第2.5話 私の心の状態変化
私・椚木 優子は泣いていた。
「私、やっぱりお母さんとお父さんがいないと、だめだよ……」
もうお母さんやお父さんがいなくてもやっていけるって言ったのにね。
学校に一度だけ行った。みんな知らない人ばかりで、優しく話しかけてくれる人もいたけどどこかよそよそしかった。
そこは怖かった、苦しかった。知らない人の中で一人いるのは嫌だった。
誰かに、助けてもらいたかった。
さっき来た年上のお兄さんに失礼なこともしてしまったよ……。
久しぶりに部屋に来たお客さんだったのにね、自分から縁を切っちゃった。
そっと自分でも分からないぐらいに溜息が出た。
「――ずっと前から胸が苦しくなるの――」
胸に詰まっていたものがどんどん漏れていく。
「ずっと一人はもう嫌――」
私の背中に他の人の体温が感じられた。
振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。
「っ! 楓さん?!」
さっきまでよそよそしく私の事を怖がっているように見えた楓さんが、私の事を抱きしめていた。
驚いて一瞬声がでなかった。
「簡単に……言わない、で」
「俺も同じだったんだ」
「え……」
「俺も一人だった、寂しくて、でも、誰にも言えなかった、――だから、俺は、君が笑顔になれるような支えになりたい、ならせてほし……い」
だんだん楓さんの手の力が弱まってきた。
その瞬間、バタッと横に倒れた。
「大丈夫ですか、楓さん! 楓さん!」
私は急なことに驚き、気づけば名前を呼んでいた。
「すぅー」
どうやら寝ているらしい、言うだけ言って寝てしまうとは。
でも、どこか暖かかった手は私の心に少しでも、救いの手を出してくれた。
私は思い出した。抱きしめられることがこんなに暖かく、気持ちが楽になる事を。
ちょっとだけ、彼の手に触れた。
温かい……、心まで温められるようだった。
もう少しこのままで良いかな? と思ってしまった。
少し、怖かったけど、私には楓さんは良い人に見えた。
ちょっとは嬉しかった。
その日、ある部屋で、椚木 優子の心にあった、過去のトラウマからできた鎖は、少しほどけたように感じた。