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#012 天才の実力

「良いのか、リッチー?」


 福引会場に向かっていく同僚の姿を見送る彼を、心配そうに魔王が見上げる。


「どういう意味でしょうか、魔王様?

 所詮彼女はただの会社での同僚。こちらでの仮初めの関係に過ぎません。これからの事に巻き込まれようと関係の無い事です」


「……そうか。ならば良い。昨日の約束だけは忘れるなよ」


「承知しております。ですが……何故そのような事を。

 まさか魔王様、こちらの人間に下らぬ感――」


「無論こちらの人間共の考え方を考慮はしておるぞ。じゃがそれは、目的を達するにあたり最善の方法を導くための事。それだけじゃ。

 なんじゃ? 余を疑っておるのか?」


 眉間にしわを寄せ、若干不機嫌に問いかけるリッチーを、魔王は静かな声で制した。


「も……申し訳ございません、魔王様。疑うなど滅相もない事。余計な事を申しました」


 その静かな迫力に、リッチーは慌てて謝る。


「まあよいわ。そんなことよりこれからが本番じゃ。

 見よ、リッチー。先ほどの姫子も申しておった、豪華景品の当たる無料の福引じゃ。普段ここで買い物なぞせぬ奴らがぞろぞろと集まって来ておるわ。まこと、浅ましい限りじゃな」


 魔王は通路から、吹き抜けの下に見える広場を指差した。そこには人が続々と集まりつつあった。


「もう少しで始まる。そうなればほとんどの人間がそこに集まる。その時が好機ぞ。手はず通り、分かっておるな?」


「照明を落とし混乱が生じた隙に、私の配下に彼らを拘束させる。それと共にこのモールを封鎖する、でしたね」


 リッチーの答えに、魔王は大きく頷いた。


「そうじゃ。ああ、一部は逃がせよ。外に伝える役がおらねば面白くないからの」


 魔王が嗤い、パチンと指を鳴らす。モールの照明が一気に落ちた。


「なっ!? 停電!? どうなってるんだ!?」

「ママ、こわいよー!!!」

「ちょっと、どうなってるのよ!!!」


 突如暗くなったモールで、人々の恐怖や混乱、怒りなどがごちゃ混ぜに叫ばれていた。


「永劫不滅の死を束ね、生を滅する剣と成す! 打ち砕け! イモータル・レギオン!」


 リッチーが唱え終わるのとほぼ同時に、モール内の非常電源が作動する。先ほどよりは少し暗い照明の下に、彼が召喚した白装束の兵士達の青い顔が浮かび上がる。


「は? 何だこれ!? なんかのイベント? ドッキリ!?」

「おい、何なんだてめえら!」

「ちょっと、一体何なのよ!! 子供が怖がってるじゃない!!!」

「僕達を囲んで、どうするつもりだ!? 訴えるぞ!」


 人々が口々に怒りや疑問を叫ぶ。


「リッチー、人間共はあまり怖がっておらぬぞ?

 ゾンビパニック映画のようなのを期待しておったのだがのう。

 というか、そもそもあれではゾンビというよりただの不審者じゃな」


 その様子に魔王がやや不満げに呟く。


「……昨日まで日常生活を送らせておりましたから。

 一般的なゾンビのイメージはそうかもしれませんが、そもそも死体を保存できず腐らせるなど二流のすること。

 心理的効果はともかく、それでは攻撃力、機動力とも大幅に劣ります故」


 リッチーの強い抗議に、魔王は若干たじろいだ。


「う……うむ、そうか、そういうものか。お主の拘りは分かった。難しいところじゃな。

 まあ良いわ。目的は人質を取ることじゃからの」


 抽選会場にいた人々はすっかりゾンビの軍団に取り囲まれていた。逃げようとするものや、ゾンビを倒そうとするものもいたが、リッチーの手により肉体を強化されているゾンビを人間が超えることは叶わなかった。


 やがて、威勢の良かった人々の間にも徐々に不安と怖れが広がっていく。


「愚かな人間共よ、悪あがきは済んだか?

 我は魔王! さあ、恐怖するが良い!!」


 そこへ魔王が高らかに嗤い、吹き抜けの下に見える広場に向けて飛び降りる。リッチーもそれに従った。


 宙を舞う二人を、ゾンビに囲まれた人々が驚きと怖れの混じった顔で見つめていた。


「は? 何? 魔王? 幼女がな――」


 魔王を指差し、笑おうとした男を彼女が睨みつけた。男はその眼光に威圧され、すぐに口を噤んだ。その様子を、一人の女性が震えながら指差す


「え? リッチーさん? それに、マオちゃんも……?

 どういうこと……? 一体、何をして……あうっ」


 問い掛ける姫子の首筋に、ゾンビが手刀を打った。彼女はふらりと床に崩れ落ちる。近くにいた人が、彼女とその後ろのゾンビから距離を取ろうとして押し合いになり、軽いパニックが起きた。彼女を助けようとする者などいなかった。


「良いな、その反応。実に人間らしい。

 さあ、力の差が理解できたなら大人しくしてもらおうか。

 まあ、我が軍勢に加わりたいのならば話は別だがな。お前らのようなクズでも、私が優秀な兵士に仕立ててやるぞ? 死体であれば、だがな」


 リッチーが口の端を歪める。その邪悪な笑みに、人々の間にさらに動揺が走る。


「取り囲んでる奴ら、まるで生気を感じない」

「さっき殴ったら、ぞっとするほど冷たかった」

「まさか本当に……死体……ゾンビ、なの、か……?」


 人々が顔を見合わせる。誰も彼も怯えて、青い顔をしていた。


「きゃあああああ!!!!!」


 一人が叫んだのを皮切りに、次々と悲鳴が上がる。人々の絶叫がモール内にこだました。

いつもありがとうございます。

いよいよクライマックスです。楽しんで頂ければ幸いです

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