#006 配下の躍進
「フ……フフフ……ハーッハッハッハ!」
リッチーの口から、思わず笑いがこぼれた。
彼のシステムは順調だった。見守りサービスの利用者は右肩上がりだったし、彼の“徴兵”に応じるものもすでに数人現れていた。
「何ですのリッチー。パソコンを見つめて急に高笑いなんて、気持ち悪いにも程がありますわ。働き過ぎてついにおかしくなったんですの?」
そう広くはない和室の隅で蹲り、ノートPCのモニタを凝視して高笑いを浮かべるリッチーを、ハピィが覗き込む。
「……あら、随分と沢山振り込まれてますのねえ。どこかの薄給サラリーマンに見せてやりたいですわ」
画面に表示されていたのは銀行口座の残高だった。
「フン、何とでも言え」
精一杯見下した笑みを浮かべるハピィを、リッチーは軽くあしらった。徐々に力を取り戻しつつあることが、彼に余裕を与えていた。
「しかし貴様の屍術も凄いものだな、リッチー。
まさかゾンビ共に生前の暮らしをそのままさせるとはな。周りの人間にバレそうなものだが?」
ドラコが賞賛半分、嫉妬半分といった面持ちで尋ねた。
そう、リッチーは持ち主死亡の可能性を検出するとすぐに現場に向かい、死体をゾンビに変えた。そして検出通知を誤報として、ゾンビに生前の暮らしを続けさせたのだ。彼らの銀行口座他の財産は全て差し出させた上で、だ。
彼が魔力を注ぎさえすれば動き続けるゾンビに生活費は不要だった。従って浮いた生活費を彼は自分のものにした。給与、年金、生活保護etc. どんな人間でも、意外に収入があるものだった。
「フン、起きて会社に行き、仕事をするふりをして一日の大半を過ごし、帰って眠るだけの生活を再現するなど造作もないこと。奴らはそもそも生きてなどいなかったのだ、私が操ったところでさしたる違いはあるまい?
それに元々誰も注意を払って奴らを見てなどいない。だから気づこうはずもない」
リッチーは薄い唇の端を歪める。彼はゾンビにするのは、社会と接点がないか、社会に所属してはいるものの、ほとんど顧みられていない人間を優先していた。
ゾンビの強化などいくらでもできた。そうであれば、生前の身体能力よりも死んだと気づかれないことの方が重要だった。
「悪い顔しますのねえ。全く、元人間とは思えませんわ。
いいえ……元人間だから、ですかしらね」
ハピィが肩を竦めた。リッチーは応えなかった。だが彼の表情には、どこか余裕というか優越感が漂っていて、ハピィとドラコは心中穏やかではなかった。
「のう、リッチー。お主は上手い事ゾンビどもの給料をピンハネしているようじゃな?
ならば、金はあるのであろう?」
どこかピリピリとしていた3人の部下達の間に、にこやかに魔王が割って入った。
「勿論です、魔王様」
得意げに頷くリッチーに、彼女は笑顔を輝かせてスマホの画面を見せた。
「スシのデリバリーを頼んでもよいかの? 無論、特上じゃぞ」
天才屍術士といえども、所詮は魔王の配下に過ぎない彼に、否と言えるはずもなかった。
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