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決闘

宿に戻っておよそ一時間弱。俺の話を静かに聞いていたアリシアは話終えて溜め息を吐いていた。


「国王に腹を立てて王国騎士団に喧嘩をうってって……やっぱり馬鹿なの?」


呆れたといった表情をしながら、それでもどことなく笑顔に見えるアリシアはそんな風に笑った。


「でも、あなたの強さの秘密が少しわかったわ」

「そうか。とりあえず俺はこれから元の世界に帰るための方法を探しに旅に出るつもりだ。召喚魔法ならこの王都の方が情報はあるかもしれないが、この世界を知りたいって気持ちもあるしな」

「もし……もし帰る方法が見つかったらトーヤはどうするの?」

「……分からない…かな? とりあえず御崎達は帰れるようにしてやるつもりだけどな……」


先程も言ったが、俺も知らないことが多いのだ。知ってからでも遅くはないのではないかと思う。


「とりあえず魔法についてだから魔族領に行こうと思っていたんだが、レオルにアリシアを実家に一度連れていけと言われたからな。それなら先に獣人の国を回ろうかと思ってる」

「……ねぇ、その……アリスって呼んでくれない?」

「……いいのか? レオルからは親しい人からしか呼ばせていないって聞いたが?」

「うん……親しくなりたいから……」


最後の方はゴニョゴニョとなって聞き取りにくかったがどうやら呼んで欲しい事はわかった。


「えっと……アリス」

「はい」


いい笑顔でニッコリと笑うアリシア、アリスの姿に俺は少しドキッとした。幼さを僅かに残す少女の笑顔に。俺はとりあえずとわざとらしい咳払いをして話を再開した。


「とりあえずアリスの実家に向かってそこから獣人の国に行くつもりだけど、それでいいか?」

「大丈夫よ。これから、よろしくお願いします」

「あぁ。よろしくな」





夕食の頃まで話をしていた俺達は「食ってきな」といい顔で笑うフィラさんの言葉に甘えて食事を済まし、また明日とアリスは自分の宿に戻った。何やら明日にはアリスもこっちの宿にくるらしく、俺は残金からアリスの宿泊分の費用をフィラに渡して部屋に戻った。


「あと数日で出発か……御崎達は何とかなってんのかな……」


昨日はまだ満身創痍だったからあまり感じなかったが、落ち着いた今日は昨日グラドに会ったせいもあって置いてきた奴等を思い出させた。グラドが奴等に関して何も言わなかったという事は問題ないと取れるだろうと結論付けてゆっくりと目を閉じた。


「知らないことが多すぎるな……ステータス」


パッと現れたステータスカードをぼんやりとした目で見た。




沢村 刀哉 Lv,38

魔導士 Lv,25 魔法剣士 Lv,12


体力 680

魔力 2200

筋力 155

敏捷力 200


技能

言語理解

全属性適性

詠唱省略

魔法理解




翌日、俺はアリスの移動を手伝った後にギルドに顔を出すことにした。一応正式にパーティを組んだ件をレオルに伝えるためだ。


「アリス、先行っててくれ」


ギルドに入った俺は背後から迫る敵意に身構えた。アリスは不思議そうな顔をして頷いて先にレオルのところに向かった。俺は体に魔力を流しながら小さく息を吐いた。


「4……5人か」


感じた敵意のうちの一つが近づいてくる。


「てめぇ、よくノコノコ顔を出せたな。」


ふと振り返ると、どこかで見たような顔がそこにあった。


「はぁ~……何の用だ」

「調子に乗りやがって……てめぇに決闘を申し込む」

「断る」


俺はもういいかと歩き出した。そんな俺の肩をガシッと掴んでくる男。喧嘩を売っているようで、かなりの力が込められていて普通に痛い。


「やられっぱなしは性に合わねぇ。大人しく決闘を受けて殺されるか、街から放り出されて殺されるか選びな」

「……バカかお前は」


俺は溜め息を吐きながら振り返って男を睨む。あのフェンリルに比べれば虫けら程度の力しかないようなやつに割く時間はない。


「んだと!! もう一度言ってみやがれ!!」


俺の言葉に顔を真っ赤にした男はその大きな拳を振りかぶった。俺は両手に魔力を移しながらどうするか考えていた。強く握られた拳が勢いよく振り下ろされた。


「面白そうじゃないか。キミ、受けてあげなよ」


俺は男の拳を受け止めようとしてやめた。振り下ろされていく男の手首を簡単に掴んだ美青年がニコニコと笑って立っているからだ。男は美青年の顔を見て、真っ赤だった顔を真っ青にしていった。赤になったり青になったりと忙しい奴だ。


「誰だ、あんた?」

「おや……僕はラルという。よろしく」


俺はこの美青年、ラルに覚えがあった。確か始めてこのギルドに来たときにステータス偽装に気づいたもう一人だ。


「あぁ、よろしく。で、そのラルさんは俺に何の用だ?」

「う~む……興味かな?」


一々行動が絵になるような奴だ。


「最初に見たときから興味があったからね。魔導士君」

「ただの魔法使いですよ」


俺もこいつに合わせて笑顔で答えておく。強さもそうだが、話の持っていきかたからも一筋縄ではいかないと感じたからだ。


「魔導士は貴重だからね。僕が知っているだけでも数はかなり少ない。スカウトしてみたいけど皆どこかしらに所属していてね。君みたいなフリーは本当に稀なんだ」

「そうかい。ただ、あんたと組む気は無いけどな」

「アリシア君の事かな?」


どうやらしっかりと調べられてしまっているようだ。まあ何度かギルドで一緒にいたし、今日も一緒にいたから仕方ないのだが。


「なんなら彼女も一緒にどうだい?」

「断らせてもらうよ。それよりさっさと決闘の話を進めてくれないか? 連れを待たせてるんだ」


ラルは「あぁ、すまなかった」と言って話を進めだした。決闘相手の男は俺達が話すのを驚愕の表情で見ていたようだ。コロコロと変化する表情は中々に面白かった。






決闘はすぐ行われることになった。立ち会いはギルド職員とラルの二人。相手に降参させるか死亡させるかすれば決着となる。降参の場合は勝者が敗者から賠償金を得ることが出来る。額は予め申し込み者が提示、提出した額となる。本来は提示額によって断ることが出来るのだが、今回は万が一負けた場合はラルが補償する話になっている。次に死亡した場合は敗者の身ぐるみがはがされる事になる。一応俺が殺されそうになったらラルが止めに入るらしい。


「そろそろ始めようか。準備はいいかい?」

「おう!!」

「ああ」


ラルの言葉に鎧を着込んで大斧を担いだ男は気合い十分に返事をした。俺は特に気負うこともなく適当に返事をした。準備の段階で色々補助魔法をかけてある。今はギルド前にいるのだが、回りには囲むように観戦者がおり、賭けが始まっている。聞く限り俺の方が倍率は高いようだ。ギルド内からはアリスとレオルが遠目に見えた。「何をやっているんだ」といった表情でこちらを見るレオルだが、今回俺に責任はないと思う。アリスは不安そうな顔をしていたので、ニッと笑ってやるとうんと頷いてくれた。


「それでは……始め!!」


ギルド職員の挙げられた手が下ろされると同時に男は斧を横凪ぎに振り回した。立っていれば肩から首辺りを斬り飛ばしていたであろう斧の攻撃を俺はしゃがんで回避した。


「避けやがった!?」


俺の回避に驚く男。どうやら今の一撃で勝負がつくと思っていたらしい。ラルが動かなかった時点で倒せないと判断できなかったのか。


「終わりか?」

「ぐぬっ……らぁ゛!!」


今度は斜めに振り下ろされたのだが、当たってやる気はさらさらなかったので数歩分下がって回避した。目の前を斧が通って風圧が飛んできたが、俺は特に動じることもなく驚く男の顔を見ていた。ふと視線をずらすと、変わらないイケメンスマイルのままラルが面白そうにこちらを見ており、回りのギャラリーは「おぉ」とどよめいていた。


「んなもんか……」

「なっ!?」


俺は一気に駆け出して懐に入り、男の顎にアッパーを放った。男は驚きから反応が遅れたために俺の攻撃を綺麗に食らってしまった。俺は軽く飛んで男の顔を掴むと、地面にめり込む勢いでぶつけてやった。


「ぐがっ……」


衝撃で意識を飛ばしてしまう男。俺は男の首を掴み、高く持ち上げた。男の体重と鎧で100㎏近くあるはずの体を片手で上げた事にまた驚きの声が上がる。


「さっさと起きて降参してくれないか?」


ペシペシと往復ビンタを食らわしながら男の覚醒を促すが、男の反応は鈍かった。俺はパッと手を放して男を解放すると、小さく溜め息を吐いてからラルと職員の方へ歩み寄った。


「まだやるのか?」

「僕的にはまぁまぁ満足なんだけど……」


ラルの視線を追うと、男がようやく立ち上がったところだった。男の目には怒りが見てとれた。


「まだやるのか……仕方ないな……」


俺はまた男に向き直る。男は斧も持っていなかったが、両腕には力が込められていた。


「どうした? こいよ!!」


わかりやすい挑発も忘れていないようだ。というか、俺が魔法使いということを忘れているようだ。俺はまた溜め息を吐いてニヤッと笑ってからグッと足に力を込めた。


「後悔するなよ」


俺は一足で男の懐に飛び込み、男の左手側をくるりと回った。男は俺の突撃が見えていたらしく右腕を振るったようだが、俺は既にそこにはいない。綺麗に背後に回り込んだ俺は男の左腕を後ろから掴んで思いきり捻った。ゴキッと嫌な音を響かせ、肘から先が逆に折れた。


「グギャアァァア!!」


聞くに耐えない悲鳴を上げるが、俺は構うこともなくさらに反対側の腕を掴んだ。


「降参するならやめるが?」

「っぐ……だ、誰が……あがぁぁあ!!」


言い切る前に右腕も折った。俺は後頭部を掴み、そのまま男の顔面を地面に叩きつけてやった。


「もういいだろ? それとも足も折ってやろうか?」


ギャラリーは男の腕を見ながら自分の腕を擦っていたり、驚いた表情で俺を見たりしていた。


「いいでしょう」

「この勝負、トーヤの勝利とします」


職員がラルに促されて勝利宣言を行った。俺は首を軽く回してからギルドの中、アリスとレオルの元に向かった。


「どう見ても魔法使いの戦いじゃなかったわね……」


後で、呆れた顔のアリスにこう言われてしまった。



遅くなりました

プチスランプで何故かしばらく書けませんでした


気分転換しつつゆっくり書いていこうと思います汗

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