1-10 気分は襤褸切れ同然です
そして例の襤褸切れ同然の毛布の群れも集めた。
まるで、それは今のこの俺のようだな。
もう準備するガラクタどもすべてに、つい自分を重ね合わせてしまう。
ボロだけれど何も無いよりはずっとマシだった。
どんなボロな物品だって、今のうち捨てられた俺なんかよりも、きっと何がしかの役には立つさ。
もう自虐的思考が止められない。
いかん。
早く人里に出ないと、体よりも心の方が先に死ぬ。
途中で野宿になるだろうし、どんなボロだろうが直接地面の上で寝るよりは、きっと優しい寝心地さ。
テントやシュラフなんて立派な物は勿論存在しない。
この世界での旅装に相応しいだろう、マント一つここにはないのだから。
兵士が忘れていったらしき着替えなどがあったので、それも回収しておいた。
街についたらこれらの服も売ってやるぜ。
とにかく何を置いても、まず金がいるんだ!
ああ、でも今は俺自身の着替えすらないんだよなあ。
後は、錆びてもう半分使い物にならないような廃棄用の剣や槍か。
使い古した廃品寸前の砥石なんかもあったので、少し研いでみた。
元々ここで使うような剣などは打撃武器みたいなものだったし、槍なんかも一応刃はあるのだが、ここの物は斬るのではなくて、基本的には刺突武器のようだしな。
でも思いっきり研いだら凄く切れるようになったりして。
もう随分と使っていなそうな台所には、古い干からびた薪が何束か残っていたので貰っておいた。
かっぱらって売り飛ばせそうな品は何もなかった。
おっと、机と椅子ももらっておかないとな。
慰謝料にはまったく届きそうもないガラクタ同然の品々だが、今の俺にとっては大いに役に立つだろう。
兵士達の履く革のブーツが何足かあったのでありがたい。
俺のビジネス用の革靴では、とてもじゃないが、この荒野を渡るのは無理だからな。
サソリや毒蜘蛛なんかがいるかもしれないし、ただの蟻だってヤバイ奴がいる可能性がある。
ここは日本ではないのだから、未知の生物には絶対に用心しないといけない。
毒々しい色合いのチビ蛙なんて死んでも触るもんか。
あいつらの中には、ほんの全長一センチサイズの体格で、ちょいっと触っただけの人間を殺せる奴までいるのだから。
ブーツの中は、中敷きに毛布の切れ端を詰めてサイズを調節した。
慣れないタイプの靴で思いっきり靴擦れしそうだし、水虫にならなければいいがと心配しつつも、他にどうしようもない。
途中で熱中症になってもいけない。
これまた古いボロな革の帽子があったので拝借した。
コーディネート的には最悪の感じだが、まあそこは仕方がない。
つまらないファッションなど気にしている場合ではないのだ。
古い革鎧らしき物もいくつかあったので、そいつも持っていく事にした。
くっ、さすが鎧というだけあって、鉄製でもないくせに非常に重い。
こんな重い物を着込んでいたら、俺などは真面に歩けないと思うのだが、何かあるといけないからな。
これは着ないで持っていくだけにしよう。
まあ何かあった時なんかは、いちいち鎧なんか着ていないで、さっさと逃げた方がいいとは思うのだが。
篝火を炊く、これまた古びた焚火台も全部もらっておいた。
これは調理もできるだろうから野営ではきっと役に立つはずだ。
野獣がいたら野獣除けにもなるだろうし。
大きな斧があったので、あれで椅子や机をバラせば薪は追加で手に入る。
焼く食い物といったら、あのパンしかないんだけどね。
あれを焼いたら少しは美味しくなるだろうか。
すでに激しく焼き締めたものだから、あまり期待できないけど。
大戦の頃によく作られていた日本の軍隊堅パンは、硬度を測ると歯が折れるレベルの代物で、実際に日本軍の兵士が歯を折ったという記録がある。
だが、あれも水や牛乳でふやかして食べると、それなりに美味いらしい。
焼いた時に熱で堅くするために砂糖が加えられているからな。
ここの焼き締めパンは、そこまで堅くないのだが、その代わりに果てしなくマズイ。
あと、ありがたい事に忘れられていたらしい塩がそれなりの量があった。
もう半分袋が風化してしまっていて、上手に仕舞わないと零れてしまいそうだった。
兵士が置いていった物の中に、空いた麻袋なんかが幾らかあったので、そっちへ移してみた。
これは戦のための備蓄だったのだろうか。
こいつは基本的に腐らない化学物質だから、消費期限が存在しないからな。
湿気があると溶けてしまうだろうけど。
それに、こいつがないと人間はそのうちに死んでしまう。
塩があれば、野草のスープくらいなら作れるかもしれない。
ずっとパンだけでは、すぐに死んでしまいそうだ。
災害時のように、そういう生活を一週間も続けていると、死なないけど体に少なからず異常をきたすのだ。
何か蛋白質が欲しい。
何かの野草の豆でもいいんだけど。
震災などに備える備蓄食料を持つなら、蛋白質が豊富な副菜も揃えておこうぜ。
おっと、鍋鍋。
うーん、見つけたのだがね。
こいつはまた見事なまでに錆錆だあ。
そりゃあまあ、ハイテクな鍋ではなくてただの鉄の鍋だからな。
頑張って錆を落として、腐食防止の被膜を作るためのシーズニングを試してみるか。
もう、こんなになっちまったらやってみても無駄かねえ。
鉄フライパンなんかは、うっかりと錆びさせてしまったような場合、綺麗に磨いてからそういうのをやり直す事もあるそうだが、きっと買い直した方がよっぽど早いほどの手間がかかるはずだ。
それをやるための材料も特にないしなあ。
とりあえず、磨かないと錆スープしか作れない。
それだと鉄分の補給だけはしっかりできそうだが、俺は発色をよくしたい黒豆じゃないんだから、さすがに御勘弁だ。
調理器具なんかも一式いただいた。
包丁は剣用の砥石で研いだら、なんとか使えそうだった。
とりあえず、今夜はここで寝て明日出発する事にした。
ああ、風呂に入りたいな、畜生。