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dream boy  作者: BAKORU
2/6

バレンタイン

「朝よぉー!!早く起きなさい。早く起きないと遅刻するわよ。」


夢の中で何度も繰り返し、その声が聞こえている気がした。徐々にはっきり聞こえてきて、その言葉の意味を理解し飛び起きた。


 「母さん!!今何時?」


 「もうすぐ8時よ。」


起きる時間的にはいつもと変わらないのだが、今日だけは別。そう、今日はバレンタインなのだ。 バレンタインという日は、全国の男子高校生(特に、彼女のいない僕らのような奴ら)にとっては一番のビッグイベントである。

もしかしたら、彼女のいなかった日々におさらばできる記念日になるかもしれないんだから。

そんな日は遅刻など絶対許されないのだ。


パジャマ姿からそそくさと制服に着替え、ピンと立った寝癖を愛用の整髪料で整えて、準備完了!!


 「ワイシャツ出てるわよ。ちゃんと入れなさい。」


 「これでいいんだよ。」


こんな会話を何回言っただろう。階段を軽快に降り、玄関で靴を履き下駄箱に立てかけてある[俺の相棒]を抱えて外に出た。


 「行ってきます。」


 「ご飯はいらないの?」


 「今日はいらない。」


外に出るなり相棒を地面に置いて、その上に乗った。右足で地面を蹴って相棒に加速をつけてやると、それにこたえるようにスピードを上げて地面の上を軽快に走っていく。

そう、相棒とはスケートボードのことだ。名前は

「ジェットマン」五年前に父ちゃんが買ってくれた俺の唯一の宝物で、父ちゃんの形見でもある。


俺の父ちゃんはジェットマンを買ってもらった一ヶ月後に事後で死んでしまった。それからというもの、母さんが一人で俺を育ててくれている。

俺も高校を出たら神崎家の長男として、親孝行をしようと思っている。


そう言えば自己紹介がまだだったね。

俺の名前は神崎リョウ。公立高校に通う高校2年生で、趣味はスケボー、好きな食べ物はカレー、好きな歌手は…ってそんなことまではいいよね。とにかく今日はバレンタインってことで、気合いが入ってる十六歳です!! 

いつもは家から学校までは十五分ぐらいで着くが、今日はジェットマンも張り切っているらしく、十分で学校の近くまで着いてしまった。

俺はジェットマンから降り、左腕の脇に抱えた。


 「よっ!!リョウ。」


 「おう!!シンジ。」


後から声をかけてきたのは、親友のシンジだった。シンジとは中学の時からの仲で、今では何でも話せる一番の親友だ。


 「おっ!!今日がバレンタインだからってかなり気合い入ってんな。」


 「はっ?そんなの別に気にしてねぇよ!!いつもと変わらないだろ。」


シンジが変な事を言うから慌てて言い返してしまった。顔が赤くなっていないか心配だった。

自分でも気合いが入っていると言っていたが、あくまでそれは気持ちの問題であって、他人に分かるように外見をどうこうなどはしていない。

だってそんなの恥ずかしいだろ。


 「ハッハッハッ…本当リョウってからかうとおもしろいよなっ。」


 「そう言うお前だって、いつもより髪に手加えてんじゃない?」


俺はシンジに言い返してやったつもりだった。


 「まぁな!今年は最高記録狙ってるからね。」


そうなのだ。こいつはこういう奴なのだ。いつも俺が何を言ってもスカされてしまうのだ。たしかにシンジは毎年抱える程のチョコを貰っていたけど、もうすこし俺のからかいの言葉に付き合ってくれてもいいはずだ。


 「で、狙いはリンちゃん?」


 「はっ!?何言ってんだよ。」


突然のシンジの言葉に、予想以上に大きな声が出てしまった。


 「ハッハッハッ、冗談だよ。ホントお前っておもしろいな。あっ!!わりぃちょっと行ってくるわ。」


後輩の女子三人組に呼ばれシンジは、小走りで校門の所まで行った。

正直まだ動揺していて、そんな事はどうでもよかった。


リンっていうのは、僕と幼稚園からの幼なじみで、小中高とずっと一緒の学校だった。


昔は家の近所だった事もあってよく遊んでいた。昔の写真を見ると、ほとんどに僕とリン、そしてもう一人の写った写真ばかりだった。シンジの言う通りリンの事が好き…って言うわけじゃないが、気になってはいた。


 「おはよう!」


左肩を叩かれ、振り返るとリンがいた。


 「あ、おう!おはよう。」


ちょっとした、嬉しい偶然に少しぎこちない感じになってしまった。


 「そんなに驚いたの?ふふっ。」


 「ちょっとだけな。」


この頃、自分でもリンと話す時に違和感を感じる。

昔のように喋れていないような気がする。


 「今日バレンタインだね。チョコ貰った?」


胸がドキッ!!とした。


 「いや…貰ってないよ。」


僕はそんな事には興味もない、というようにそっけなく言った。

リンが僕の方へ体ごと向けて、ニコッ♪と笑った。


 「一個も貰えないと可哀想だから。」


と学校指定の紺色のバックからピンク色の包装に黄色のリボンが付いた、小さい長方形の箱を取り出した。


 「はい!あげる。義理チョコだけどねっ。」


僕は自然と顔がゆるんでいくのが分かった。


 「おっ!サンキュー。これリンが作ったの?」


 「ブッブー!!残念でした。手作りチョコが良かった?」


 「なら安心したよ。大好きなチョコを嫌いになりたくないからな。」


 「なにそれ〜。」


 「ハッハッ、冗談だよ。ありがとな。」


正直リンから貰えるとは思ってなかったから、嬉しかったが、手作りじゃないと聞いてちょっと残念だった。


 「じゃあ私行くね。ちゃんとチョコ食べるんだよ。そこのチョコすごいおいしいんだから。」


リンとはクラス、というか校舎自体違うので、リンはすこし急いで校舎に向かって行った。


ここの学校は、少し特殊な学校で校舎が二つに分かれている。


一つはリンが向かった新校舎で、全国から頭のいい奴ばかりが来る特進クラス専用の校舎。


もう一つは僕のクラスがある旧校舎で、そこにはそこそこ勉強の出来る奴と、スポーツが出来るならどんな奴でも入学できる、という何とも心の広い教育方針の(つまり人間であれば誰でも入学できる)旧校舎の二つがある。


リンは、その特進クラスの中でも(2ー特1)クラスという、全国でもトップクラスの奴らがいるとこに入っている、エリートの一人だ。


僕はというと、運動もスケボー以外は時に出来ないし、勉強も旧校舎の中で大体真ん中ぐらいのとこだ。ようするに普通ってことだ。


僕は、リンからの思わぬプレゼントに胸を躍らせたまま教室へと向かっていった。

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