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4話




がたがた。

ごとごと。


その音、というより、間断なく体全体に伝わる振動に体の節々が痛む。ケツ、痛い。

堪らず上体を起こし目を覚ますと、視界一杯に広がるマリアの顔。


「コウ、目が覚めたかしら」


おはようじょ。


目覚め一番に金髪美幼女の顔とは、なかなか気分がいい。

それに、幸先がいいとも言えるんじゃない?

50%な確率でおっさんだったらと思うとぞっとする。


「ふふふ。無防備に眠っていたけれど、そんなに信頼してくれてもいいのかしら」


・・・っ。


その言葉に一瞬体を緊張させるが、すぐに力を抜く。

正直、マリアの言う通りである。


あの戦闘・・と言えるのかは分からないが、あの後。

目を覚ましたおっさんにまた襲われるかと警戒していたが、なぜか敵意の欠片も無い様子で接してきたおっさんと話ができた。


自己紹介から始まり、長ったらしい名前だったおっさん(だが、おっさんとしか呼ばない)と娘のマリア、俺こと桜井鋼はこれからのことについて話し合った。


・・いや、仕方なかったんだよ?


俺もさっきまで殴りあってた知らない人といきなり今後について話し合うのはおかしいって思うよ。

でも、俺はいきなり見知らぬ所に放り出されて、超常現象も目の当たりにしちゃって、途方にくれてたらさ。

おっさん達があの館も潰れたし久しぶりに外に出たいからって、俺に同行するって言うんだよ。

もちろん、地理も分からない俺だから行く宛なんて無い。


というわけで、家を無くした吸血鬼親子と家に帰れない俺の旅が始まった。

そして、今に至る、と。


おっさんが用意した馬車(また、あの黒靄の狼に牽かせてる)に乗りながら、御者台にいるおっさんを除いたマリアと二人の車内。

幼女と二人。

わざわざおっさんの顔を見たくないから、呼びかけはしない。

回想とも言えないなような現状確認した俺は、こんな状況で眠っていた自分の大胆さに我ながら驚きつつも、マリアに声をかけた。


「で、今はどこらへんなんだ・・・っても、地名なんか知らんから、あと町までどれぐらいか教えてくれ。」


「もう、起きていきなりねっ、コウ。・・私も初めて外に出るから詳しいことは分からないのだけれど、あと少しでこの『大森林』を抜けられるわ。それから、ニンゲンの道を辿って最寄の町に向かうそうよ。」


ばきばきばきばき、ばたんばたん。


この突然の騒音にはもう慣れている。


というのも人の手が入っていなさそうなこの森に勿論上等な道なんてあるはずも無く。

獣道を通りながら、しばしば遭遇する木々や見たことの無い獣(魔獣と言うらしい)などの障害物を力ずくで排除していく狼モドキを見て呆れながら、小さく呟く。


「もうどこから突っ込めばいいか分からんけど、地球じゃないのは確かなようだな・・」


「?・・チキュウって?」


「俺の住んでたトコ。」


そう、マリアに返し、改めてこれからどうしようか考える。


魔法。

魔獣。

そして、吸血鬼。


まさかそんなファンタジーみたいな場所に迷い込むとは思わなかったけど、一度そう納得してしまえば、意外と腹は括れる。冷静だな、俺。


・・いや、よく考えみたら、案外悪くないかも。


「なぜここにいるか」から「これからどうするか」に思考がシフトして思ったんだけど。


魔法だよ、ファンタジーだよ!

町に行ったら、ギルド的なのに入ったり。

パーティ組んで、迷宮に挑戦したり。

素材集めて錬金するみたいなことも悪くないよな。


・・やべえ、何かテンション上がってきたぞ。


「コウ、なに気持ち悪い顔をしているのかしら。」


いい年して少年の心を取り戻していると(厨二病ではない!ここ大事!)、マリアに呆れ顔で気持ち悪いって言われたし。


「もうすぐ森を抜けるみたいよ。」


「お、やっとか。この薄暗い森には気がまいってたんだよー。」


車内から少し顔を出し、前方を覗く。

先ほどよりも木々が疎らになり、まだ高いであろう日の光が漏れ出ている。


そして、明るくなる車外に合わせて、俺の気分も急上昇してくる。

確かに不安な所もあるけれど、それより新しい世界への期待に胸が膨らむ。

今なら周りの全てが俺の新しい門出を祝福してくれているような気がする。

今にも森を抜けそうなこの瞬間こそが俺の未来への第一歩。



そう、これから始まるのだ、俺の異世界ライフが!




そして、森を抜けたを俺の視界に映ったのは・・・












剣などの武器を持って一台の荷馬車を囲む十数人の小汚い男達だった。




・・・




・・・




『盗賊イベント』キターーーーーーーー!




盗賊討伐イベント?

それとも、奴隷救出イベント?

いや、王女遭遇イベントっていうパターンもあるなあ。

ふふ、どれだろうなあ。







後から思うと、変なテンションで言動がおかしくなっていた俺に一つだけ忠告してやりたいことがあるとしたら、それは「この世界をゲーム感覚で考えるな!」と危機管理を促すものではなく、「隣の吸血鬼が二人いることを・・忘れるな」だろう。




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