それでも娘に恋をする。
ついに完結しちゃいました。終わって見ればちと切ない、そして短い間でしたが、ご閲覧いただき、誠にありがとうございます。
中庭での会話を終えると、私はどうしていいものかわからず、ただただ目を閉じて、耳を閉じる。私の存在がリュウの意識を殺す…それがとてつもなく重い。申し訳ない気持ちで苦しい。余程の事がない限りは、スイッチする事はしまいと、心に誓った。
授業が終わり放課後、体育祭の準備で生徒達は大忙し。先程の中庭での一件を引きずりリュウの方も戸惑っていた。誰に話しかけられても上の空で、「ああ」とか「うん」しか答えられない。
リュウの胸中はこうだった。自分より、良介の方が上手く世の中を渡れるだろうと。人当たり良く、正義感と責任感の強い自分の理想像…リュウは自身の自我が無くなる意味を考えていた。…そして結局は何も思いつかなかった。
ノリコ「高島君、あなた、何を悩んでいるの?」
リュウ「僕はどうしていいか、わからない。リョーサンは困った時しか出てこないって言ってるし。」
ノリコ「それでいいと思うわ。出てくる回数が多ければ多い程、あなたの自我は薄れていく。憶測でしかないけどね。だからあなたは自分でいれば、あなたのままでいいのよ。一日何時間も他人に体を預けては、自分が自分でいれなくなる。魂と体は自身の物なの。」
リュウ「数分程度なら問題ないって認識でいいのかな?」
ノリコ「15分、これが体を預けれる限界値。超えてしまうと何らかの異変が体に出て来るわ。」
リュウ「頭痛と体の痛みは、そのせいなのかな?」
ノリコ「おそらく、としか言えないけどね。暫くそれで、様子を見ましょう。」
リュウ「ありがとう。」
そう言って準備は他人に任せてその日は家に帰った。
家では、妹の勉強を見て予習、復習、そして良介の日課のランニングと筋トレをして眠りについた。
光希「お兄ちゃん、なんか変わったね。前より逞しくて…カッコイイ(ごにょごにょ)」
母「お兄ちゃんっ子もいいけど、そのブラコンぶりは母親でも引くわー、でもそうね、あの子明るく元気で逞しくなってきたかな。」
父「恋でもしたかな。」
光希が口に含んだミルクを、グラスに逆流させる。
光希「ぶはっ。パッ、パパ、変なこと言わないでよ。お兄ちゃんに限ってそんな事…」
父「光希も、もう少し大人になったらわかるかもな。そして、そのブラコンっぷりは父でも引くぞ。」
光希「ふん、ほっといてよ。お休みぃー。」
そう言うと、光希は足早に自室に戻っていった。
父と母は、光希のブラコンっぷりに微笑みつつも少し心配である。
父「知らない間に成長してしまうんだもんな。龍之介、何かあったな。」
母「そうね、暖かく見守りましょう。…ただのシスコンだと思っていたのに。いい男になってきたわね。」
高島家の一家団欒中、私は意識を戻していた。リュウは寝ている、いつ戻れるのか、永久に戻れないのか、自分の体が少し恋しくなってきたのだろうか。私はレイの涙を思い出し、密かに涙して、意識を落とそうとした。部屋のドアが静かに開く音がする。誰かが入ってきて頬に何か温かいモノが当たる。私の涙を何かがなぞり拭き取られる。気になって目を開けると、妹の光希が唇を頬に当てていた。
心拍数が上がる。早く部屋から出て行って欲しい私の望みとは真逆に、光希は私の布団に潜り込み、背中に抱きついて来た。私は強引に意識を落とす。
数時間が立ってリュウが意識を取り戻す、背中に当たる何か柔らかいものと抱かれている腕に困惑する。何がどーなっているのだろう。光希が同じ布団で寝ている。少し前なら向き直って抱きしめていただろう。しかし、リュウは何もせず、ただじっとしているだけであった。自分の中で、何かが変わったのを、リュウ自身感じていた。リュウは穏やかな気持ちでもう一度意識を落とした。
翌朝、光希は自室に戻っていた。昨夜の事は、父親の言葉で急に寂しくなってしまったのだろうと思われる。兄が遠くに行ってしまう様な感覚に襲われていて、自分自身その感情に気づいていた。そして、兄を思う気持ちも本物であると確信していた。学校の準備をして、洗面所で歯を磨きながら髪を整える。
光希「よしっ。」
ある決意をして、光希は家を出た。
光希「いってきまーす。」
リュウ「おはよう、光希はもう出たの?」
母「朝練あるからって早くに出たわ。あんたもそろそろ出ないと遅刻するわよ?はい、お弁当。」
リュウ「ありがとう、そろそろ行くよ。行ってきます。」
リュウは何も考えず家を出た。いくつもある坂道を無心で自転車を漕ぎ、いつのまにか学校に着いていた。
昇降口には、レイがいた。
リュウ「おはよう。今日は委員会あったっけ?」
レイ「おはよう、今日はプログラムの質疑応答、時間調整について、だったかな。」
リュウ「ありがとう、また放課後。」
そう言うと、リュウは足早に教室へ向かった。レイは上履きを履き、靴先を床にトントンとして、一呼吸。自分の胸に手を当て心拍数を確かめる。そして、少しドキドキしている自分に気づく。
レイ「好きなの…かな。パパに少しだけ似てる。でもダブらない。」
エミ「何、一人でぶつぶつ言ってんの?レーちゃん、おはよ。」
レイ「な、何でもないから。いこ。」
そう言って2人は教室へ向かった。
足早に教室へ向かったリュウは、教室の自分の席に座り、一呼吸。やっぱ可愛いな、と心の中で呟く。好きな子と話してドキドキしないわけがない。
リク「おはよー、高ちゃん。顔赤いけど、大丈夫?」
タカシ「リュウノスケって呼ばね?俺もタカちゃんなんだが。」
2人は笑いながら、それもそうだと納得する。
リュウ「リュウでいいよ、長くて呼びづらいでしょ?」
タカシ「わかったよ、リュウ。なんか呼びやすい。」
リク「リュウ、響きがいいな。うん、呼びやすい。」
始業のチャイムが鳴ると席について先生の点呼が始まる。そしてこの日から、クラスメイトからリュウと呼ばれるようになった。
一方私は、未だに塞ぎ込んでいた。ノリコとリュウの会話を聞いていたが、最初の一週間くらいはずっと私が体を動かしていた。それがリュウの体に影響していなければ良いのだが…頭痛、体の痛み、シスコン。私の影響でリュウに余計な負担をかけてしまっていた事だろう…シスコンは関係ないか…体を使わなければ、大して問題ないのかな。リュウと脳内で会話だけならいいのか、あとで試してみようと思う。
昼休み、私はリュウに呼びかけた。
私(昨日の会話は聞いていた。何も知らずに君の体で無茶をしてすまなかった…)
リュウ(気にしてません、むしろ僕はあなたに会えて良かったとさえ思ってます。)
私(私が体を使いさえしなければ頭痛は無いと判断して呼びかけているがどうだろう?)
リュウ(長時間、僕が体を預けるとそうなるみたいですね。今は全く問題ありません。)
私(そうか、なら良かった。困った事があったら言って欲しい。私に出来る事なら協力するから。)
リュウ(ありがとうございます。僕に取り憑いたのがリョーサンで良かったと心から思います。)
照れくさい言葉を普通に出してくるこの優男を私は気に入っている。そして、私と似ている、だからリュウに引き寄せられたのでは?っと思ってしまった。人の成長を見守るのは楽しく、そして心が躍る。親にも似た感情を、私はリュウに抱いていた。
放課後、体育祭の準備でクラスは賑わっていた。リュウとノリコは委員会の為、会議室へ。
リュウ「ところで、君は一体何者なんだい?こういう話に詳しいけど。」
ノリコ「生まれつきこの世のモノではない物とかが見えるのと、家がお寺なだけであとは普通の女子高生よ?」
リョウ「お寺の子なんだね。」
ノリコ「詳しいのはおばあちゃんね。代々女性にしか備わってきてないのよ。見えるチカラ。そして寺を継ぐのは長女。つまり私の姉。姉は私より明確に見える。近い未来まで見えてしまう事もあるらしいわ。」
リュウ「それはすごい。現実にいるんだね、そういう人。」
ノリコ「見えすぎるのも案外残酷よ?余計なモノが見えすぎて、お寺から出れないもの…」
姉を哀れむ妹は、悲しそうに語ってくれた。
会議室に着くと、早速席に座らされ、上級生が進行を開始する。司会を進行するのは、前回同様、私が部下にしたいと思うメガネ君だ。
メガネの上級生「…というわけで、各クラスでプログラムを配布して、リレーのメンバーを記載して提出。以上!質問は?ないな?解散。」
早いっ、そして、無駄がない。進行も資料も完璧だ。このメガネ君、絶対出世するわ。
会議が終わり、レイが寄ってくる。
レイ「龍之介はどの競技に出るの?」
リュウ「僕は徒競走のみ、リレーとか練習時間ないし。レイは?」
レイ「私もそう、龍之介も赤組だっけ?」
リュウ「うん、レイもだっけ?勝とうね。」
レイ「モチベそんなに無いけどね、せっかくだから勝ちたいね。」
微笑ましく会話する2人を見て、距離感が縮まっている事に私は気づいた。嬉しくもあり、寂しくもある。愛する娘を取られた、という気分にはならないが、自分以外の男に好意を持つ娘を見て少し切ない。
ノリコ「そろそろ戻るわ。高島君、先に行くわね。」
リュウ「僕も戻るよ、んじゃレイ、またね」
レイ「ん、またねー。」
軽く挨拶して、ノリコと教室へ戻る。教室で資料をまとめ、提出物を書き終え2人は下校する。校門から自転車にまたがり、ノリコと別れる。いつかおばあちゃんや、お姉さんとも話をしてみたい。
家に着くと光希が部屋で待っていた。
光希「お兄ちゃん、勉強教えて。」
部屋にやってくる度に肌の露出や、スキンシップが多くなった気がする…過度のブラコンの妹を真剣に心配してしまう。
そしてリュウは光希を見てもデレなくなっていた。その変化が光希にとっての不安材料なのかもしれない。
光希「お兄ちゃん、最近変わったね?学校で何かあったの?」
リュウ「体育祭の実行委員会に参加しているのと、友達が何人か出来た。光希のファンだっているんだぞ?」
光希「へぇー、友達出来たんだ、良かったね。お兄ちゃん。」
ファンに関しては何の喜びもなく、友達に関して何か引っかかるようだ。リュウもひしひしと何かを感じていた。
リュウ「最初、友達なんていらないって思ってたんだけどね。僕の恩人が、『友は大事だ、いつかそれがわかる日が来る』って言うからさ。」
光希「へぇー。恩人ね。なんか、最近のお兄ちゃん、遠くに行っちゃった気がする、少し寂しいょ。」
リュウ「僕は僕だよ、光希。少しだけ、大人になった…ただそれだけだよ。」
ふてくされたように、光希は言う。
光希「勝手に大人にならないでよ…まだもう少しだけ…私のお兄ちゃんでいて欲しいょ…」
リュウは光希の頭を撫でて、うなづく。
リュウ「お風呂入って、ご飯食べて、その後に勉強の続きしよ?」
光希は小さく頷くと、リュウに寄りかかり抱きしめる。リュウは頭を撫でたまま目をつむり、優しく語りかける。
リュウ「僕は光希のお兄ちゃんだよ?世界に一人しかいない妹、愛さないわけないだろ。でもね、恋愛と、それは別なんだよ。もうちょっと大人になればわかるかもね。僕は先にお風呂行くよ。」
そう言って部屋を出た、丁度いい湯加減のお風呂で私とリュウは会話する。
私(さっきの台詞、カッコよかったぞ。でもいいのか、シスコンやめて。)
リュウ(シスコン言い過ぎですよ?それに、妹は愛してますが、恋愛的な感情ではないって気づいたんです。)
私(息子の成長を見る親の気分だ。リュウの両親もさぞ、お喜びになるだろう。)
お風呂を出ると、晩御飯のいい匂いがしてきた。
今夜は焼き魚のようだ。光希の勉強を見てやり、自分の宿題を終えて、明日も一日頑張ろう、とリュウはそう決めて眠りについた。一日一日を一生懸命生きようとするリュウは、軟弱者な印象だった頃とだいぶ変わった。数週間で見違える成長だ。早すぎるくらい…まさか…な…
少しばかり不安を残し、私も意識を落とした。
翌日の学校の放課後、ノリコと会話した。私の考えが、的を外しているのか確かめたかったのだ。
ノリコ「で?何を聞きたいの?」
私「もしかして、なんだが、私の魂は少しずつ弱まってきてはいないだろうか?」
ノリコ「肉体から離れて時間が経ち過ぎているので、自然とあなたの魂は衰弱していく。けど…早すぎるわね。というよりはっきり2つあった魂が1つになりかけてるわ。…あなたは肉体に戻れず、消える…」
私「やはり、私の体はもうもたないんだな。」
ノリコ「完全に1つの魂になったら、あなたの肉体は死を待つだけだわ。戻れる方法なんてない。いずれあなたの意識も消える…」
私「知ってたんだな。こうなる事が。私が生きる為にはリュウの自我を飲み込むしかない。そして、私はそれをしない事も…」
ノリコ「2つの魂を持つ同級生が現れ、1つの魂になる。偽りの魂の肉体は滅び、偽りの魂も滅ぶ…これが姉の見た未来。私には何も出来ない。ごめんなさい。」
私「構わないさ、残りの時間がどれだけあるか分からんけども、リュウと娘の成長を見ていたい。いつ消えてもいいように、後悔ないよう見守るさ。」
私は笑って答えた。そろそろリュウとスイッチしなきゃな。
リュウの胸中は複雑だった。
リュウ(リョーサンが消えてしまったら自分は誰に教えをこい、迷いや悩みを打ち明ければいいのでしょうか。)
私(その答えはもう教えてある。)
そう意識で囁くと私は意識を落とした。
いつのまにか体育祭の準備は進行していて、もうすぐ当日という所まで来ていた。私の意識はまだあり、体はかろうじて生きている。そして体育祭の当日を迎えることになる。
当日、プログラム通りに進んでいき競技を終えた午後の昼休み、レイとお弁当を食べる約束をしていた。待ち合わせ場所の運動場外の時計の下にレイはいた。口を押さえ、体を震わせながら。声をかけずにリュウは駆け寄った。
リュウ「どうかしたの?何か怖いものでも見た…いや、怖いものが側に居たみたいな震え方してるけど。」
小さな声で話しかけた。レイはやはり怯えたように口を開けた。
レイ「い…た…帽子…マスクしてた…」
リュウ「帽子、マスク?」
過呼吸気味で、レイの背中をさする。
どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。その悲鳴で私はピンと来た。
捕まってなかったのか、自分の容体ばかり気にしてニュースを見ていなかった。あの時の通り魔だ…悲鳴の先にあるのは運動場。今いる位置からでも見える。同じ帽子、そして背格好。
私(リュウ、代われ。ここで逃したら一生後悔する。)
リュウ(まずは、警察に連絡を。)
私(駆けつける前に、何人も斬りつけられる。私が時間を稼ぐ。)
リュウ(わかりました、無茶はしないで下さい。)
スイッチすると、私はレイの頭を撫でて言った。
私「私が守る、心配するな。行ってくる。ここで待ってなさい」
レイ「えっ…」
レイの震えは止まり、涙し叫んだ。
レイ「行っちゃダメー。」
私は片手を上げて背中越しに応えた。あいつはココで止める。誰も傷つけさせやしないと、心に誓って。
広い運動場なら思う存分できる、刃物を突き立てて来るタイミングも覚えてる。私にしか出来ない。
ターゲットを私に決めたようだな、本当にわかりやすい。けど雰囲気があの時と違う。ただの狂気だけじゃない、何か自信の様なものを感じる。何人も人を斬った事で何度も死線を越えてきた様な場数を踏んだに等しい経験値を得たのだろう。そしてリュウのか細い体に脅威を感じないのだろう。
来るっ、あの時より動きが切れてる、一撃目の突きを躱すとそのまま横に斬りつけてきた。避けきれない、二の腕に刃物がかする。すかさず中段に蹴りを入れてきた。こいつだいぶ強くなった、リュウの体で勝てるだろうか、判断に迷う。
騒ぎを見た人(教師か生徒かわからない)が通報してくれていたおかげで、すぐに警察に囲まれた。私も通り魔も動けない、警察の一斉の【確保】の声で、スキが生じた。私は刃物を持つ右腕と、胸ぐらを掴んで、運動場の地面に背負い投げをした。
通り魔は確保され私は教師と警察から散々説教を受けた。解放された後、心配そうにレイが寄ってきた。
レイ「…ばか、パパみたいな事言って、パパみたいな事しないでよ。怖かったんだからね。…パパみたいに…なっちゃったら…どうしようとか…思ったんだから…」
私の腕の中でレイは泣き続けた。
私「レイを愛してる、多分誰よりも。」
レイ「私も好きだょ、あと、多分とか要らないし。愛してるとか、重くない?私が愛してるのパパだけだし。」
私「私もレイを愛してる。ありがとう。」
にこりと微笑んで言うと、
レイ「…だから、パパの口調で…言わないでよ…バカ。」
レイはまた泣き出してしまい、私にしがみつく。私はそっと頭を撫でると、意識を落とした。リュウに全てを託して…
リュウ「落ち着いたかな?僕もレイが大好きだよ。」
そう言うと、リュウはレイの手をとり、仲良く微笑み合いながら、帰って行った。
私「もうすぐ消えてしまうかもしれないからな。リュウ、体を少し借りるぞ。」
私は寝ているリュウとスイッチして、英語のノートの最後のページに、メッセージを残した。
レンコロへ、
16歳の誕生日、おめでとう。これからの人生、辛いことの方が多いかもしれないけど、持ち前の明るさと優しさで乗りきって欲しい。
パパはその時、生きてるかもわからないけど、それでもずっと側にいて、レイを守ると約束しよう。レイの幸せが、パパにとって一番の幸せだからね。パパの娘になってくれて、心からありがとう。愛してる。
私「さて、体を返すよ。リュウ、ありがとな。」
翌朝、目が覚めたリュウは、英語のノートの最後のページを確認し、それを読んだ。
リュウ「リョー…サン…?」
昨夜起きていた訳ではなく、ただ何となく、英語のノートが気になったのである。良介に何度も呼びかけても返事は無かった…
龍之介は学校をサボってでも良介の病室へ向かう事を決意した。
リュウ「1年A組の高島です。担任をお願いします…先生、本日お休みさせて頂きます、すいません。」
学校へ電話して、すぐに良介の眠る病院へ向かう。
病室では、数人のナース、医者がおり、慌ただしかった。面会謝絶の札は無かったが、受付してたら通して貰えなかったかもしれない。
医者「早く、ご家族に連絡をして。…昨日まで何ともなかったのに…」
心電図は横一線、ピクリとも動いていない。医者は心臓マッサージを試みるが何も変わらない。リュウは放心状態のまま運ばれる良介を眺めた。カタン…カタン…謎の機械音と共に、何かがベッドを上下に動く。
医者「…ダメか…手は尽くした…」
医者とナースは何かの手続きをする為、部屋から出て行き、リュウは勝手に部屋に侵入して良介の側まで来た。そして手を握る。…心電図が反応した…
私「死ぬ寸前に…戻れた…ありが…とな…リュウ。レイを…たの…」
リュウは涙した。良介の手を握り最期の言葉を聞き取って。医者が入ってくる。
医者「ここは立ち入り禁止だ、何やってるんだ、君は…心電図が、動いた。」
間もなくして、レイと久美が到着した。
レイ「何で龍之介がここにいるの?パパは??…何で泣いてるの???」
リュウ「少しだけ話せたんだ…最期まで…レイを…君を…愛していた…」
久美「…ょーちゃん…いつも…レイちゃんの事を…話してた…娘が、幸せになるまで…生きたいって…」
レイ「…パパ…愛…してる…」
レイは良介の手を握り縋り付くように号泣した。龍之介は立ち尽くし涙し、久美は両手で顔を隠すように泣いた。
葬儀も終わりある程度月日は流れた。
11月21日、その日はレイの16歳の誕生日であった。龍之介はプレゼントと英語のノートを持って待ち合わせ場所へ。
時計は午後5時、とある駅前の大時計の下、レイは待っていた。
龍之介「ごめん、待った?」
レイ「今来たばかりだよ…って普通逆じゃない?なんであなたが後から来るわけ???」
龍之介「ははっ、大事な物を探しててね。ごめんごめん。」
レイ「…大事な物?ってなによ。」
龍之介「はい、これ。一番最後のページ読んでみて。」
レイはノートを手に取り、震えながら言葉を出す。
レイ「…レンコロって、私の小さい時の…呼び名…パパだけが…そう呼んで…た…字の書き方…パパの…字だ…」
龍之介「…リョーサン、逝く前に、これ書いてたんだ…レイの事頼むって、僕に…託すって…」
レイ「…パパ…ありがとう…龍之介もありがとう。」
レイはそう言うと、目を瞑りノートを胸に抱き寄せる。涙ながらに微笑むレイの姿を見て、龍之介はイルミネーションとレイの可愛さが相なって、この世の物とは思えない美しさを感じた。
龍之介「僕の中に、レイの中に、リョーサンは生き続けていくよ。これからも僕らの側にいて見ててくれる…そんな気がする…」
レイ「…うん…」
『ありがとう』…二人ともどこからともなくそんな声を聞いた気がした。
次回作は来月の予定ですが、全く別の異世界ファンタジーを構想してます。興味がありましたら是非、ご閲覧いただきますよう、お願い致します。