弱点と克服
超能力の弱点とはなんだろうか。
超能力には利点と欠点がある。
例えば念力。
対象物を動かしたり、時には自分自身も持ち上げ、運ぶことも出来る応用性に富んだ能力だ。
最も使用してる頻度が高い能力でもある。
何しろ慣れると腕が1本も2本も増えたように便利なのだ。
これの利点の一つはコスパだろう。
手で10kgの鉄球を持ち上げるのと、念力で持ち上げるのでは疲労度が違う。
断然後者の方が疲れない。
そもそも超能力の疲労度というのは身体の披露ではなく、精神の疲労なのだが、とりあえずは10kgでも100kgでも、特に問題なく持ち上げられるということだ。
シロナガスクジラを自分ごと浮かせ、背中に乗って空中散歩なんてことも恐らく出来るはずだ。
まぁ実際に試した訳では無いのだが。
もちろん限界はあるので、月を動かして地球にぶつける、などはできない。
基本的に念力で物を動かしている時は、常時精神力のようなものが減っていく感覚がある。
オルフェウスが言っていた魔力と言うのが、ゲームでいうMPもしくはSPと同義であるなら、言い得て妙かもしれない。
説明の便宜上、使わせてもらうことにする。
感覚程度なので、断言は出来ないが、消費魔力の比率表は以下のようになる。
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物体の重さ:1 移動速度:1 ⇒ 消費魔力:1
物体の重さ:2 移動速度:1 ⇒ 消費魔力:2
物体の重さ:1 移動速度:2 ⇒ 消費魔力:2
物体の重さ:2 移動速度:3 ⇒ 消費魔力:6
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重さと移動速度の基準値を1とし、その際の消費魔力を1とした時、最終的な消費魔力は、重さの比と移動速度の比の掛け算したものになる。
上の表は、物を一直線に飛ばす事を考えた場合であり、複雑な動きをさせるほど消費魔力は上がっていく。
これは方向転換のために力を加えた回数によって決まると考えていい。
まっすぐ進んでいるものに右向きの力を加えると右に曲がる。
これを1回とカウントし、その後も力を加えるという作業の消費魔力を、どんどん加算していくという方式だ。
例えば円を描くように動かすのは、思っているよりも精密な力加減が必要なので、消費魔力を結構食う。上手い具合に何度も力を加え続け、調整しなくてはいけないからだ。
これは慣れしかないので、子供の頃、人目のつかないところで暇さえあれば鉛筆で練習した。
円が書ければ八の字、その次はハート。
思い描いた通りに動かすので半年。
集中せず使えるようになるまで1年。
ほかの作業と並行して、手足のように自然に使えるまで2年はかかった。
さて、弱点の話に戻ろう。
一つ目は念力の欠点というか俺自身の欠点なのだが、俺の脳みそは人並みということだ。
スパコン並みの処理能力を持っていたならば、総勢100体を使った、スーパー大家族シル〇ニアファミリーごっこでも出来たのかもしれないが、哀しきかな俺の頭脳は平凡だった。
手足のように使えるのは3つ。
複雑な動きをしないのであれば10個。
浮かび上がらすだけなら100や200以上と言った感じだろうか。
つまり念力で対処できる数にも限界があるということだ。
他に弱点としては、標的の指定に失敗すると発動できなく、目で追えないほど早い物には使えないといことだ。
つまりどういう事かと言うと、今から拳銃でお前を撃つから弾を止めろ、と言われも普通はできないのだ。
勿論目で見える速さの物……ドッヂボールの球とかなら念力で止めることは出来る。しかし、そもそも動体に使おうとすると失敗する確率が増す。
これは、物体を捉える時、空間の座標を指定して使用しているからである。
ある時刻における座標(x,y,z)の物体を座標(a,b,c)に移動。
というような捉え方で使っているので、タイミングを間違うと使用出来ないのが弱点の一つだ。
その他にも何点かあるが、一番これが大きい。
あと、当然だが死角や全方位からの攻撃に弱い。
勿論背後からの攻撃を止める手段はある。千里眼との併用だ。
だが千里眼で後ろを視ている最中は、目の前を見ることが出来ない。
なので全方位からの攻撃は防げない…と思っていたのだが、創意工夫で解決した。
それは後で話すことにする。
次に超能力全般の弱点に集中力、というのもがあるだろう。
脳で計算しているわけだから、一つの動作をしながら、もう一方で超能力を使うのはかなりの集中が必要になる。
ゲームをしながらテーブルにあるお菓子を口に運ぶ動作を習得するために、随分と練習を重ねたものだ。
同様に、超能力の同時行使は非常に難しい。
歩きながら火を出す等の、
簡単な動作+超能力
ならば息をするように意識せず使えるのだが、念力で物を動かしながら、発火能力で火をつけるになると、難易度が途端に跳ね上がる。
一つの能力を複数の対象に使うより、異なる能力を一つの対象に使う方がかなり大変というわけだ。
後は能力事に疲労度が異なるというのも問題点の一つだ。
復元などは今でも三度使えば失神するくらい疲れてしまうが、身体能力向上の借力程度なら、何度でも使える。
この問題は、長年の超能力の使用により、昔と比べ大分使えるようになった。
体力と同じで積み重ねにより、魔力のようなものの容量が増えたのだろう。
今でも色々便利に使わせてもらってるが、最近は伸び悩んでいる。やはり身体機能の一部だし、限界があるのだと思って諦めかけている。
意外と弱点の多い超能力だが、念力に関して言えば、思春期でアニメやラノベにハマっていた幼き頃の俺は、弱点を克服するため、死角と全方位、目で追えない速さの物体への課題の解決法を編み出した。
念力で常に自分の周囲を球状に囲む範囲の物体の動作を停止させるという寸法だ。
厨二病真っ盛りの俺は絶対領域と名付けた。
…うん。今思うと普通に恥ずかしいので心の奥でだけ呼ぶことにする。
これによって今まで対処できなかった攻撃も、絶対領域に触れれば勝手に止まるように出来るようになった。
だが問題が一つ。
仕方ないといえばそれまでなのだが、如何せん疲れる。
常時発動してられるほど俺の集中力が続くわけもないので、使うタイミングは計らなければいけない。
念力の応用…しかもかなり高度なものなので、俺が実行できる超能力の処理の重さ────コストと呼んでいるのだが、それを10とすると、絶対領域だけで4か5は消費することになる。
対物の時の切り札だと俺は思っている。
先程コストと言ったが、超能力を使う時の注意点として、魔力の消費の他にコストの事も考えて使わなくてはいけない。
体感なので曖昧ではあるが、よく使う超能力の消費魔力とコストの重さは以下のようになる。
俺の魔力とコストの上限は
魔力:100
コスト:10
として考える。
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・念力
消費魔力:1~15(/min)
コスト:1~10
・発火能力
消費魔力:1~8
コスト:1~2
・瞬間移動
消費魔力:7
コスト:3
・復元
消費魔力:33
コスト:6
・取り寄せ《アポート》
消費魔力:5
コスト:2
・読心
消費魔力:1
コスト:1
・千里眼
消費魔力:1(/min)
コスト:1
・借力
消費魔力:5
コスト:1
・絶対領域
消費魔力:8〜12(/min)
コスト:4〜5
※絶対領域の大きさによって変動
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数値が変動しているのは、前に言ったように念力であれば、単体を簡単な動きをさせるのが左、複数を複雑な動きをさせるのが右の数値となっている。
無論、継続して使えば使うほど魔力は消費していくことになる。
つい話が逸れてしまった。
つまり何が言いたいかと言うと超能力も万能という訳では無い。だが長年生きてきた中で、それを補う努力はして来たつもりだ。
前の世界なら、対人では相手がどんな武器を持っていた所で秒殺出来る自信がある。
対人最強と言っても過言ではないはずだ。
怪物が闊歩するらしいこの世界でも、超能力さえあれば不意討ちでない限り、自分の身を守ることくらいは出来ると思っていた。
ところがどっこい俺、天笠蒼馬はとんだ思い違いをしていたようだ。
そして思い知らされる。
この世界は実にファンタジックで、とんでもな出来事で満ち溢れているということを。