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魔法使い

昼下がりの街道は様々な人々が行き来をしている。商売のために大きな包みを背負って王都に向かうもの。馬車に荷を山ほど積んで王都から出ていくもの。また、王都近くにあるダンジョンに向かう鎧姿の一団。その中を俺とアリシアは隣村に向かって歩いていた。


「マムル村か。王都から近い場所にある村で休憩に立ち寄る者が多い規模の大きめな村と。」

「……初めて行くような口振りね。」


俺は出かける前にフィラから聞いて書いておいたメモを見ていた。マムル村について簡単な概要だけ聞いておいたものだ。横を歩くアリシアは相変わらず警戒を含んだ目で俺を見ていた。


「初めてだな。俺はあの街と近辺しか知らないんだ。」

「しかって……スラムの子供でも他の町くらい……」

「まぁあまり気にするな。アリシア……だったよな?」


俺はメモをしまって横を歩くアリシアを見る。ローブを着た上にフードを深く被っている。厚手なのか体を覆っていて、端から見れば確実に不審者である。


「それ、動きにくくないか?」

「色々準備があったのよ。貴重なものもあるから、これくらいでいいのよ。」

「それってつまり貴重品を持ってますよってアピールだよな。」


ボソッと呟いたのだが、どうやら聞こえたようで、アリシアはその黒い目を驚きに見開いて俺を見た。そして、自分の姿と俺の姿を見比べて何やら考え出した。


「そういえば、魔法ってどうやって使ってるんだ?」


俺は未だに考えているアリシアに声をかけた。アリシアはまた不思議なものを見るように俺をジッと見て首をかしげた。


「あんた……記憶喪失か何かなの?」


アリシアは少し考えてフードを外した。現れた黒髪が陽の光を浴びて黒光りしていた。


「レオル様に聞いたり見せてもらったり……はないわね。まぁいいわ。」


アリシアは懐に手を入れて何かを取り出した。


「大体の魔法使いは触媒を使うわ。私はこの手袋。魔法は今のところ三通り……一応四通りあるわ。一つ目が魔法陣を描いて発動するもの。魔法陣に魔力を流して詠唱すれば使えるわ。この手袋にも魔法陣が刻まれているの。」


俺は手袋を見せてもらいながらアリシアの話を真剣に聞いていた。確かに手袋からは簡易な陣があるようだった。


「次が詠唱で魔法陣を作って発動するもの。一つ目よりも時間がかかるのが難点ね。利点は威力の調整ができるところかしら。」

「魔法陣の方は調整できないのか?」

「あまりできないけど、工夫で出来ないことはない感じね。一つ目は魔力が使えれば誰でも使えるわ。」

「そうなのか。」


俺は自分の中の魔力を感じながら自分に当てはまらないと考えていた。魔法を使った時はただ、魔法が発現していた。


「次が数は非常に少ないけど、魔法名だけで魔法が使えるもの。レオル様を始め、トップクラスの魔導士が使えることがあるわ。内容は発現の内容をイメージして唱えるだけ、らしいわ。」

「らしい?」

「イメージできれば名前が浮かぶそうよ。数年前に他界したレオル様の師匠が詠唱省略って呼んでいたらしいわ。」


俺は自分の魔法はこれだなと考えながらレオルを思い出す。確かに魔法を説明した時に何か思う顔をしていた。


「最後は……何も唱えないで魔法を発現するもの。今はいないけどね。」

「……何もしないのか?」

「伝承には手をかざしただけで発現した、なんてあったわ。」


アリシアは手袋を懐にしまいながらそう言った。アリシアの告げる人物は、俺の中で思い当たる可能性が一人だけいた。


「噂の魔導王か?」

「よくわかったわね。数ある伝承や伝記でも魔導王のみが使えたらしいわ。」

「なるほどな。」

「で、あんたの実力は?」


俺はどう答えるか少し悩んだ。アリシアの実力は分からないが、レオルの話だと俺の方が上になるだろう。ただ、まだ刀を使ったことがない以上、使った実力は自分でもわからない。


「レ、レオルの言っていた通りだ。うん、そんな感じだ。」

「……そう。」


アリシアはプイッと前を向くと、街道をまた進みだした。





半日掛からないくらいでマムル村に着いた俺たちは早速宿を探していた。


「さてと……」


俺は呼び込みの中を歩きながら昼間のメモを取り出した。横からアリシアもメモを覗き込んだ。


「いいところはあるの?」

「フィラのおすすめは……ロワル?」

「もしかして、あれかな?」


アリシアの視線の先に年季の入った大きな木造の建物があった。建物の壁にはこれまた古い看板が打ち付けられており、『ロワルの宿』と書かれていた。


「あれか……」

「たぶんね……何か書いてないの?」

「行けばわかるって」


俺とアリシアは互いに顔を見合わせた。そしてもう一度建物を見る。三階建の宿で壁のあちこちに蜘蛛の巣のようなものも見てとれる。そして、その建物に入っていく冒険者風の人達。


「みんな入って行ってるわね。冒険者ばかりみたいだけど」

「フィラの薦めだから俺は行くが……アリシアはどうする?」


アリシアは少し迷い、回りをくるりと見渡した。少し離れた所にはまだ数軒の宿が見え、どう見てもロワルの宿より良さげに見える。うちの一軒には馬車が停まり、少し肥えた男が笑いながら宿に入るのが見えた。


「私は……同じでいいわ。」


アリシアは歩き出し、俺もそれに続く。ボロい扉に手をかける。今にも外れそうな扉についている申し訳程度の取っ手に。


「……ん?」

「どうしたの?」


俺はこの扉に違和感を覚えた。横のアリシアは不思議そうな顔でこちらを見ている。


「いや、なんでもない。」


俺はこのしっかりとした扉を押し開いて中へ入った。見えるのはもう一つの小部屋と、またボロボロのように見える扉。それを押し開いて中に入った。


「えっ……すごい」

「そうだな」


真新しいカウンターに手入れが行き届いた床、外観とは異なる内装に俺とアリシアは感嘆を浮かべていた。


「お気に召したようで何よりだ。ようこそロワルの宿へ。宿泊かい?」


カウンターにいる老年の男が人受けする笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「あ、あぁ。二人だ。部屋はあるか?」

「二人部屋でよかったかな?」


俺はアリシアをチラリと見る。まだ内装に目を輝かせていて、俺の言葉も老人の言葉も聞いていないようだった。


「……一人部屋を二つ。一つは鍵をかけれるもので頼む。」

「そちらのお嬢さんでよかったかな。」

「あぁ。」


俺は鍵を受け取り、先に自分の部屋へ向かった。


「もうすぐ夕食だ。食堂があるからそこに来るといい。」




「魔素が溜まって魔物を生み出す天然の魔窟ね。」


俺はそんなことをぼやきながら刀を振り下ろし、コボルトを煙へ還した。どうやら数日戦っていたおかげでコボルト程度ならとりあえず無傷で倒せるようだった。しかし、ウインドより切れ味が劣るため、何度か切り結ばないといけないのは少し難点だった。


「そうね」


そしてもう一つ。何故かアリシアは昨日の夕食から機嫌が悪かった。一応隣で夕食は食べたが、ムスッとしていてどうにも話しづらい。久々の誰かとの食事だったので、何か話ながらなんて考えていた俺の杜撰な計画は水泡に帰した。そして、未だ機嫌はよくない。


「何をそんなに怒ってるんだ?」

「……怒ってない」


ムスッとした顔のまま、私は不機嫌ですと言わんばかりの雰囲気を出しながらアリシアは返事を返す。女心はわからないと思いながら俺は洞窟の先に向かう。


今のところ出てくるのはコボルトとコボルトファイターという種だった。コボルトに防具を着けたような姿で大差はなかった。手の棍が石の剣になったくらいか。


「次、前方四匹。左右二匹はファイター。」

「来たれ走れ、打ち払い焼き払う炎熱の魔球。ファイヤー」


手袋をしたアリシアの手が前に出され、その前に魔法陣が形成される。真っ白なそれを赤い色が通っていく。そして、陣の中央付近から火球が飛び出した。火球はうねり、左右二匹のコボルトファイターに迫る。コボルトは咄嗟に剣を盾にしたが、火球はすり抜けるように剣の僅か横を通過した。そして炎がコボルトを包んだ。


「よし。」


俺は残ったノーマル二体の首を斬り飛ばした。二体がまず霧に還り、燃え盛る二体も黒煙と還った。


「そろそろ最下層だな。」

「そうね」


刀をパチンと納めて懐から地図を取り出した。辺りは松明がつけられていて通路は明るい。アリシアはふぅと息を吐いてコボルトが死んだ場所を見ていた。


「アリシアの魔法はすごいと思う。俺は他の魔法を見たことはないが、昨日の説明からかんがえると、その手袋で魔法陣の形成を整えているんだろ?」

「!?」


アリシアは驚いた顔でこちらに振り向いた。


「あの説明と、この何回かの戦闘で理解したの?」

「……あぁ」

「……そう」


悔しそうに目を反らして最下層であるボス部屋に向かうアリシア。俺はその後ろを追った。



いつもありがとうございます。


遅くなりました(汗)


また次回もよろしくお願いします



誤字脱字、誤った文章表現等ありましたら指摘お願いします

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