#004 社畜の妄想
(ああ、誰かがこいつらを全員、死体に変えてしまえば良いのだが)
都心に向かう満員電車の中で、人の群れに押しつぶされながら、リッチーはそんなことを考えていた。彼がそんな消極的な期待をするのには理由があった。
単純に、死体の無い彼には攻撃能力が無いのだ。
代々高名な魔術師を輩出している貴族の家に生まれたリッチーだったが、彼は魔術が使えなかった。
元の世界では、人間なら誰もが四元素精霊の少なくとも一人から祝福を受け、力を借りてその属性の魔術を行使し、それを主な攻撃方法としていた。
とはいえ勿論強さも、扱える属性の数も人によって違うため、力が弱く攻撃力にはならない場合もあった。
だが彼の場合は、そもそも祝福を受けられなかった。故に一切魔術は使えず、それによる攻撃もできなかった。
ついでに運動神経が壊滅的な彼には、剣術などの物理攻撃能力も全く期待できなかった。
そんな彼が見出したのが屍術だった。強力な死体を操り自らの力とすることで、彼は彼を祝福しなかった世界と精霊達に復讐していった。
だがそれも、昔の話だった。今の彼はその力もない、ただのサラリーマンに過ぎない。
(他人に……それもこの世界の人間共などに期待するとは、な。私も堕ちたものだ)
彼はため息交じりに自嘲した。陰鬱な気分を紛らわすため、何とか隙間を見つけてスマートフォンを取り出し、ブラウザを開く。サジェストされるニュースの中に、ふと気になる見出しを見つけた。
『現役世代に広がる孤独死の恐怖』
記事によれば、一人暮らしの高齢者だけでなく、三十、四十代の現役世代でも誰にも顧みられずに死に、発見されずに惨事になるケースが増えているらしかった。
(誰にも発見されずに朽ちるだけの死体があるだと……?)
リッチーは小躍りした。これを誰よりも早く見つければいい。見つける仕組みを作り、誰よりも早く自分の兵士に仕立てる方法は無いかと彼は考えを巡らせる。
だがいいアイデアが浮かばぬうちに、彼は会社に着いた。
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「リッチー、早くしろよ。会議、始まるぜ!」
同僚が苛立った様子でリッチーを呼んだ。彼が苛立つのも無理のない事だった。新しく発売した高機能な時計型活動量計の売り上げが奮わなかったのだ。
その対策会議で、ゴーサインを出したはずのお偉方がそれを忘れて彼らを叱責するのは目に見えていた。
脈拍、血圧、睡眠時間に血糖値、等諸々の健康指標の計測、ついでに通信機能も備え、デザインも悪くない、と他社製品に劣るところは無いように見えた。ハードの点では、だ。
他社は測定した健康指標を様々なサービスに連携させていた。この製品には、それが抜けていたのだ。
どんなサービスと連携させるか、いつの間にかそれが議題になっていた。
(サービス、か……。待て、この装置を使えば“死”を検出できるのではないか? いち早く、死体のところに向かえるのでは……? ならば)
「見守りサービスはいかがでしょうか。最近は現役世代にも孤独死が増えているとか。彼らの健康管理と、万一の時の対応、それをセットにすれば。ああ、単独世帯向けの賃貸物件オーナー等に入居者に勧めさせるのは如何でしょう? 死後長く経過すれば、それだけ原状回復も――」
「ふうむ、悪くはないな。サービスの一つとして、やってみろ。今はとにかくアイデアが必要なのだ」
偉い人の一声で、リッチーの案は採用された。単純に、他の誰も新しい仕事を押し付けられ責任を取らされるのが恐ろしくて意見を出さなかったために、半日過ぎてもそれしか無かっただけなのだが。
そんなわけで、彼は見守りサービス作成プロジェクトのプロジェクトマネージャーに任命されたのだった。
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