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超能力者異世界奮闘記  作者: くのえ
4/6

出会いはいつも唐突に4

「……………ろ」


 声が聞こえる。


「…………きろ!」


 うるさい…もう少しだけ休ませてくれ…


「起きろと言っておるだろうが!いつまで寝とるんじゃ!!」

「んあ??」


 目を開けるとそこには、豊かな双丘に押し上げられた純白の服と、その奥からこちらを覗く、逆さまの美女の顔があった。

 どうやら意識を失ったあと、膝枕をしてくれていたらしい。男なら誰もが夢見るシチュエーションだが、ついさっきのことを思い出してしまうと、手放しには喜べない。

 しかし、バキバキに凝って冷えきった身体と違い、後頭部はとても温かく、柔らかい感触がはっきりと伝わってくる。


「いい加減足が痺れそうなのじゃが?」


 あわてて頭を上げ、辺りを見渡す。

 どうやら場所は移動していないらしい。唯一先程と違う点は、琥珀色に輝いていた部屋中央に位置する結晶が、あの眩い光を失っていることだろう。

 一体どのくらい時間が経ったんだ。


「3時間程度じゃよ。恐らく体内の魔力マナを失いすぎたんじゃろ。」


 魔力マナ…ね。随分とファンタジー要素の強い言葉が出てきたものだが、とりあえずは置いておこう。

 だがしかし、常識の範疇を超える二つの出来後に遭ってしまった手前、藁にもすがる思いで、何かを知っていそうな目の前の美女の話を聞く他ない。


 そもそも、謎の液体のようなモノで形作られたこいつは果たして人間なのだろうか。


「質問が多いのう。残念じゃが、我も多くのことを知っている訳では無い。主の記憶を覗かせてもらったが、正直な所、我も半信半疑じゃ。我と主の知っている世界はまったく違うものであったからな」


 訳が分からない。

 一体全体どういうことだ?こいつは何を言っている。


「どうもこうもそのままの意味じゃ。主の知る世界と我の知る世界は全くの別物じゃ。時代云々ではなく、根本から異なっている」


 つまり、どういうことだ?瞬間移動テレポートに失敗して異世界に飛んで来てしまったとでも?

 目眩がした。馬鹿げている。


「主も見たであろう?昨日遭遇したモンスターを」

「新種の動物とかじゃないのか?」

「言語を話し、道具を使ってくる生き物を『動物』と定義するのであれば、そう納得するのもいいと思うぞ?」


 無論、道具を操る動物ならいる。チンパンジーや、ラッコなどがいい例だろう。しかし、事言語に関しては違う。

 人の言葉がわかる猿やイルカ同士での会話などはあるが、あの怪物の発した言葉は明瞭であった。はっきりと、2度も、俺に問いかけてきた。


 容姿を除けば人間と遜色ないものを感じたのだから、少なくとも他の動物(人間は除く)と同列に扱うことは出来ないだろう。


 もし、あんな生き物が発見されていたら、世紀の大発見などと持て囃され、テレビではひっきりなしに取り上げられていたはずだ。しかし、そんな記憶は全くない。


 それに、目の前のこいつの人ならざる光景も目の当たりにしている。あれはとてもじゃないが、現代科学で説明できるものとは到底思えない。


「多少は理解してくれたかの?実際にもっとこの世界に触れてみるのが一番だと思うのじゃが…」


 一理ある。百聞は一見に如かずである。話で聞くよりも、自分の目で直接見て確かめた方がいいだろう。

 だが、何から手をつければいいだろうか。やはり、とりあえずは他の人類に会いたい。


「先程バハルズ帝国とか言っていたが、それはどこにある」

「帝国自体はここの南方に位置しているが、歩いて移動となるとちと遠いのう。そもそもここは一応は領土であるが、僻地だったからな。昔は付近に小さな集落があったんじゃか、今はどうだか…」


 そう言いながら、オルフェウスが立ち上がる。同じ姿勢で凝ったのだろうか。ポンポンと尻に付いた埃を払ったり、屈伸したりする。


「ところで主も歩ける程度には回復したじゃろ?そろそろこの祠を出んかの?他の疑問についてはその途中で話してやろう」


 白魚のような細く小さな手を差し出してくる。

 手を取り、予想以上に強い力で引き起こされると、急かされるように背中を押され、通路の方へ追いやられていく。

 不満げに後ろを振り向くとオルフェウスが憂いを帯びた目で、自分の封じられていた結晶を見ていた。


 封印されるというのはやはり苦痛なのだろうか。


 次の瞬間には優雅な微笑でこちらを見返してきて、それがまたあの横顔の、煢然たるものをより一層感じさせ、胸の奥がジクリと痛んだ。


 視線を前に戻し、外の世界とは隔絶された、青白い光で照らされた幻想的な部屋を後にする。暗く先の見えない通路が、踏み出す1歩をを重く、鈍くさせた。


 来た時と違うのは、足音が重なっていることだろう。自分以外のコツコツと鳴り響く一定のリズムで、自分の口角をほんの少し上がっていることには、誰も気付いていなかった。

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