#003 屍術士の過去
あの日、世界を魔の手から救うために女神により異世界から召喚された、という勇者が魔王城に攻めてきた日、彼ら四人の全員が確かにその勇者に討たれたはずだった。
薄れゆく意識の中、ただ塵に還るものと思っていた彼らはしかし、何故か再び目を覚ました。
だが、目覚めた先は元の世界とは異なる、この日本であった。
勇者に倒され、その一生を終えたはずの彼らが、なぜ日本に転移したのかは分からない。何の前触れも説明もなく、ただ気が付いたらここにいた、それだけだった。
自分達を倒した勇者の様に、その世界の神と対面し、そこから明確な目標を与えられる、などという親切なイベントは、彼らには発生しなかった。
また、目を覚ましたときにドラコはオオトカゲになっていたし、魔王は幼女になっていたが、それも理由は分からなかった。リッチーとハピィの二人には転移による変化は特に見られなかった。ハピィの変化は完全にその後の生活習慣のせいだった。
いつまでも分からぬことを考えていても仕方ないと、彼らは元の世界に帰るため様々な事を試した。だが散々やってみたものの、元の世界に戻る手立ては得られなかった。
それで彼らは気を取り直し、この世界で生きていくことを決めた。ならばついでにこの世界を望むように変え、彼らの第二の故郷にしよう、と彼らは活動を開始した。
リッチーもそのための力を取り戻すべく、死体を手に入れようと奔走した。
手始めに墓場に行ってみた。葬られてから時間が経っているため状態は期待できないが、とにかく死体を手に入れることが先決だった。彼はそれを足掛かりに兵士を増やすつもりだった。
だがそこに辛うじてあったのは腐った死体でも骨でもなく、僅かばかりの灰だけだった。それではスケルトンとして再生することは不可能だった。
ならば荼毘に付される前に、と彼は葬儀会社に就職した。厳重な監視をすり抜けわずかな隙に屍術を施そうとしたが、結局同僚に見つかり失敗に終わった。
こっぴどく説教され変態呼ばわりされたあげく彼は職を失った。それでも警察に通報されなかったのは不幸中の幸いだろうか。
次に死体が多く打ち捨てられていると噂の樹海に、なけなしの金でようやく片道の交通費を捻出して行ってみた。噂の通りだった。
だが見つけはしたものの、目的を果たすことはできなかった。何かに妨害されて魔力は使えず、彼は死体を兵士に変えることはできなかった。
更に悪いことに、帰りは転移魔法を使う気だった彼はそれも叶わずすっかり迷ってしまった。
半日彷徨ったあげく、ボランティアに保護された彼は樹海に来た動機や人生の悩みをしつこく聞かれた。本当の事を話す訳にもいかず困惑したリッチーは、故郷を離れた地で漸く手にした職を失った、とだけ話した。
するとボランティアの人は彼に職業紹介の窓口を教えてくれ、さらには励ましの言葉と帰りの交通費と共に彼を送りだしてくれた。
こうして、彼の力を取り戻そうという試みは悉く失敗に終わった。酷い失敗だった。屍術士としてその才能を開花させて以来、彼が経験したことの無い屈辱だった。
その後、当座の生活に困り果て、教わった窓口に行ってみた彼は、健康家電メーカーで技術者として、わずかばかりのサラリーで糊口をしのぐ生活に不本意ながらも落ち着いたのだった。
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