りんごのなる島2
次の日。
「あー、おなかがすいたよー」
男は不満を漏らしました。
ボートに食料が少しは乗せてあったんですが、その食料も尽きてしまいました。(水は、少し残っています)
「それだったら、僕の体にあるリンゴの実を食べたらいいよ」
「ありがとう」
男は、リンゴの実を食べて、おなかいっぱいになりました。
次の日。
昨日と同じく、漂流が続いています。
そこに、クジラがやってきました。
一瞬、食われるのではないかと、男は思いましたが、そうではないようです。
「ええーん、ええーん」
クジラは、大声をあげて鳴いています。
「どうしたんだい?」
「群れの中で生活していたんだけど、僕だけ体が小さいから、仲間はずれにされたんだ。だから、今、僕は、一人ぼっち。僕と友達になってよー」
「そうか、かわいそうに。よし、僕らが友達になってやろう」
と、いうわけで、彼らは友達になりました。
その後、しばらく、彼らは、楽しくおしゃべりしていました。
しかし、
「うーん、のどが渇いた」
男は、ふと不満を口にしました。
救難ボートにあった非常用の水は、とうとうなくなってしまったようです。
それを聞いたクジラは、
「僕の頭から、水が出るから、それを飲んだらいいよ」
男は、クジラの頭のところに行き、頭から吹き出る水を飲みました。(もちろん、リンゴの木もこの水を飲んだ)
「うまい、うまい。いやー、こんなにたくさん水を飲んだのは久しぶりだ。陸地にいた頃を思い出すなー。そういえば、いつになったら、陸地につくのかなー」
「僕の記憶によると、あと2・3ヶ月しないと陸は見えないはずだよ(クジラ)」
「2・3ヶ月も!?あー、早く大地を踏みたいなー」
「僕がなんとかしてみるよ」
と、リンゴの木は言った。
すぐさま、リンゴの木は、自分の枝を伸ばし始めた。
伸びた枝は、ボートを取り囲むように陸を作り出した。
「ありがとう、リンゴさん。でも、この大地、土がないよー」
さっかく、リンゴの木が、大地を作ってくれたのに、人間は、まだ不満があるようです。
「よーし、僕が土を運んであげるよ」
クジラは、海に潜り、底にある土を口の中に入れました。
そして、その土を枝で出来た大地にぶちまけました。
これを何度も繰り返しました。
しばらくすると、土がいっぱいの大地が出来上がりました。
まるで、本物の大地のようです。半径約50メートルの陸がそこには広がっていた。
「すごい、さすが、クジラさんの力だ。ありがとう」
人間は大地の上に乗った。大地の感触が足から伝わってくる。
「そうだ。この感触だよ。あー、気持ちいい」
人間の目はいきいき輝いていた。そこらへんを歩き回った。大地の感触をより深く確かめたかったのだ。
踏んでも水のように柔らかくない。これこそが大地の感触だ。
それは、ただ、土を載せただけの即席のもの。所詮、本物とは違う。
でも、それは本物と同じように感じた。少なくとも人間にはそう感じられた。
「人間さんが、喜んでくれて、僕もうれしいよ」
と、くじらとリンゴの木は言った。
そこへ、ゴミ袋が流れてきた。袋が部分的に敗れ、中が見えていた。
食べ残しなどがゴミ袋の中にあった。どうやら、一般家庭から出たゴミのようだ。
即席の大地にごみが流れ着いた。それも一つだけでなく、次々と次と流れてきた。
「なんだ、こんなに大量に流れてきて、汚いなー」
と、人間は言った。
「年々、人間のやっていることはひどくなっている。ごみが流れているなど氷山の一角に過ぎない。このままでは、地球が壊れてしまう」
と、りんごが言った。
「その通りだ。りんごさん。僕は生まれてからずーと、ここにいるからわかるけど、海はどんどん汚くなっている。最近は、特に水の汚れがひどく、海の中の景色が僕の目にもはっきり見えないことが多い」
りんごとくじらの二人の会話を聞いて、人間はぼろぼろと泣き始めました。その涙の粒が海に落ちた。だからといって、海の塩分の濃度には何ら変化はなかった。
「すまない。すまない。みんな僕ら人間が悪いんだ。思えば、今まで人間は自分の言葉ばかり考えていた。私の友人・知人だけではなく、私自身もそうだ。ごみは分別しないでだすは、道端にごみを平然と捨てている。今まで、なんとも思わなかったけど、それが積もり積もって君達に迷惑をかけていたんだね」
人間は今までしてきたことを思い出す。今までの自分のしたことは全て人間と言う存在が1番えらいという考えが前提にあった。だが、地球は人間だけのものではない。所詮、人間は地球上にいる生物のひとつに過ぎないのだ。
「やっとわかってくれたようだね」
りんごとクジラが同時に言った。
「それがわかれば、君は成長したということだよ。私たちが今まで出会った人間達はろくな人間ではなかったが、あなたは違う。この地球は今、汚れきっているけど、あんたのような人間がいるなら大丈夫だ」
その言葉を聞いた途端、人間は急に眠たくなった。意識を失った。