プロローグ
「くそっ、しつこい奴等だ。」
息を荒立てながら、壁にある四角いパネルに触れた。すると壁が左右に開き、中に入った途端に何もなかったかのように閉じていった。
中は白で統一された綺麗な広間で、トラックの荷台ほどの巨大スクリーンが正面に置かれており、その下におびただしい程のコンピュータのキーボードがある。
その二つはまるで巨人用のパソコンのようだ。壁際には、これまた大きな本棚が2つ、そして反対側の壁にも2つの本棚が置かれている。
その中の本は、どれも辞書のように分厚くゴツい本ばかりだ。どの本も革の立派な包装がしてある。一つの棚にその本が百冊程納まっている。
中に入ると右側の棚から本を取りだし、あるページを開き床に置いた。開いたページにはよく魔法使いなどの儀式で見かける、あのマークが描かれている。他にも色々な文字が書かれているようだ。
「えー…、蝋燭が二十本、イシダテの葉、サラマンの尻尾…」
何やら独り言を言いながら、色々な物を用意しだした。何かの儀式を始めるらしく、たまに本を見ながら、いそいそと作業を進めている。
まずは床に置いてある本の周りに二十本の蝋燭を円状に置き、その本と蝋燭の間に十種の材料?を、置いていっている。
「南西にミルクグマの爪、西にはレインフィッシュの鱗、北西には…あークソッ!!ギルビィの種がねぇ。」
いきなり大きな声を出し、部屋中の物を乱暴に引っ張り出し始めた。
その目は血走り、イライラしているのが背中を見るだけで分かる程だ。
数分ほど慌ただしく動き回っていたが、諦めたかのように立ち止まり、壁を乱暴に殴った。
「もぅこれでいい。」
そう言うとたまたま本に挟まっていた、きれいな一輪の花のシオリを拾い、一度手の中で握り潰し投げ捨てるように置いた。まだ気分が良くないらしい。
「よし、頼む。」
そう言うと自分の右手の親指を噛み切り、本の上にかざした。深緑な血が本の上に落ちていった。 すると周りの蝋燭の炎が大きく揺らめきだし、十種の材料が宙に浮き、本の周りをクルクルと旋回しだした。
「よし、成功だ。」
口元に微かに笑みを浮かべて言った。
そしてあの本のマークが急に光りだした。
その光は徐々に強くなり円柱形の光を天井へと放った。クルクルと旋回していた十種の材料も、その光に飲まれて消えていった。
「いい奴を頼むぜ。」
満足そうな笑みでそう言うと、そのまま床に倒れ込み眠ってしまった。
儀式が終わったからなのか、使われた本はバタリと閉じてしまった。
その本の表紙には
『異界への門』
とだけ書かれていた…。