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承 4

「奴等が!?どこだ!」


 来るとは予想していたが、いざ来ることがわかると緊張感が一気に高まっていく。


「前方のほうからセンサーに反応が出ました。見晴らしがいい場所なので私にはもう見えていますが、廻さんの目だともうすぐ、目視が出来るはずです」


「数はどれくらいなんだ?昨日より多くなってるんだろ?」

「センサーの反応を見る限り、既に百を超えています。更にセンサーの感知圏内に入ってくる数は増え続けています。そして、目視で非人型の個体が多数確認できます。人がいない場所ですから遠慮なく戦闘に向いた個体を投入してきたようです」

「人がいない場所だからってどういうことだよ!?」

「何度も言いましたが、彼等は歴史を正しく進めることが行動原理です。人型以外の個体が人気のある場所に現れて騒ぎになれば、彼ら自身の存在によって歴史が歪んでしまいます。ですので、人気のある場所では人型の個体が主に活動するということがわかっています」

「な!?それじゃあ、俺の行動は裏目に出たってことか!そういうことは言っておいてくれよ!」

「すみません。非人型が人気のある場所では出にくいと廻さんが理解していてくださっていると思っていましたので。私のミスです」


 それでさっき、疑問に思っていたのか。


「まずは彼らを隔離します。亜空間展開装置、起動(リンク)。・・・・・・『虚数空間(イマジナリースペース)』開きます」



 キィィィィィィン



 甲高い音が聞こえたかと思うと、一瞬の違和感の後に世界が黒く染まった。


「何だ!?」

「『虚数空間(イマジナリースペース)』に任意の対象、私達と敵を移しました。この中でならどれだけ暴れても現実に影響を及ぼすことはありません。元々、無関係な人を巻き込まないように街中で襲われたときに私達と敵だけをこの空間に移して戦闘するつもりでした」

「ほんとに俺の考えは無駄だったんだな。すまなかった」

「いえ、私の説明不足でした。そろそろ、廻さんにも目視できる範囲内に奴等がきます。危ないですから私の前には出ないで下さい」

「わかった」


 彼女の後ろに隠れながらも前を見ていると段々と敵の姿が見えてきた。


「あんなにいるのかよっ」


 遠目からでもわかるほどの大軍勢。黒い壁が迫ってくるようなその光景に戦慄が走る。


 しかも、徐々にその姿もはっきりしてくると、その異形の軍勢の姿に更なる恐怖が俺を襲う。


 敵は昨日のような人型を見つけるほうが難しく、多くが見たこともない獣だったり、腕が異常に多いもの、四肢のバランスがおかしいもの、捻じ曲がった翼をもつもの、巨大なものなどなど常識ではありえない姿であり、そのどれもが一斉に空と大地を埋め尽くしながら俺たちに向かって進んできている。


「総数五百四十三体と確認。その大半がやはり異形ですね」

「ごひゃ―――っ!?本当に大丈夫なのか!」

「先程も言いましたが、シミュレーション上は千体以上の敵と交戦しても私は勝利できるというデータがあります。開口(オープン)


 雨潟さんの左右の空間に彼女と同じ大きさ程の歪みが発生し、穴が開く。

 それぞれの穴の中心に手を突っ込み、穴から引き出された『ソレ』を見て


「は・・・・・・?」


 こんな状況でありながらもそんな間の抜けた声が出てしまった。

 それぞれを片手で持つためなのか、『ソレ』の横からそれぞれ伸びているグリップとその機能を発揮するためのトリガー。彼女の身長を優に超える全長を持ち、その太さも俺の胴よりも太いと思われる白い本体。そして、先端から伸びているのは円状に配置された十の筒。


起動(リンク)


 『ソレ』は内部から青い光を放ちながら、作動音を鳴り響かせる。

 どんどん音を大きくしていき、そのトリガーが引かれるのを待つ。


「『乱れ葉』正常に稼動」


 両手の『ソレ』を前に向け、先端の十の筒が二つ、計二十の筒、砲身が迫り来る敵の軍勢に向けられる。


「いきます」


 両手のトリガーが引かれ、二つの『ソレ』、巨大なガトリング砲がその威力を発揮した。


 ドォォォォォォ!!


 ガトリング砲『乱れ葉』が作業音を一際、大きくするとほぼ同時に超高速で連続して砲身から青い光の弾を放出する。


 連続するのが早すぎて一つの轟音が延々と続いているような錯覚に陥る。


 その巨大な砲身と大きな轟音に見合うだけ威力を見事に発揮し、先程までは前方に敵の軍勢による黒い壁で一杯だったのだが、今度は砲身から射出された青い光で一杯になっていた。


 光の弾の群れは敵を蜂の巣にし、どんどん敵を駆逐していく。


 雨潟さんはその巨大な砲身を操り、一箇所だけに狙いを定めずにこちらに突出してきた集団を集中的に叩いていた。


 その様子を見て、このガトリング砲の威力にも驚かされるが、その巨大な砲身をそれぞれ片手で軽々と操る雨潟さんの力にも驚かされた。


 しかし、確かにガトリング砲の威力は凄まじいが、相手は物量に物を言わせて徐々にこちらに接近をしてきて、やがてそのうち一体が飛び出してきた。


「雨潟さん!」

「はっ!」


 俺が彼女のピンチだと思い、声をあげるが、彼女は上空の敵に向けていた左のガトリング砲を飛び出してきた敵の頭上に叩きつけた。


 ズドン!


 大きな音をたて、砲身とともにその敵の頭部が地面にめり込まされた。


 彼女はそんなことに構わずに叩きつけた砲身をすぐに敵に向けなおして、敵を掃射していく。


「・・・・・・」


 砲身を叩きつけた結果、陥没した地面と見事にペシャンコになっている敵の頭部を見て、その怪力ぶりに閉口してしまう。


 間違っても彼女を怒らせないようにしようと思っていると


「重力場制御、起動(リンク)っ、開口(オープン)!廻さん!」

「うおっ!」


 突如、青い光を纏った雨潟さんは左手のガトリングを空間に開いた穴に放り込むと俺を左手で抱え、空高く跳躍した。


 右手のガトリング砲で進行方向の敵を撃ち払い、その穴を抜けて暗い空に飛びだした。


「しっかり私に掴まっていてください」


 空中で不自然に静止すると


「『乱れ葉』、散開(フライ)


 彼女の右手のガトリング砲がそれぞれ先端に銃身をつけた十の棒状の端末に別れ、銃身とは逆の先端から青い光を放出しながらバラバラに飛んでいく。


 飛んでいった端末はそれぞれの銃身から青い光の弾を打ち出し、連射力や威力は一つだったときよりも弱くなっているが、空間を駆け巡り、様々な角度から弾を放つそれは確実に敵を仕留めていっていた。


開口(オープン)


 右手に残ったグリップ部と本体の一部を穴に放り込み、新たな武器を引っ張り出す。


 今度はライフルを二周りほど大きくした白い銃であり、取り出す。


「『貫葉』起動(リンク)。―――正常に稼動。いきます」


 近づいてきた敵に素早く狙いを定めて引き金を引く。


 銃口から放たれた青いビームが敵の頭部を見事に吹き飛ばし、墜落していく。


 空中の敵を優先的に狙い、次々と敵を打ち落としていきながら、対処しきれずに近づいてきた敵はライフル『貫葉』で殴打してその怪力で叩き落していく。


 そうして雨潟さんが戦っている間も青い軌跡を残し辺りを飛び回る端末達は次々と空中の敵を打ち落とす。


 地上にいる敵からは遠距離攻撃が可能なものは体の一部、触手のようなものを伸ばしたり、火を吹いてきたり、何かを投げたりして空に向かって攻撃をしているが、空にいる俺達までの距離が遠く、悠々回避できる。


「うぷ」


 しかし、俺は空中で振り回されたことで悲鳴はかみ殺したが、吐き気が段々と込み上げてきた。


「我慢してください。もう少しですから」


 言いながらもライフルから青いビームを次々と放ち、敵を打ち落としていく。


「っていうか、さっきから何で飛んでるんだよ?」

「重力の強さや方向を制御することで重力を小さくし空に軽々と飛び上がったり、空中で重力を零にすることで浮遊し、下とは別の方向から重力が加わるようにすることで飛行を可能にしているんです」


 ほんとに何でもありだな、未来の科学。


「空の敵は掃討できましたね、開口(オープン)


 ライフルを穴に放り込み、また別の武器を右手でつかみ出す。


 大きさはガトリング砲『乱れ葉』と同じくらいの大きさ。しかし、グリップは下側につき、十の銃身ではなく、大きな砲門が一つ。


「『落ち葉』起動(リンク)


 肩に砲身を乗せ、地上から攻撃してきている敵に『落ち葉』、バズーカの砲口を向ける。


「正常に稼動。―――いきます」


 ドォン!


 青い光の砲弾が発射され、地表にいる敵にぶつかると砲弾が爆発した。


 青い爆発は周りの敵を巻き込んで被害を撒き散らす。


 連射性は今までの銃器の中で一番劣っているが、一発の威力は最も高い。


 地上から攻撃をかわしながら順次、砲弾を落として敵を吹き飛ばしていく。


 更には、未だに飛び回っている端末達も少しずつ敵を撃退している。


 始めは限りなく多かった敵の集団はすでにかなり少なくなってしまった。


「残りは一気に片付けます」


 雨潟さんは更に上空に上がり、敵の攻撃が更に届きにくくさせると砲身を下に向けた。


「『落ち葉』充填(チャージ)


 砲口から青い光が溢れ、それはどんどん大きくなっていく。


 この間、下から攻撃がきてはいたのだが、端末達に迎撃される。


「五十・・・・・・六十・・・・・・七十・・・・・・八十」


 砲身からは溜められたエネルギーがギュオンギュオンと音を立てて、今か今かと解放されるときを待っている。


「九十・・・・・・百。エネルギー充填完了。廻さん、強い衝撃がきますので注意してください」

「言われなくても」


 エネルギーを充填させている様子を見れば、今まで以上のとんでもない砲撃を放つのは簡単に予想できたのでしっかりとしがみつく。


「『落ち葉』開放(ファイヤ)!」


 俺たちと地上の間で敵の攻撃を迎撃していた端末達が退避すると、砲身に溜められたエネルギーが開放される。



 ズドォォォォォォン!




 砲口から砲口以上の直径の青いビームが発射され、それが大地に突き刺さる。


「ふっ!」


 雨潟さんはそのまま砲口をずらすことでビームで地表を薙ぎ払った。


「うぉぉぉぉ!」


 俺はその間、砲撃の凄まじい反動によって吹き飛ばされそうになるのを彼女に強く抱きついて防いでいた。


 砲撃が終わり、衝撃がこなくなって俺が一息ついていると


「敵性勢力の全滅を確認。掃討完了」

「掃討完了?もう全部倒したのか!?」


 ゆっくり降下していく中で下を見て、そのあまりの高さにびびるがそれでも本当にあの大群を撃退することが出来たのか確かめたくて地表に視線を向ける。


 最初のうちは砲撃のせいで舞い上がった砂埃のせいで地表は見えなかったが、徐々に晴れてきて地表が見えるようになるとその光景に空を振り回されたことで湧き上がってきた吐き気も吹き飛び、呆然とするしかなかった。


「おいおい、マジかよ・・・・・・」


 地表は砲撃によって穴だらけになっている上に最後の砲撃で大地を深く大きく抉ったらしく、巨大な傷跡を残し、控えめに言ってもまるで戦場の跡のような状態になっていた。


 俺が呆然としているうちに地面までの下降が終わってしまった。


「重力場制御、解除(ダウン)。廻さん、立てますか?」

「あ、ああ。大丈夫だ」


 纏っていた青い光を霧散させた雨潟さんから離れ、自分の足で大地に立ち、改めて周りを見渡すとここが先程まで何の変哲もない田園だった名残などほぼ見られないほどに荒れ果てていた。


開口(オープン)


 その傍らで雨潟さんは穴を開くと右肩に担いでいたバズーカをその中にしまい、飛んでいた端末達が穴の中に自分で入っていく。


「では、通常空間に帰還します。―――亜空間展開装置、解除(ダウン)



 キィィィィィィン



 『虚数空間(イマジナリースペース)』が展開されたときと同じ甲高い音が聞こえたかと思うと、一瞬の違和感の後に目の前の景色が一変する。


「・・・・・・すげぇな」


 『虚数空間(イマジナリースペース)』を展開したときは空を含め周りが暗くなったぐらいの変化しかなかったが、逆に戻ってきたときだとこの技術の凄さがよくわかる。


 先程まで見るも無残に変わり果ててしまった辺りの風景は、元の夕日に照らされたのどかな田園風景へと元通りになっていた。


「『調整者(リバーサー)』がやってくるのは一日に一度だけなので、今日はもう襲撃はないと安心しても大丈夫でしょう」

「一日に一度?そんなこと、初耳だぞ?」

「昨日は話す前に説明を打ち切ってしまいましたし、今日はそれを話す流れになっていなかったので、まだ廻さんには言ってませんでした」


 だったら、昨日、言ってくれよ。と思わないでもなかったが、昨日の俺にそこまでの余裕があるかと言われれば、ないだろう。


「にしても、一日に一度しかこれない上に、奴等がこっちにいれるのは夕方から夜までなんだろ?ほんとに訳のわからない連中だな」

「何かしらの理由があるのだとは思われていますが、そこまでは解明されていません」


 服についている埃を払いながら雨潟さんが俺のふとした疑問に答える。


 全く、傷を負っていない上に息切れもしていない様子の彼女はとても先程まで恐ろしい火器を使って、一人軍隊(ワンマンアーミー)が如く暴れまわっていたとは思えない。


 それに比べて、ただ彼女に捕まり護られていただけの俺の顔は見事に青ざめていて、強張っていることだろう。


 それを情けないとは俺は思わない。むしろ、口を普通にきけていることを褒めたいぐらいだ。


「帰りましょうか。廻さんもあんな戦場にいて疲れているようですし」

「ああ」


 何事もなかったかのように微笑む彼女。


 その実、恐ろしいほど強力な火器や怪力を有しているわけだが、俺は恐ろしいという感情よりも頼もしいという感情のほうが大きかった。


 何てたって、この彼女が俺のことを護ってくれるって言うんだから、並大抵のことでは俺が死ぬという事態には陥らないだろう。


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