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私と前世の私

私は今付き合っている男性ひとがいます。とても口下手で、でも一人で黙々と決めたことをやり遂げる、そんな男性でした。


私がその男性を知ったのは私が中学を卒業し終えて、高校のための準備をしていた時でした。私が興味半分で行った裏路地で典型的だけど不良に絡まれてしまいました。私の背の高さのせいで私が高校生に見えたと後で教えてもらった。その時私は今以上の内気でとてもオドオドしていたんだなって思う。


私が絡まれた場所は裏路地と言ってもほとんど大通りの近くだったから周りの人に助けを求めました。通りかかった人に向かって顔を向けても誰も私を助けてはくれませんでした。私でもこんな風に絡まれてる人を助けに行こうとは思わない。だって相手は6人もいる上に、その6人ともガタイが良かった。髪を茶色や赤色に染めて如何にもな不良だった。ガタイが良くて私の周りが固められ、そして顔が怖くて、とても怖かった。そしてなにより気持ち悪かった。ジロジロと私の体を舐めるように見てくることが。


気持ち悪い笑みを浮かべて私の体を触ってくる。怖くて泣きたくてでも必死に我慢しようと目を瞑った。目を瞑った私に彼らは私の耳元で語りかけてきた。


「君いい体してるね。誰の味も知らない唇。まだ触られたことのない胸。そして穢れを知らない体。いいよ、とてもいいよ!

俺はね、そんな子を俺の色に染めるのがすき好きなんだ!絶望した顔を見るのが好きなんだよ!君はどんな顔を見せてくれるかな?」


私の唇を片手で指でなぞり、もう片方の手は私の胸を触ってくる。とても気持ち悪かった。自らの軽率な行動と自分の不運を恨んでしまう。だけどどんなに恨んでもそれが変わることなんてないと思っていた。


「――助けて…誰かっ…!」


だけど私の口からそう漏れていた。小さく普通なら誰も気づけないほどの小さな呟きが。助けてと、そう口から出てしまった。これほど近くに居るのだからソイツは私の呟きを見逃すはずがなかった。顔を悦びに染めてどんどん私に迫ってきた。


「ああ、居た居た。こんな所にいたのか。色んなところ探し回っちゃったよ。

ん?俺の妹がなにかしましたか?コイツ好奇心が強くてよく居なくなるんですよ…。それにいつも心配させられるんですよ。それで妹が貴方達になにかしましたか?」


私は諦めていたんだと思う。私が私じゃなくなってしまうんだなって思ってた。だけど救いはあった。私はこの時ほど神様を信じることができた。いつもの私なら鼻で笑って一蹴するけど、この時から私は神様が存在すると信じきれるようになった。

その人は私を不良の手から引っ張って、私を守るかのように私を後ろにやってくれた。その人の背中はとてもじゃないけどこの人数相手に勝てるものじゃなかった。言っては悪いけど弱そうだった。でも何故か安心できた。


「アンタ、コイツの兄貴なのか?似てねぇーな。まあいいや。コイツがな、俺達にぶつかってな。それで持っていた缶コーヒーがかかっちまったんだよ。それで弁償でもしてもらおうかなって思ってな。」


この不良が言った通りに私は典型的だけど不良とぶつかって不良が持っていたコーヒーが不良の服にかかると言う事をしてしまった。

私は必死に謝った。だけど許してはくれなかった。かなり頭に来ていたのか、たかがコーヒーが服にかかったぐらいで、なんて思ったけど顔には出さなかった。その服は相手にとっては大事な服なのかな?


「妹の代わりに俺が弁償しますよ。なんなら俺がその服を買いましょうか?今はそんなに持ってなくてこれぐらいしかないんですよ。」


そう言ってその男性は自分の財布からお金を取り出した。彼らの位置からじゃ見えないだろうけどその男性のお財布の中に大雑把どけど十万近くは入っていたと思う。それ以上かもしれないけど。

それでその男性は5万円を取り出して彼らに見せる。それを見て彼らは笑い始めた。まるでいい金づるを見るように笑う。


「これでどうですか?これで足りますかね?これで足りないと俺が困るんですけどね。」


「足りねぇーな。全然足りねぇーよ。だからお前の財布を置けよ。お前もっと持ってんだろ?痛い目に合いたくないだろ?だからさっさと置けよ」


「うーん。痛い目に合うのは嫌だけどこれをあげちゃうと俺が困るんですよね。だから無理です。あげられる最高がこれなんですよ。」


男性が無理だと言ったことで彼らは男性を取り囲んだ。そしていきなりさっきまで男性と話していた不良が男性を殴った。

そこからはリンチだった。殴られたり蹴られたりされていた。その男性は一度も自分から殴りに行かなかった。男性が立たなくなると踏み付け出した。もちろん蹴りつけてもいた。

いきなり肩を叩かれて私は後ろを向いた。そこにいたのは2人の警察官だった。1人は男性でもう1人は女性だった。肩を叩いたのは女性のほうだった。その姿を見て私は泣いてしまった。いきなり泣き出した私にその女性警官は怖かったねってと言って私の背中を優しくさすってくれた。私が泣き止む頃には終わっていた。男性を殴る蹴るをしていた不良達は警察官にやられたのか呻きながら地面に伏していた。そして丁度よく救急車も来て男性は運ばれていった。私は事情聴取をすると言われて警察署に連れていかれた。長くかかるかなって思っていたけど実にあっさりと終わってしまった。これで大丈夫なのかな?って思っていたら私の背中をさすってくれた女性警官が教えてくれた。


「貴女を助けてくれた男性が貴女を助ける前に私達に電話をしてきたのよ。場所だけ伝えて後は電話を切りもせずに貴女を助けに言ったのよ?バカみたいって思うでしょ?だけどそのおかげで貴女を助けられたし、彼らを捕まえることができたんだよ。

ああ、それと電話してきた男性から貴女に伝言があったのよね。

『早くに助けられなくて怖い思いをさせちゃってごめん。もっと早く助けたかったんだけど警察が動くための物が欲しかったんだ。本当にごめん。』だって。凄いよね、彼。

まあ、私からの話はこれで終わりだから。親御さんを呼んであるから気をつけて帰るんだよー。」


私はそれを聞いて顔が赤くなるのを感じることができた。だからあの女性警官は話を切ってくれたんだと思う。その代わりとても顔がにやけていたけど。自分で顔を触って確かめてみる。確かに熱かった。まだ夏は先な筈なのに私の顔はとても熱かった。だけどそれは何だか心地良かった。そして不思議なほど冷静になれた。だから素直になれた。「ああ、自分はあの人の事が好きなんだな」って思えるようになった。吊り橋効果って誰もがいうかもしれない。だけどそれでもいいじゃないか。好きになってしまったんだもん。好きになる過程なんか関係ないんだ。好きだと感じられる今が大事なんだと思う。

私はお父さんとお母さんのところへと向かっていく。もう顔は赤くはなかった。お父さんは怒っていた。お母さんは泣いていた。なんであんな所に行ったんだと怒られた。あんな場所には行かないでと泣きながら言われた。私も一緒になって泣いていた。お父さん達に会えて本当に安心できたんだと思う。女性警官の胸で泣いた時よりも大きな声をあげて泣いていた。


次の日に私は私を助けてくれた男性の病院にお見舞いに行った。昨日の内に名前は聞いてあったから受付で名前を言いどこの病室か教えてもらった。私がその病室に着くとその男性は1人だった。1人部屋らしく病室には誰一人としていなかった。その男性は私が来たことに気付いたのか窓から外を眺めていた目を私に向けた。


「ああ、君か。怪我はしてない?俺としてはもっと早くに助けたかったんだけどアイツらを確実に捕まえさせたかったんだよね。だから早くに助けられなくてごめんなさい。」


「そ、そんな。気にしないでください。私があんな所にいたから起きた事ですし。助けてもらったのに謝られると困ります。むしろ私が謝らなくちゃいけないです。本当にありがとうございました。神崎さんが助けてくれなきゃ私どんな事されてたか分からなかったです。本当にありがとうございました。」


キョトンと私の事を見ていた神崎さんはぷっと笑い出した。おかしかったのかとても面白そうに笑っていた。私もそれに釣られるように笑い始めた。最初は小さく笑っていたけどどんどん大きくなっていった。そしたら「周りに迷惑です!」と看護婦さんに言われてしまった。それでまた笑って怒られるのは別の話。


「怪我のことは気にしないでね。実はそんな大した怪我じゃないんだ。だけどかなりやられたからって事で様子見で入院してるだけですぐに退院できるみたいだから。だから安心してね。」


私は少し神崎さんと話した後帰ろうと思い病室を出ようとした。そこでばったり会ってしまった。その女性はとても綺麗だった。女である私から見ても羨ましいと思うプロモーションだった。手足は細いし出てるところは出てるし引っ込むところは引っ込んでいて。私なんかと比べるのがおこがましいけどとてつもない美人でした。その人は神崎さんの病室に入るなり神崎さんに抱きつきました。一瞬何が起こってるのか分かりませんでした。


「くろ君、お見舞いに来たよ!私が精いっぱい看病してあげるから、安心してね!」


「看病はしなくてもいいよ、由奈。どうせ明日ぐらいには退院なんだし。それよりも抱きつきはやめてくれない?恥ずかしいし。」


「ところでさっきからそこにいる女の子は誰?」


ようやく私に気づいてくれたのか神崎さんに私のことを聞く女性。神崎さんの言葉から女性の名前は由奈さんとわかった。

由奈さんは神崎さんから私のことを聞いたのか抱きしめてくれた。そして私の頭を撫で始めた。ちょっと恥ずかしかったけど何か安心できた。


「怖かったよね。でももう安心してね。貴女を襲ってきた人達はもういないからね。」


そう言ってくれるのは嬉しいのだけど、「よしよし、良い子良い子」って言って撫でるのだけはやめて欲しかった。私はそこまで子どもでもないです。


その後も由奈さんに捕まって帰れず、結局4時までいることになりました。本当は12時には帰ろうと思ってたのに…。でも良い事も聞けたからそれで良しとしました。神崎と由奈さんは幼馴染みで私の1つ上の先輩でしたが高校は違うみたいでした。残念だと思ってしまうのは仕方がないことですよね。


それからの私は一生懸命自分を磨きつづけました。由奈さんは神崎さんの事が好きで神崎さんもまた由奈さんの事が好きなんだと気づいたからです。少しでもいいから神崎さんに見えもらいたくて振り向いて欲しくて、とかなり不純な理由でしたけど。歩き方や話し方等色々やりました。胸を大きくしようと頑張ったけどそこまで大きくなりませんでした…。髪も由奈さんに合わせるようにロングにしました。手入れが大変ですけど見てもらうために頑張りました。スポーツも出来なければと思いテニスを始めました。最初はまともに打つことも出来なくて泣きそうになったりしたけどその内ちゃんと打てるようになって泣きました。その当たりから色々な男子から告白され始めました。でも私には好きな人がいるので丁重に断り続けました。これが全部1年の間にあったのがビックリです。

2年では兼部をして茶道部に入りました。もっともっと自分を磨くためでした。最初は正座をするだけで足がしびれてお茶どころではなかったです。2~3ヶ月にはまともにお茶を点てる事ができるようになりました。この頃には足のしびれは感じなくなってきました。そして茶道部と一緒にもう1つの部活にも兼部しました。やはりここは料理だと思ったので料理部に入りました。最初はやっぱり包丁を持つことさえ危なっかしくて、持つことを禁止されました。お母さんに教えてもらったりして何とか1ヶ月ぐらいでまともに持てるようになった。そこからは自分で言うのもなんだけど上手くなれたと思う。自分の料理のレパートリーも増やしたし得意料理も出来た。お父さんに何で急に料理をし出したのか聞かれたけど恥ずかしかったから黙っていたら泣かれてしまった。

3年の頃には1年から続けてきた勉強が実を結び始めた。誰しもが遅いと言うかもしれませんが私には早いくらいです。私はそこまで容量が良くないですから。その頃にはようやく学年で10位以内に入ることができました。なってみて気付いたんですが順位をキープするのは大変でした…。


そして私は高校を卒業した。実に充実した3年間だった。私の夢に1歩でも前に進むことができたと思う。


私が大学へと入ると神崎さんに逢うことが出来ました。でもそれは本当に神崎さん?と疑うような男性でした。何と言えばいいか解らないけど目に色を映していないと言えばいいのでしょうか、まるで死んだように生きる人間、そんな人間ひとになっていました。私が神崎さんに話しかけても返ってくるのは無言だけでした。いや、それよりもキツい無視でした。私のことなんか目に入ってないそんな感じで泣きました。

私はどうして神崎さんがこうなったのか知ろうと思い色々な人に聞いてまわった。聞いてまわった結果理由は簡単なものだった。由奈さんに付きまとうストーカーのような人だと、付き合ってもいないのに自分の女扱いをしてさらに嫌われてたと噂されていた。

おかしかった。2人ともあんなにもお互いのことを好きだったのに。あれは何だったの?色々な事が浮かび上がったけど、結局は1つの想いに結びついた。それは神崎さんを助けなきゃと。あんな顔をさせたくない、して欲しくないと。私の勝手だけど私を助けてくれた神崎さんを今度は私が助けなきゃと、そう強く想った。そこからは簡単だった。神崎さんが入っているサークルに入り神崎さんと話し続けた。やっぱり私のことを忘れていたみたいだったから私はそれを隠して、先輩と呼び方を変えた。先輩に元に戻って欲しくて何度も何度も話しかけた。最初はなんの反応も示してくれなかった先輩も2ヶ月経ったくらいから反応してくれるようになった。最初は一言二言だったけど6ヶ月経つと会話も成立し始めた。たわいもない話だったけど笑うようになった。だから聞いた。聞くか迷ったけど聞いた。


「先輩は本当にこれでいいんですか?」


色々ないけど私は先輩にこの嘘な噂をそのままにしていいんですか?と聞いてしまった。先輩は何も悪いことをしていないのに噂させていいんですか?と。すると先輩から何かが足りない苦笑いが返ってきた。


「仕方ないよ、俺がいけないんだから。」


「………先輩はいけなくなんかないです。」


その微笑みをやめてもらいたくて私は言いたいことをやめた。


それから2ヶ月後の2月14日に私は先輩から告白された。


「こんな俺だけど付き合ってください!」


とても嬉しかった。私は先輩のことが好きだけど先輩はやっぱり由奈さんが好きなんだと、私じゃ由奈さんを超えることは出来ないんだと思っていたから。何度も泣いてきたけど今回の涙は嬉し涙だった。


「嬉しいです♪」


その日から私と先輩は付き合うことになった。付き合うんだからと先輩の呼び方を黒夜さんに変えてみた。最初はビックリしてたけど笑っていいよと言ってもらえた。今日はいい夢が見れそう。


それからの毎日はとても輝いたものでした。大好きな黒夜さんの隣りに居れて、まだ付き合って間もないからお互いに敏感になって。どれもが私のドキドキに繋がるんです。でもそれが嫌だとかそういうのじゃなくてむしろ心地よくて私は本当に黒夜さんの事が好きなんだなぁって教えてくれる、そんな気持ちにさせちゃうんです。

そうそう、私の初キスは付き合って1ヶ月後でした。ベタですけど大学の校舎の屋上で星空を観ながらしました。がつがつしている女だと黒夜さんに思われただろうな。だって私から先輩を誘ったんだもの。黒夜さんはいい雰囲気になっても自分から決して手を出しませんでした。それはそれで素晴らしいと思うのだけど彼女としては不満でした。だから私から黒夜さんを誘ったのです。

最初はお互いの唇と唇がギリギリ触るかって程度のキスでした。それから間髪入れずに今度は黒夜さんからキスをしてきました。今度は先程とは比べ物にならないほどの深いキスでかなりびっくりしちゃいました。ちょっと怖くなってきたので離れようとしたら無理矢理私の頭の後ろを固定して黒夜さんは続けました。黒夜さんは私の舌を自分の舌に絡めさせようとしたのか私の中に舌を侵入させてきたので急いで歯を閉じたのですが1本1本歯を舐め始めました。何故だかそれはゾクゾクと体の中を走り快感を私に与えてきました。私はそれに耐えきれずについに舌の侵入を許してしまい舌を絡められてしまいました。黒夜さんの唾液が私の口の中でいっぱいになり、私は飲んでしまいました。カーっとあそこが熱くなって疼き出して焦りました。黒夜さんを見るだけで全身が熱くなって黒夜さんが欲しくなり始めました。


「…おい、お前らいい加減にしろよ。ここにはお前らだけじゃなくて俺らも居ることを忘れんなよ。

イチャイチャしやがって。これは俺らに対する当てつけか、おい。ふざけんなよ。マジで死ね、黒夜っ!」


忘れてましたけど私達の他にも部員が居たので2人っきりではなかったです。ロマンもクソもないでした。それと私達の事を見ていた男子は急に猫背になってあそこの辺りを必死に抑えてました。女子は私達のキスを見てキャーキャー黄色い悲鳴をあげてました。とても恥ずかしくなって逃げるように家に帰って布団に閉じこもりました。言うまでもなく私は数日ほど大学を休み、2週間ほどサークルに顔を出さなくなりました。

それからというものちゃんと誰もいないか見てないかを確かめてからするようにしました。


半年が過ぎた頃黒夜さんの前に白崎しらさき先輩が現れ始めたみたいだ。何でみたいなのかと言うと私が居ないときに現れるらしく目的は復縁だと黒夜さんから聞いた。何で今になってそんな話をしてくるんだろうと私は思った。あっちから振っておいてもう1度やり直そうなんて頭がおかしいとしか思えなかった。案の定黒夜さんはそれを蹴ったんだし。でも話を聞いていくとしつこく言ってきてるみたいだ。今日も迫られたみたいだ。うんざりした顔をしながら私に話してくれた。

それから1~2ヶ月程経つと今度は私の方にも現れ始めた。前に会った時は綺麗だと思った容姿も今は何か怖かった。


「私のくろ君に近付かないで。私だけのくろ君なの。貴女なんかにはくろ君は合わないのよ。くろ君は私としか合わないの。だって私とくろ君は結ばれるべきなのだから。だから別れなさい。今すぐ別れなさいっ!」


「由奈さん、貴女は自分から別れ話を持ち出して、黒夜さんを振ったんですよね。それで黒夜さんを散々傷つけておいて今さらになってもう1度付き合いたい?ふざけないで下さいよ。由奈さん、貴女に黒夜さんと付き合える資格なんてものはもうないんですよ!1歩間違えれば黒夜さんは自殺していたかもしれないんですよ!

私は絶対に別れたりなんかしません!だって私は黒夜さんの事を愛してますから。この気持ちはどんな事があろうと変わりません。

由奈さん、自分でやった事に後悔するのは構いません。だけど後悔しても戻らないことだってあることを知りなさいっ。」


失礼します。と言って私は由奈さんから離れる。後ろから絶叫が聞こえてくるが私は黒夜さんが待っている部室へと向かっていく。

私は由奈さんに憧れていた。その髪、その容姿、そのスタイル、その性格。何もかもが私の理想だった。だから私は憧れた。それなのに私が憧れた由奈さんは見る影もなかった。前に会った時よりも綺麗になっていた。出てるところは出てて引っ込むところは引っ込んでいて理想の体。でも昔と比べて今は憐れみしか感じることができなかった。憐れな人だな、ああはなりたくないな、としか由奈さんを思えなくなって何だか悲しくなった。1度の失敗でああなるんだと深く心に刻んだ。


それからも何度か私のところにやってきたがまともに取り合わず、由奈さんを憐れみ続けた。だから気付けなかった。どんどん追い詰められていった由奈さんに。


2月13日、いつものように由奈さんに私は絡まれていた。その日だけは何かが違っていた。いつものようにまともに取り合わないようにしてたのに内容は思い出せないが確かとても小さな事だったと思う。多分私のスタイルのことを馬鹿にしてこれじゃ黒夜さんが満足できないって事を言われたんだろうと思う。つい私はそれに言い返してしまった。


「黒夜さんは満足してくれてます!最初は黒夜さんにご迷惑をかけちゃいましたけど今は満足してくれてます!

明日も映画館で映画を見たあとに黒夜さんのお家でご飯を食べたりするんですっ」


私がそれを言うと突然由奈さんは顔を伏せ静かになりました。手を強く握っているのか若干腕が震えていました。そのまま由奈さんはフラフラとおぼつかない足取りでどこかへと行ってしまった。不思議に思ったけど絡まれるのが短く済んだ事で舞い上がってしまって記憶の片隅に追いやられてしまっていた。


「早くしないと、もう約束の時間過ぎちゃってる。いつもよりも早く家を出たかったのに準備で思いのほか時間を使っちゃったせいね…。黒夜さん、怒こってるだろうなぁ。家出るときに遅れるって電話はしたけど、30分も過ぎるのは流石に駄目だなぁ。」


メイクやらしていたせいで私は家を出るのが遅れて遅刻してしまっていた。映画まで時間はあるけど、その前にウィンドウショッピングとかしようって事だったけど見れる時間が少なくなってしまった。

待ち合わせ場所の近くで人溜まりが出来ていた。所々から聞こえてくる野次馬の声を聞いてみると、何やらここで男性が女性に刺されて男性は重症、女性は男性の後を追うように自分を刺したらしい、と聞くことができた。男性と女性の詳しい情報はなかったけど私はすぐ近くにある待ち合わせ場所へと向かっていった。そこも人溜まりが出来ていて、この中から黒夜さんを探すのは大変だなと思いながら探していく。結論から言うと黒夜さんはすぐに見つかった。野次馬の中心で血を流して倒れていた。そして黒夜さんの上に覆い被さる女性は由奈さんだった。何かの間違えだと思った。だけど何度見ても倒れているのは黒夜さんと由奈さんだった。ボトッ、私が持っていたバックが落ちた音だった。何が何なのか分からなくなった。何で倒れてるのが黒夜さんなのか。何で血を流してるのか。


「――ぃゃ、いやー!!」


私は邪魔な障害物を退かしながら黒夜さんの所にたどり着いた。なんとかまだ生きてるのか微かにだけど胸が上下に動いていた。まだ助かるかもしれない。その思いが私を突き動かした。


「誰か救急車を呼んで!早く!

助けるから。絶対に助けるからっ!」


誰かが呼んだのだろう音が聞こえ始めた。音が大きくなってついに救急車は来た。2人を救急車の中に運んでいった。私は黒夜さんの乗る救急車に乗り込んだ。かなりの血が流れたのか顔は真っ青だった。救急車の中で色々聞かれたけど、なんて答えたか覚えてない。近くの大きな病院に搬送され手術室に運ばれていった。私はその前でただ祈ることしか出来なかった。黒夜さん達の親が来た。事情はある程度聞いているのか私に聞いてこなかった。必死に祈り続けた。止められたけどそれでも私は何時間も祈り続けた。それでも現実は残酷だった。手術中のランプが消え中から医者達が出てきた。私達は近付きどうだったのか聞いたが彼らはとても言いにくそうにしていた。それでも意を決して告げた。


「私達も死力を尽くしたのですが、神崎黒夜さんを助けることが出来ませんでしたっ。申し訳ありませんでした。」


それから先はあんまり覚えてない。黒夜さんのお父さん達が何か言っていたが覚えてない。気付くといつの間にかお葬式が終わっていた。聞いたところによると私は黒夜さんが死んだと聞かされた瞬間医者に掴みかかって、それをナースと黒夜さんのお母さんが止めてくれたらしい。その後は魂が抜けたように床に座り込んで泣いたようだ。黒夜さんが亡くなったと同じ頃に由奈さんも助からなかったそうだ。由奈さんに対して私は何で死んだの?という事しか浮かんでこなかった。由奈さんが生きていれば彼女に当たることが出来たのに彼女も死んでしまったことで私は誰も責めることができなかった。黒夜さんが亡くなったことと由奈さんが亡くなったことによって脳がストップをかけたんだと思う。私自身を守るために記憶することを拒んだと聞かされた。


私は今黒夜さんの仏壇の前にいる。もう目から涙は流れてこなくなった。あれからもう1年も経った。私の世界は色褪せていた。私を慰めようと色んな人が来たけど私の色は元に戻らなかった。この1年で私はある事を決心していた。2度と色が戻らぬ世界にいても、黒夜さんがいない世界にいても意味がないんだと。今日は2月14日。私と黒夜さんが付き合って3年が過ぎた。そして黒夜さんが死んで1年経った。そして今日は私が死ぬ日になる。この日のために私は何度も何度も黒夜さんのお家に行って黒夜さんの仏壇を譲ってくれるように頼み込んだ。何度も断られたけどついに譲ってもらうことができた。私が死ぬ場所は黒夜さんの前でと前から決めていたんだ。


「あれから1年も経つんですよ、黒夜さん。貴方が死んでから私は死んだように生きていたんです。でも今日ようやく私は貴方の元に行けます。」


私は包丁を自分の胸に向ける。首でも良かったけど、でも黒夜さんと同じように死にたかったから胸にした。

怖い、とても怖い。今さらになって恐怖が私を包み込んできた。震える手にもう片方の手を被せて強く握る。それでも震えは止まらなかった。今離すと私は自殺できないだろう。こんなににも死ぬのは恐ろしいのか。

私が震えているとふとある物を触れた。それは何でもないネックレス。黒夜さんが私の誕生日に買ってくれたネックレスだった。

逢いたい、話したい、抱きしめられたい、そんな事を思ってしまう。もうこの世界にはいないのに。何でだろうか。目が良く見えない。私は押さえていた手を顔に近付けた。本当は分かっていた。でも認めたくはなかった。触れた手は濡れていた。私は泣いていた。この1年間一度も泣けなかった私は今日泣いていた。ううん、泣けなかったんじゃない、泣かないようにしていた。泣くと黒夜さんが死んだことを認めてしまうようで嫌だったから。でも泣いてしまった。黒夜さんが亡くなったことを認めてしまった。表面では認めていても心は認めてなかった。でも今日心もついに認めてしまった。


「――逢いたいよ、黒夜さんっ。何で私を残して死んじゃったの?こんなにも残酷な世界を私1人じゃ生けていけないよ。いつものように抱きしめて欲しいよぉ。」


どれぐらい経ったのか分からない。30分かもしれないし1時間かもしれない。もしかすると3時間かもしれない。私はひたすら泣いていた。泣くのに疲れるのは初めての経験だった。でもようやく決心できた。私は包丁をしっかりと持ち勢いよく私の胸に向かって突き刺した。痛い、とても痛いよ。包丁で自分を刺すのはほとんどの人がやった事はないだろうけどとても痛い。突き刺した包丁を今度は引き抜く。引き抜くと体に力が入らなくなった。まるで力が外へと出ていくように。でもまだ意識は残っていた。かなりの血が体から出ていってる。こんなににも人間って血が出せるんだなって思うほど出てた。たった1回でこれなのに死なないの?なら次は。私はお腹に向かって刺した。さっきよりは威力がなく根元まで入らなかったけどかなり刺せたと思う。これのおかげなのか意識が朦朧としてきた。黒夜さんの下へと向かおうとしたけど足がうまく動かすことが出来なくなっていた。仕方ないので這って黒夜さんの下へと向かった。

時間がかかってしまったけどたどり着く事ができた。私は黒夜さんの写真を何とか取って抱きしめた。


「もし、来世があるのなら、今度こそ、一緒、なりましょうね。絶対、に私は見つけ、出しますから。だから、黒夜さんも…私の、事を見つけて、くださいね?

愛、してます、黒夜さん。」


私は抱きしめていた写真を顔の前に出して写真の黒夜さんにキスをした。そのあと私は意識を手放した。


数日後に志乃は発見された。近所から酷い異臭がすると警察に連絡が入り固まった血の上にいる志乃を発見した。まるで笑っているようだったと発見した警官は語っていた。




私の前世はとても悲しい最後だった。愛する人を殺されて恨むべき相手も死んでしまってどこにそれをやればいいのか分からなかったんだろう。


ねぇ、前世の私。私も貴女と同じようになるかもしれないわ。これも運命なのかもしれないわね。貴女はこの選択したのを後悔してる?私はきっと後悔しないわ。あの人が死ぬなら私も一緒に死にたいの。


『後悔はしてないわ。後にも先にも考えたけどやっぱり私は後悔してない。黒夜さんがいなくなった世界で生きるのは私にとって苦痛でしかなったの。こんな事を言うのもあれだけど今世の私にはこんな事をして欲しくなかったけどそうなら仕方ないね。頑張ってね。』


ありがとうって心の中で言いながら私はあの人、兄さんの下へと向かう。待っていてね、兄さん。

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それでは

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