出会いはいつも唐突に
超能力。
念力や発火能力、瞬間移動など種類は様々だが、科学的に説明のできない超常的な力の総称である。
さて、そんな摩訶不思議な能力を持っていると周りにいったとして、一体誰がそんな信じるだろうか。大体は一笑に付されるだろう。だが、今回ばかりは信じてほしい。
考えてもみてほしい。誰しも、人には往々にして、信じられないことが起こることが稀にあるが、それは紛れもなく、そう、現実なのである。つまり、超能力者である俺の目の前に怪物がいるこの現状も、紛うことなき現実なのであった。
事の発端はつい数分前に遡る。
もし、自分が超能力を持っていたとして、どう生活するだろうか。危険でよく分からない力なんて使わない、と言うだろうか。それは恐らく、ありえない。
窃盗、殺人などの犯罪、そうでなくともちょっとした出来心での悪戯に使ってしまうことの方が余程あるのではないだろうか。
そんな極端なことではなくとも、人は便利なものはすぐ使ってしまうものだ。でなければ世の中に発明品と名のつく物は無かっただろう。物に限らず力も同様である。便利であれば使うのだ。無論、言うまでもなく、他人にバレないようにであるわけだが。
かく言う俺も例に漏れず、日常のちょっとした所で超能力を使っていた。先程も、学校に忘れ物をしてしまったので、家から瞬間移動しようとしたのだが、どういう事か、一瞬の目眩の後、見渡す限り木しかない森の中に移動してしまったというわけである。しかも目の前には怪物のおまけ付きで。
背丈は成人男性よりやや小さいくらいだろうか。160cm程だと思う。
野性味のある薄汚れた肌。色は深緑といったところだろうか。胸や腕に巻かれている革製の服のようなものは、所々ほつれていたり、一目で随分と使い古されているものと伺える。
耳の先は尖っていて、鼻は異様に高く、額からは2本の短い角が生えている。他の個体を知らないのだが、その怪物は右腕のみの隻腕で、足は枝のように細く、随分と痩せこけているように見えた。
だらんと下がった手には、ボロボロの石斧のようなものが握られている。
距離僅か10m。数は1匹。
突然現れた存在を見て相手も驚いているのだろうか。微動だにせず、ただ、小さく血走った瞳だけを大きく広げている。
「アグ、ギィグ」
喋った。突然怪物が喋った。
ヒュッと、喉から声にならない空気が漏れた。汗が滴り、服を濡らす。
もちろん日本語ではない。そして英語は得意ではないのだが、それとも違うはずだ。というか、何処かしらの国の言葉ではないだろう。
人生何が起こるか分からない、とはよく言うが、ここまで理解の範疇を超えることが起こるとは微塵も考えていなかった。
数分前までクーラーの効いた部屋で寛いでいた直後にこれである。
「アグ、ギィグ」
再度、決して視線は外さずに距離をジリジリと下がりながら取り、斧をゆっくり身体の前に持ち上げ、臨戦態勢を取りながら喋った。
口を閉ざしたまま、相手に気づかれないよう、念力で落ち葉を動かしてみた。ちゃんと動く。超能力は健在らしく、安堵とともに息を短く吐き、僅かばかり警戒を解いてしまった。
「ギィィィィイイイイイイイイイイイ」
瞬間、怪物が大声で叫んだ。
突然の咆哮に、思わず片耳をおさえ、一瞬目を瞑って、次に開いた時には相手がこちらに走ってきていた。
残響のようなものが耳にこびり付いて立ちくらみがする。必死に集中力を練って、眼前に迫り来る怪物を、念力で吹き飛ばす。
石斧を振りかぶるモーションに入っていた為か、丁度カウンターのように不意にヒットし、紙のように吹っ飛んでいっき、後ろの大木に思い切り頭を打ち付け倒れた。よろよろと起き上がろうとしたため、もう1度念力で頭を木に打ち付けると夥しい量の血が出ると共に動かなくなった。
恐らく死んだのだろう。急に興奮状態が冷め、強烈な吐き気とともに胃の中の物をすべて吐き出してしまった。
吐いて暫くして落ち着いてきた後、地上だと先程の怪物の仲間がいた時に襲われる危険があるので、念力で自分を浮遊させ、ふわりと木の上に移動する。
一度落ち着いて状況を把握しよう。
まずは持ち物だが、なんせ帰りも瞬間移動で帰ってくる予定だったのでろくな持ち物がない。スマホと腕時計、あとはネックレスくらいだ。位置情報を調べようと思ったが、圏外となっている。いざと言う時に電池がないと困るので、電源は切っておくことにした。
問題は時間だ。スマホと腕時計の時間は18時頃を指しているのだが、まだ辺りは明るい。
そして気候なのだが、11月中旬という割と肌寒さが増してくる季節だったのに、どういう訳かここは6月初めくらいの暖かさだ。ということは日本ではないのか?という疑問が湧いてくる。
次に超能力だ。
瞬間移動で家や学校に飛ぼうとしたが、何度やっても成功しない。しかし、試しに隣の木の枝に瞬間移動した所、ちゃんと成功した。
取り寄せは自室にあるものなどは出来なかったが、下で死んでいる怪物の斧は取り寄せすることが出来た。
ほかの能力も同様に試していったところ、大体の力は問題なく使えた。大体というのは、例えば読心は使う相手がいないので検証しようがなかったというように、確かめようのないものは仕方がないといった感じである。
元々読心など、他人の意思が関わってくる能力は、効果が薄く使い勝手が悪かったので、特に問題は無いので取り敢えずは置いておこう。
千里眼の実験していてわかったのだが、ここの森は相当な広さを誇っているのだが、周辺に、動物も先程のような怪物も1匹も居ないというのが驚きだった。大自然の中での異様に不自然な静けさだった。
それと、少し先に崖があり、そこに洞窟を発見した。
思案の末、日も暮れそうだったので、そこに行ってみることにした。