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私1

目の前には、はっきりとした形はなく、何かふんわりというか、ふわふわのモフモフの羽毛のような、何かが浮かんでいる。


さっきから、手を寝起きの時の伸びのように、思いっ切り伸ばしているが届かない。あとちょっと、あとちょっと。本当にあと少しで届きそうだ。

 かかとを上げて、つま先で立てば、手に入れられる気がする。もっと上に手を挙げれば届く気がする。軽く飛び跳ねれば。それができない。出来ることなら、ほしい。

でも、自分をあと一歩、いや、あと半歩押してくれる自分がいない。もう自分には無理だと諦めている。


だが、時には強気な自分もいる。ほんの少しだけ勇気をだせばいい。失敗しても、死ぬことはないんだから。そんなことよりも、何もしないで逃げることの方がいやだ。それに、自分の気持ちに嘘はつきたくない。やらなくちゃ後悔する。やっても後悔するかもしれない。でも、やらなくて後悔するぐらいなら、やって後悔するほうがましだ。そんなことはやって後悔した人が言える言葉だ。やれば、何かが変わるはずだ。例えそれが、良い方向に変わらなくても、自分を追い込むことになっても。今のこんな状態に比べたらましだ。


 このような気持ちを保てるのもほんの数時間。昨日後悔し、明日こそと思っていた昨日と同じ一日を送り、また明日こそと思って下校時。ひとり自分の部屋であなたに思いを伝えようと思い、便箋にあなたの名前と自分の名前を書き、そこに「付き合ってください」以外に、何を書こうと決めている時。お風呂に入りながらあなたと付き合えた時のこと、あなたとデートをし、あなたの手と自分の手触れた時のこと、あなたの唇が私の唇とくっついた時のこと、あなたのことを他の女の子よりも知ることができた時のこと、あなたと永遠の愛を誓い、あなたと一緒に暮らし、あなたと私の子を産む、などという、行き過ぎた妄想を頭の中でめぐらせている時ぐらいだ。


 例え、このような気持ちが強くなって、明日こそ決めると、固く心に誓って寝ても、朝になり起きた頃には、昨日の夜の半分以下になり、友達との待ち合わせ場所に、行くまでには、自分がコーヒーを飲むときに入れる角砂糖の量と同じになり、あなたを生徒玄関で見たときには心地よいような、むずむずとしたような、不思議な感覚に満足する。


 あなたが友達と自分のクラスに行くのを見ると、現実世界に戻させられたようになり、いつものように、友達と一緒の彼とは反対方向の廊下を歩き、あなたの横のクラスに入っていく。


 このような日が何日も続けば、当然自分で自分を信じられなくなり、自分が嫌になる。どうして彼女はあんなにも彼と上手く話せるの?ねえ、そんなに彼に触れないでよ。もっと嫌がってよ。みんな見ているんだから。恥ずかしくないの?私だったら無理。彼のことが好きな人がいたら、うざがれるもの。現に私かなりきてる。彼女のことあなたのこと同じくらい好きなはずなのにいっぺんに嫌いになりそう。


ねえ、付き合ってないよね?ただのクラスメイトだよね。だからそんなに気安く話せるんだよね。私だって好きじゃなかったら、話す必要ないよね。


でもね、私やっぱり彼女のこと好き。だって彼女といるあなたは、とても幸せそう。いつも、この世を見下しているようなあなたが、希望いっぱいに笑うだもの。とても、可愛らしく。くしゅっとつぶれた笑顔。その笑顔で心がみたされる。無理やり大きく広がった心が戻ることなく、空洞になる。今まで幸せだったのに、何も失っていないのに奪われた気になる。心の容量が大きくなったからもう今までの幸せでは満足できない。


  幸せ?幸せだよ。


  でももっと幸せになりたい。あなたと一緒にいたい。彼女みたいに。


 憎い?別に。

 

 もっと幼い気持ちと思う。森で小人に育てられた姫みたいに。


  彼女のこと嫌いになった?そんなことないよ。彼女は私に優しくしてくれるもの。姉妹みたいに。


  うらやましいの?ちょっとだけ。

 

 でもしょうがない気がする。私には彼女みたいなコミ力ないし、明るくない。背も高くないし、胸も大きくない。可愛くもない。


 少年漫画にでてくるヒロインっていいよね。だっていつも近くに好きな人がいるんだから。それに彼らは無条件好きになってくれるじゃん。確かに敵を倒すことしか考えていないけど、守ってくれるじゃん。それで好きって言ってくれないから不満を持つのはすごい欲深い女だ。それに好きって言えば必ず両想いになるじゃん。二人の恋邪魔する何かは絶対登場するけど、結局結ばれてハッピィー。敵を倒したあときっと幸せな余生を送ってるじゃん。


 なんで。


 男ってやっぱり顔なのかなあ。やっぱりあなたもかわいい人が好きなの?ねえ、教えてあなたの思う可愛い顔ってどんなの。それってやっぱり彼女みたいなの。でも、知ってた?私、彼女によく似ているねえって時々言われるのよ。笑った顔がそっくりって。そうよ、あなたが嬉しそうに眺めている彼女の笑顔と。


 どうしてあなたのことが好きなの。気が付けばもう夜中の二時だ。寝ていたわけでないのに、夢を見ていた気分。あなたのことを考えると自分の理性を調整できなくなる。明日の英語の予習は机の上で、カモメが重なるように教科書とノートを広げただけ。あなたのことを考えると全てがどうでもよくなる。今まで当たり前だと思い、当たり前にやってきたことがとても無駄に思う。だって、英語が話せてもあなたとは話すことができないもの。


このまま寝てしまおうと思ったが、お風呂に入ってないことに気がつき入ることにした。本当はもう寝てしまいたかったが、今の気持ちがまた明日も続くと感じると、せめて体ぐらい明日から新しくしたいと思った。タンスから下着とパジャマを取り出し、お風呂場へ向かった。


 

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