第0話 突然の事だった。
いつも一緒にいた家族。
どんなお話をしてもお父さんとお母さんと一緒にいれば、いつでも楽しかった。
どこにいても、どんなときでも私のことを支えてくれた。
お父さんは家族のために毎日一生懸命、働いてくれていて、私が間違ったことをすれば叱ってくれた。
いつも私やお母さんのことを大切に思ってくれている、そんな優しいお父さんがだいすきでした。
目頭が少し熱くなった。
お母さんは毎日家事をやってくれていて、おいしい料理をたくさん作ってくれた。
いつも叱られて泣いていた私をなだめてくれて何がだめだったかを一緒に考えてくれた。
お母さんの笑っている顔は周りを幸せな気持ちにしてくれる。そんなお母さんもだいすきでした。
二人とも私のことを大切に育ててくれた。
でも、別れというのは突然やってくるもの。私はお父さんとお母さんと離ればなれになってしまった。
小学一年生の春のことでした。
外はいつもより多くの雨が降っていた。
「優子、お父さんと二人で買い物に行ってくるけど、お留守番できる?」
お母さんが私に聞いてくる。
私は胸を張って答えた。
「まかせて! 私、もう一人でお留守番できるようになったの!」
「すごいわ! お母さんも安心だわ」
そう言うと、お母さんとお父さんは二人そろって笑顔になる。
「いってきます」「いってきます」
つられて私も笑顔になった。
「いってらっしゃい!」
これが私と両親が話した、最後の会話だった。
その後、一時間たった時の事だった。
リビングで電話が鳴る。
「あわわわ」
電話が鳴ってる。確か電話に出るときは誰かを聞いて何でかけてきたかを聞くんだったよね。
手順を何回も繰り返し唱えながら、受話器を取った。
「もしもし」
「あ、もしかして優子ちゃん?」
「はい」
受話器から聞こえた声は私の叔父にあたる、椚木 和夫の声だった。
でも変だな、いつもの声より少し元気がないように聞こえる。
「あの、おじさん? どこか悪いところでもあったんですか?」
「いや、僕に悪いところがあったんじゃないんだけど」
「じゃあ、何が悪いんですか?」
おじさんは少し考えるため間を開けた。
「実は……優子ちゃんのお父さんとお母さんが、事故に、あったんだ」
「……え?」
私が戸惑っているとおじさんは声のトーンを下げて話した。
「交差点のところで信号無視をしたトラックに当たってしまったんだ」
「ほ、本当なんですか!」
「ああ。今、病院から連絡がきたんだ」
「それで今、お母さんとお父さんは無事なんですか?」
私は自分が一番気になっていた事を尋ねる。
お母さんとお父さんは今、無事なんだろうか。
「…………」
「どうしたんですか?」
「……なく……た」
「? よく聞こえませんでした、もうちょっとはっきり――」
私が答えをせかそうとすると、おじさんは鼻をすすりだした。
「なく、なったん、だ」
「え?」
え? 亡くなった? どういうこと、それじゃあまるでお母さんとお父さんが――。
自分で考えながら気づいた。つまり、そういうことなの?
自分でも無意識にその場に崩れ落ち、涙が落ち始めた。
「そんなのいや、やだょ!」
「…………」
私は泣いた、泣いたって何も変わることはないけど、今は泣きたかった。
怒りや悲しみより、寂しさがこみ上げてくる。
お母さんに抱きしめてもらいたい。
いつもみたいにお父さんとお母さんと一緒に話したい。
もう、できないなんて、いやだよ、寂しいよ、助けてよ……。
「――明日の朝に家に迎えに行くから」
そう言うと、おじさんは電話を切った。
少し聞こえなかったが明日の朝、来ることが分かった。
家の中に私の泣声だけが残っていた。
次の日。
目が覚めるとおじさんがいて、黒いスーツのようなものを着ていた。
「あ、起きたか、今日は行くとこがあるから速く着替えて来て」
「わかった」
私は言われるとおりにした。
昨日のこともあり、頭が働かない。
色々ありお葬式が終わり、細かなことはおじさんがやってくれた。
そこからの話だった。
「優子ちゃん」
「どうしたのおじさん」
「優子ちゃん、アパートに住む気、ない?」
「どうしてですか?」
「これから一人で住むのは大変だよね、だからうちの経営しているアパートにこれば、
代理の管理人さんに生活に支障が出ないようになんとかしてもらえるから、安心できると思うんだよ。」
「そうですか……わかりました」
少し考えてからそう言うと、おじさんは少しほっとした表情を見せた。
「ならいつ引っ越すか決めないといけないね」
「私はいつでも大丈夫ですよ」
「なら……あさっての朝に引っ越しを手伝ってくれる業者が来てくれるように伝えるよ」
あさってになり引っ越し業者が家に来たが持って行く物が少なかったのですぐにすんだ。
家に別れを言い遠く離れたアパートへと行った。
「今まで、ありがとう」
アパートに着くと、六十代ぐらいに見えるおじいさんが待っていた。
「やあやあ、君が優子ちゃんで良いのかな?」
「はい、そうです。」
「今日から同じアパートに住むってことでよろしくね」
「よろしくお願いします!」
その後、軽く説明があった後に部屋に入った。
すでに段ボール箱が運ばれていた。
もう、今日は早めに寝ることにする。
管理人さんが作ってくれたご飯を少し食べ、寝る支度を整えた。
一昨日と続いて、色々な事があって、まだ頭が混乱する。
でも、少し落ち着いた気がする。
お母さん、お父さん、私なんとかアパートで生活できていけるように頑張るね。
その決意と、ともに椚木 優子は布団にくるまって眠った。
椚木 和夫椚木 優子