先生との出会い。
新しい中学に転校してきたばかりの私に向けられた周囲の目は悪意に満ちたものだった。
教室の隅で大人しく本を読み、友人を作らないような地味な人間には皆厳しいものだ。嫌いならば放っておいてくれればいいものをわざわざご丁寧に机やノートに「ガリ勉」だの「陰キャラ」だの書いて。
気に入らない人間には嫌がらせをしなくては気がすまない、そういう周囲の人間を内心子供じみていて軽薄だと見下していた。
面倒くさい。人と関わっていていいことがあった試しがない。最低限の関わり合いだけでいい。そう思っていた。
でも…
「栞さん?」
「…はい?」
「あなた、栞さんっていうの?」
放課に私に話しかけてくる物好き。名札を見ながら微笑んでいる。ああ、教師かとすぐにわかった。次の時間は現代文、確かこの先生の名前は…
「現代文の忽那文香先生…でしたか?」
「私のこと知ってるのね、嬉しい。これからよろしくね。」
「…よろしくお願いします。」
長くて艶のある黒髪に、整った優しげな顔立ち、清楚な服装…上品で綺麗な人だ。
「それにしてもいい名前ね、栞って。私、本を読むのが好きだから。」
「あ…私も、本読むの好きです。だから、この名前も気に入っていて。」
「本当?私たち気が合いそう。たくさんお話しましょうね。」
「…はい。」
この学校に来てからこんなに人と話したのは初めてかもしれない。
人と関わるのを避けてきたけど、この人とならたまにはいいかもしれないと思えた。
何より、敵意も悪意もなさそうだったから。