異界のエスティア
「っつ……ここは?」
目を覚ますと、そこは真っ白の世界でした。ただ、白の中に影があるのか遠近はなんとかわかるようだが、目を凝らしても果てを視認することはできないようだった。
「どこだ……確か教室にいて、光に包まれて……」
体を起こして回りをぐるりと見回してみるが、他に人のいる様子もなく、ただ一人雲海のような空間にポツンといることを再認識するだけだった。
「あの世なのか……」
『違いますよ。』
呟いた言葉にまさかの返答があった。俺はもう一度辺りを見回すが人の気配はやはりない。
『少しお話をよろしいでしょうか。』
再度声が聞こえてくる。どうやら女性らしい優しい声が聞こえてくる。今まで会った人と比べてみるが該当する人物はなし。
「誰だ。というよりここはどこだ。」
『まずは自己紹介をしましょう。私はエスティアと申します。少し語弊は御座いますが、一応神の座に着いております。』
俺はエスティアという自称神の言葉を聞きながら姿を確認するために再度辺りを見回すが未だに姿は見えない。
『姿は見えませんよ。この声は……電波的な物と思ってください。』
「電波って……まぁいいか。俺以外のやつらはどうした。近くに何人か居たはずだが。」
エスティアの言葉に少し気を散らされたが、とりあえず知り合いの安否を確認することにした。 基本的に他人には無関心だが、一人は一応友人だ。安否を確認するくらいは俺でもする。
『大丈夫ですよ。他の方々には意識はない状態で待ってもらっています。』
「エスティアだったか。俺達に何の用なんだ。」
『あぁ……とりあえず先の質問に答えさせていただきますね。まずこの場所ですが、私は異界と呼んでいます。時間、空間共に既存の世界と軸がずれていまして、こちらでいくら過ごしていても他の世界ではほぼ時間は進んでおりません。』
異界ね……
回りを見るのを止め、腕を組んで目を閉じた。これ以上探しても無意味と言われ、何やらとんでもファンタジーな説明が入った。あの世でない以上何かをさせられると踏んでいるため、現状の把握と理解を優先することに決めた。
『ご理解が早くて助かります。』
こちらの行動の意図を察したのか、そんな言葉をもらした。
『では……目的ですが、私…私達から何かをして欲しいということはありません。』
「……何?」
『今回、あなた方にはある異世界に転移してもらうことになっています。ただ、そちらで何をしていただいても構いません。』
「転移は確定事項か……」
『正確にはこの空間で事項の変更は出来ません。この空間に来る時点で召喚によるギフトの選定は終了しており、対象の体にギフトが定着するのを待っている状態になります。』
「ギフトとは何だ?」
『個人個々で変わりますが、特別に付与された特殊性や特異性とお考えください。』
特殊性ね……
「いくつか質問がある」
『お答えできる範囲であれば。あと、ここでの記憶を覚えておられる方は稀ですので、ご了承ください。』
記憶が残っている訳ではないとしたら、ここでのエスティアとの会話は一体何の意味があるのだろうか。
「一切の関わりがないと言っていたが、どういう意味だ。」
『異世界召喚に関しては基本三種類ございます。一つ目、私達が何らかの理由で召喚を行う場合です。これには私達が関与するので私達が目的の啓示とギフトの付与を行います。また、この場合はギフトは多少の選択が出来ます。二つ目が世界内における人為的な召喚です。今回がそれに当たり、召喚のために用意された力の余りからギフトが選定され対象に付与されます。この際、私達の意図での召喚ではないため、目的の啓示や思考誘導等を行うことが禁止されております。』
「なるほどな。意図は召喚者にあるから関与はできないと……つまり、召喚者に協力するもしないも自由ということか。」
『その通りです。そして、三つ目は何らかの原因で異世界間が繋がり迷い混んだ場合です。こちらに関してはギフトもなく、私達も関知することが困難です。しかし、異世界間が繋がること事態が非常に稀な上に事例が皆無に等しい程しかございません。』
三つ目はただただ可哀想な話だな。というより、関知が困難で事例の確認が出来るのだろうか。
「異世界召喚は確定事項のようだが、元の……地球に帰ることは可能なのか。」
『世界の法則に従った上で可能かどうかとなると可能です。』
可能は可能だが、確率はかなり薄いと見るべきか……
「これから連れていかれる世界について聞く事は可能か。」
『先入観や召喚者の意図の関係上私達から話すことは出来ません。召喚固定ギフトに言語理解というものがございますので、会話することは可能です。そちらで対象者からお聞きください。』
なるほどな。
「地球での俺達の扱いはどうなる。」
『……恐らく行方不明となるかと思われます。』
それはそうだろう。つまり、異世界で時間が進むと地球でも時間が進むということになる。
「同じような話を他の5人にも話したのか?」
『話しています。帰還可能か、召喚拒否はできるか等の質問もあり、今と同じ答えを返させていただきました。』
つまり、俺が一番最後か。これに関しては特に気にする事ではないか。
「今までの話で嘘はあるか?」
『……私はこの空間で嘘を話すことは出来ません。』
私は……ね。その上、妙な間と判断に困る答え……。
「こんなところか……」
『わかりました……それではそろそろお別れです。』
スッと眼を開き、俺は真上を見上げた。遠近が分かりにくい空間を目に納めるとゆっくり口を開いた。
「また会おう、エスティア。」
『良き生を。沢村刀哉』
すぐに視界は光で覆われ、溶けていくように意識が遠のいていった。
ありがとうございます
1000文字は意外に少ないと痛感しました。
先人の方々はやはり偉大です。
これから先は三日に1話更新を目標に書いていきたいと思います
誤字脱字、文章表現の指摘等あればよろしくお願いします