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親友

ため息で前が見えなくなりそうだ。

「おーい、カーイ」


 自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、これもただの妄想か、風の音だと思いそのまま下を向いたまま歩いた。いくつもの足音が重なり合いひとつの楽器のようだ。


 突然肩を叩かれた。自分でもおかしくなってしまうほど、小動物みたいに大きく体が反応した。体全体が数センチ跳ね上がった。


「久しぶり、カイ。」


 僕の驚いた様子があまりにもおもしろかったのか、僕を見たからうれしかったのかどっちか分からないが、僕はとにかくうれしい。今一番会いたかった、僕のたった一人の親友と呼べる人。ひとりぼっち広大な砂漠でオアシスを見つけた。


 顔を上げると田畑には、冷たい宝石が淡い太陽の光で輝いていた。目には見えない小さな小さな粒がひとつひとつはっきりとした形を持ってそれぞれが輝いているから、これほどまでに美しいのだろう。


 僕たちは一緒に学校に行った。その間会話がやむことはなかったが、それは彼が一方的に話しているだけ。僕からはほとんど話しかけられない。彼の言ったことに笑ったり合いづちを打ったり、質問されたら答えるだけ。それでも僕は、僕たちは親友だと思っている。


 彼のおかげで学校までの距離が短く感じた。いつの間にか学校に着いていた。


 靴を履き替えていると

「おはよ」

とあからさまに明るく、夏の夜空に輝く花火のような笑顔が僕たちに向けられていた。しかしそれは明らかに僕には届いていない。


「ね、知ってた。今日転校生来るんだって」


 そう言って彼女は僕と彼の間に割り込み、自分の世界に彼を取り込んでいった。知っているはずなのに、たぶん同じクラスのはずなのに、どうしても彼女の名前が出てこない。目がとても大きく瞳がキラキラと輝いて、ハーフなのだろうか西洋人形のような顔をしている。その上黒く長い髪。クラスの中でも目立つ存在であるはずなのにどうしてだろうか、彼女の名前が出てこない。ただ彼女が何人もの男といちゃついているのを見たことがある。


 僕が知らないうちに彼らはもう恋人同士なのかもしれない。二人きりで彼女が彼の制服の腕のところをにぎって歩いている。もし彼らが初対面なのなら、このペースでいけばきっと三日後には二人の子供がいるにちがいない。


 しかし客観的に後ろから彼ら観察してみると。どうやら彼女が一方的に好きなだけみたいだ。彼は無視しているのか、それとも気が付いていないのか全く彼女を彼女だとは思っていない。さっきの僕と話している時となんの変りもない。二人は愛に包まれているかもしれないが、見ていて互いに知らないすぎる気がするので、それはただの恋愛ごっごにすぎない気がする。彼女は彼しか見えてないし、彼は彼女を見ていない。


 でも彼女が本当に彼のことを好きなら、やっぱりまず、三年生の眼鏡をかけた長身の先輩と今年大学を卒業したばかりの体育の先生とあと誰かとは知らない五十代ぐらいのおじさんと別れないといけないな。


 そのまま三人で、教室まで行った。はたから見れば僕はきっとカップルの後ろをたまたま歩いている他人にしか見えないだろう。彼とは違うクラスだが、彼女とは同じクラスのようだ。教室の近くまで来ると、二人は離れ突然全くの他人になった。

 別れも言わずあっけなく教室に入っていった。あの調子だと別れのキスでも彼女はしそうだっただけに、今の状況がつかめない。彼に聞こうとした。彼女とどんな関係なのか。でも彼は何もなったみたいに、彼女のことは何も話さず、さっきまでの話の続きをしだした。今までのこの数分はきっとなかったのだろう。



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