあるの。

 前から狙っていたんだけど、女の子一人で入るのはなんなので、まだ行った事はないんだけどね」


「さすが女の子はそういう物に目がないな」


 泉はくるっと回って、えっへんという感じにピースサインを作った。


「じゃあ、僕はあれこれと仕入れに行ってきます」


「あっしは部屋で工作の続きを」


「へー、今何を作ってるんだい」


「これっす」


 それを見て俺と泉は思わず笑ってしまった。


「やっだ、フォミオったらもう最高」


 なんとフォミオは鉄パイプフレームを基本にした、各部のパーツが木製の『三輪車』に跨り、コキコキと一生懸命に漕いでいる。

 それは、俺が説明して製作を頼んでおいた物だった。


 うん、これはもう完全にサーカスの熊の世界だなあ。

 あの月の輪魔物をどこかで捕獲して、調教してからこいつに乗せてみたいもんだ。


 しかし、この三輪車って耐久性が異常に高いな。

 この図体のフォミオが乗って壊れないとは。

 どこで仕入れたんだよ、そんな頑丈な木材を。


 それにしてもフォミオの楽しそうな事。

 ここの土産といってしまっていいのかよくわからないが、これも立派な御土産になりそうだなあ。


 それから俺達はお買い物デートだ。

 まずはバッチリとお洒落な店でお食事を決めた。


 そこの食事もなかなかの内容で、日本でお洒落なランチをするのとそう変わらない感覚だった。


 お次はイートインも可能なお菓子のお店から攻める。

 ショウから聞いていたお菓子店へ行って見たのだ。


 そう、この街は贅沢にもお菓子専門店なるものがあるのだ。


「おおー、これは皆にも買っていかねばー。

 あれこれ種類があるなあ」


「俺が持っているこの激マズ瓦煎餅も是非!

 やっぱりネタ土産は必要だぜ。

 これを食うとあの焼き締めパンが御馳走に見えるぞ」


「め、名物に美味い物無し!

 でもせっかくだから後で貰っていこうっと。

 おー、このケーキなんて、本当に素敵だわあ。

 うっひゃあ、タルトっぽい物まであるー」


「カズホー、全部買うのよ~。

 夕べは気を利かせて、あたしも向こうの部屋に行ってあげてたんだからねー」


「はいはい、わかっているよ。

 当然全種類買って帰るのに決まっているさ」


 だが精霊の姿が見えず、声も聞こえない彼女が不思議そうにしている。


「どうかしたの?

 誰と話しているの」


「ああ、お菓子好きの精霊が、もう全部買え買えって煩くてさ」


「ええ、精霊さん?

 どこ、どこ。

 精霊さん、どこ」


「今、俺の頭の上で威張って君を見下ろしているところさ。

 なあエレ、頼むよ」


「わかったわよ。

 この子はあんたの彼女になったんだし、悪い子じゃなさそうだしね」


 そしてエレの加護を貰って、すぐ目の前にエレが飛んでいるのが見えたので泉が驚いて飛び退った。


「わ、びっくりした。

 って、何で女の子なのに裸なのよー」


「服の作成はフォミオに頼んでおいたんだがなあ。

 そいつらは翅があるんで服の作成が難しいんだ」


「そう、じゃあ今度あたしが作ってあげるよ。

 人形の服とかを作るの割と得意なの」


「へえ、さすが女の子だなあ」


 そう聞いて興味が湧いてきたらしいエレも腕組みして胸を張った。


「どうせなら可愛いのを頼んだわよ」


「お前、服に興味ないって言ってなかったか」


「いや、せっかくなんだしさ」


「うーん、ところでこの子ってなんでトンボみたいな翅なの?

 普通は蝶みたいな奴じゃなかったっけ」


「「さああー?」」


 俺とエレは共に首を傾げた。

 本人にだってわからない事が俺なんかにわかろうはずもない。


 人間だって、「ねえ、あんたって何故目が二つで鼻は一つしかないの」とか聞かれたって困るしなあ。


 まあ蜻蛉(とんぼ)と書いて『せいれい』と読むくらいだしね。


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― 新着の感想 ―
[一言] しかし王様は信用出来たとしても必ずしも『国』は信用出来ないと思うんですよねぇ・・・
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