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起 4

「・・・・・・知らない天井だ。・・・・・・いや、知っているような?」


 目が覚めた俺は何となく言わねばならないような気がして言葉を発してみたが、微妙に知っているような気がして首を傾げた。


「お目覚めになりましたか?」


 声が聞こえたほうに視線を向けると、微笑を浮かべた女性がこちらを見ていた。


「あ~。えっと、海潟さん?」

「はい」


 寝起きのせいか、どうも頭の回転が遅く、彼女の名前を思い出すのにも少しの間が空いた。


 そして、ゆっくりと回り始めた頭で俺がベッドで寝ていて、彼女がそれを見ているといった状態に気付き、慌てて身を起こした。


「いつっ!」


 慌てて身を起こすと体、特に脇腹から痛みを感じ、顔をしかめながら痛む場所を押さえる。


「治療はしましたが、まだ傷に響きますから安静にしていてください」

「傷?いったい何の―――っ!」


 傷という言葉に何でそんなものを負っているのか一瞬、疑問に思ったが、俺が倒れる前に何があったかを思い出し、辺りを見渡す。


 しかし、俺がいる場所が何処か見覚えがあるような畳敷きの部屋であり、あの廃工場でないことに気付き、若干警戒心を下げた。


「ここは?」

「私の部屋です。あの後、廻さんが気絶してしまいましたので、治療をするために運びました。ちなみに、あれから4時間程経っています」

「海潟さんの部屋?」


 なるほど。通りで見覚えがあるはずだ。


 俺の隣に住んでいる雨潟さんの部屋ならば、俺の部屋と似ている部分があって当然だろう、とさっきから感じていた感覚に納得した。


 納得すると、次々と疑問が浮かび上がってくる。


 浮かんできた多くの疑問の中で、まずこの疑問について聞くことに決めた。


「あいつらは、殺した、のか・・・・・・?」


 えたいが知れない奴等とはいえ、彼女は人の姿をした相手を容赦なく切り捨てていた。


 聞くまでもなく、あれは間違いなく殺していたと分かっていたが、俺はそれを否定して欲しいのか、何か理由があったと言って欲しいのか、自分でも分からなかったが、ともかく、返答によっては彼女も危険と判断しないといけないかもしれない。


「殺したのか、と聞かれれば、殺しました。」


 その返答に警戒を強め、距離を少し開ける。


「しかし、廻さんも感じたと思いますが、彼らは人間ではありません。そもそも、彼らに意思があるのか、どうかも判っていません。分かっていることは機械のように『ある目的』のために行動するということです」

「あいつらが何なのか知ってるのか?」


 警戒しながらも俺の知らないことを知り、今のところ俺を害そうとする気配を感じないので、聞けることは聞いておくことにした。


「はい。・・・・・・そうですね。元々、何もなくても今日か明日には説明するつもりでしたから私が何者か、ということも含めて色々と説明させていただきます」


 何だか長い話になりそうだと思い、ふと未だにベッドの中にいることに気付き、ここが雨潟さんの部屋である以上、これは彼女の布団であるということに思い至った。


「その前に、ここから出てもいいか?」

「先程も言いましたが、傷に響きますのでベッドから出ないで欲しいのですが」

「いや、何か落ち着かねぇんだよ」

「まぁ、暴れなければいいですよ」


 許可が出たので、ベッドから出て、畳の上に座る。もちろん、彼女とは距離を開け、彼女に遮られずに出口に駆け出せる位置に座る。


「では、色々と信じがたいことを話しますが、これから私が話すことは全て事実ですので、それをまずは信じてください」

「とりあえず、聞くだけは聞く。というか、あんなわけの解らないことがあったんだ。むしろ、何かしらの突拍子のない理由がない限り、納得できねぇよ」


 そう言いながら、何を言われてもいいように心構えをする。


「まずは、そうですね・・・・・・。あなたを襲った彼らについて話しましょう」


 俺がこの妙なことに巻き込まれたのはそもそもあいつらが原因だからな。


 雨潟さんのことも気になるが、こちらもかなり気になる。


「先程も言ったとおり、彼らは人間ではありません。私達は『調整者(リバーサー)』と呼んでいます。生態などの詳しいことは分かっていませんが、人よりも高い戦闘能力を保持し、現れる時間帯、何をするかなど僅かですが、解っていることもあります」

「姿は人間、っていうか、俺の知っている奴の格好だったんだが?」

「それは擬態です。あなたを人気のない場所に連れ出すのに都合のよく、騒ぎにならない姿があの姿だったというだけです。彼らに触れたなら分かると思いますが、人とは思えない感触でしたよね?それに私が斬ったときに血も流していなかったでしょう?」

「そういえば・・・・・・」


 あの岩のように硬い感触とあいつらが倒されたときのことを思い出しながら答える。


「そもそも、彼らに決まった形があるかどうかも分かっていません。人型もいれば、それ以外の姿の個体も確認されています。今まで確認された全ての個体がプログラムに沿った機械のように淡々と『ある目的』のために行動をしているだけで、意思の有無も分からず、意思の疎通が全く取れていません」

「その『ある目的』っていうのは?」


 俺が襲われたのも、その『ある目的』に関係があることは明白だ。知らず知らずのうちに、緊張のため拳を強く握り締め、唾を飲み込んだ。


「『歴史の修正』です」

「『歴史の修正』・・・・・・?」


 いきなり大きくなり過ぎた話にすぐに理解が追いつかなかった。


「正確に言えば、『歴史を出来るだけ正しく進める』ですね。違う結果になってしまった歴史を本来の歴史に近くなるように行動します。特定の人物の殺害だったり、逆に助勢だったり、色々なパターンがありますが、全ての目的は一致しています」

「ちょ、ちょっと待て!」

「はい」


 俺が混乱している思考を何とか整理して、疑問を搾り出す。


「歴史を正しく進めるって言うが、何をもって正しい歴史なんて言うんだ?まさか、未来は全て決まってるってことか?」

「いえ、人の意思や行動というのはそれこそ千差万別です。私達は観測できていませんが、未来もその分、枝分かれしているという説が信じられています」

「だったら、何で」

「ですが、有り得ない因子による介入によって起こされた事象は正しい歴史と判断されずに『調整者(リバーサー)』によって修正されます」


 俺の言葉を遮るように雨潟さんが言葉を発する。


「有り得ない因子?そんなのがあるのか?」

「はい。その時、その場所にいるはずがない存在、『時間逆行存在(イレギュラー)』。彼らが有り得ない因子です」

「・・・・・・まるで未来から来たみたいな感じの名前だな」

「みたいも何もその通りなんです」


 俺が名称を聞いて、真っ先に思いつき、あり得ないと思いながらも口にしたことが肯定され、混乱に拍車がかかる。


 よく分からない状況に巻き込まれ、混乱している中でそんな突拍子もないことを言われ、混乱に拍車がかかったころでカッと頭に血が上った。


「そんな馬鹿なことがあるか!未来から人が来るなんてことあり得ないだろ!未来ではタイムマシンなんて空想の産物が完成したって言うのかよ!」




「はい。完成しました」




 しかし、俺の混乱から出た叫びがあっさりと肯定されて、更に混乱が増し、逆に思考が停止する。


「今から二十八年後にある科学者が時間を遡るための理論と機器を完成させました。そして、初めての時間逆行を成功させ、その約三年後に『調整者(リバーサー)』の存在が初めて確認されました」


 まるでそれが既に起こってしまった事実のように語る彼女。まるで彼女が・・・・・・


「そして、私はその更に六年後の未来から時間を遡ってきた『時間逆行存在(イレギュラー)』です」


 俺は呆然とその言葉を聞き、彼女は俺のその様子をジッと真剣に見つめ待っている。


「し、証拠は?あんたが未来から来たっていう証拠はあるのかよ!」

「そう仰ると思っていました。そう簡単に自分の常識を覆すことを認められませんよね。証拠は色々ありますが、そうですね・・・・・・。廻さん、あなた、傷の直りが異常に速いと思いませんか?治療する前は肋骨に罅が入っていたんですが、今ではそこまで痛まないでしょう?」


 確かに、脇腹はやや痛むが動きに支障が出るほどではない。


「気絶している間に治療用のナノマシンを投与しました。ナノマシン自体が完成したのは今から十五年後ですが、廻さんに投与したのは三十七年後の最新ナノマシンの中でも最高級のものです。明日には痛みも感じなくなっていると思います」

「き、傷がたいしたことなかっただけかもしれないだろ」

「それなら、先程の『調整者(リバーサー)』との戦闘時に見せた四次元空間技術や『葉切』、私が使っていた武装も未来の物なのですが・・・・・・。言っても信じてくれそうにありませんので、一番説得力のあるものを見せましょう」


 そう言うと、雨潟さんは右腕の袖を肩までまくる。


「何をする気だ?」

「見ていてください。右腕(ライトアーム) 点検(パージ)


 言葉と同時に、晒されていた右腕の肌の表面に線が走り、内側からせりあがるように腕の中心から離れていき、線が走っていたところが境目となり、腕が分解されていく。


 その内側から見えたのは、複雑に絡み合い無数に伸びているコードや機械、肌の断面の上部は肌のようになっているが、下部は金属で出来ていた。



 

「改めて、自己紹介させていただきます。私の名前は雨潟 つむぎ。機種識別名称、特殊戦闘型汎用アンドロイド『つむぎ』と申します」




 今日、何度目か分からない思考停止状態になりながら彼女、アンドロイド『つむぎ』の機械的な部分を晒している右腕をただただ呆然と見ていた。


「もう、よろしいでしょうか?」

「あ、ああ」

右腕(ライトアーム) 着装(セット)


 分解したときの巻き戻しのように元の状態へと戻っていく。


 戻りきった右腕はどう見ても人工的な物には見えなく、今の出来事が夢だったのではないかと思ってしまう。


「・・・・・・今日はこれ以上、話すのは止めて、残りの話は明日にしましょう。『調整者(リバーサー)』に襲われたり、こんな話を聞かされたりで、これ以上はあなたの頭に入っていかないと思いますから」


 雨潟さんは俺の様子を伺い、そう言葉を発した。


「ですが、最後に私の目的だけは告げさせていただきます」

「目、的?」


 そうだ。彼女はわざわざ時間を遡り、俺に何か用があるようなことを言っていた。一体、それは何なのか、あまりに大きな現実味を伴わない話に俺は何の関係があるんだ。



「私の目的は『尾形 廻の命を護る事』。・・・・・・歴史が正しく進めば、あなたは明後日、死亡します。それを阻止し、歴史を歪めるために私はこの時代にやってきました」










「―――以上が本日の出来事です」

『『調整者(リバーサー)』が動き出した、か』

「原因は恐らく、私が彼に接触したことだと思われます」

『だろうな。今日、廻を殺すのはあっちとしても望むところじゃないだろう。お前の妨害にあい、歴史が狂うことを避けるために、その時がくるまで監禁して、頃合をみて逃がし、予定されていた場所で殺害、ってとこだろ。となると、あちらさんはお前のスペックをある程度把握しているとみるべきか?』


 廻が部屋に戻り、夜も更けた深夜、灯りが消えた暗いつむぎの部屋で話し声が響いていた。


「私のスペックの把握はしていないと思います。私のスペックを把握しているとしたら、今日の『調整者(リバーサー)』は弱すぎます。それならば、私のスペックを把握するための様子見ではないでしょうか」

『しかし、報告だと武装は『葉切』程度しか使ってないな。これだと明日、もう一度、襲撃があるぞ』


 現在、部屋の中の光源はつむぎの目の前にある画面からの光のみになっている。


『分かってると思うが、明日は廻に張り付いていろ。死亡予定日じゃないとはいえ、『調整者(リバーサー)』が動き出した以上、油断は出来ない。まぁ、『処置』も施したから滅多のことでは廻を殺せないと思うがな、念のためだ』

「了解。報告どおり、『隠れ(ラボ)』の設営も本日行いましたので問題ありません」


 画面は掌に収まるほどの小さな機械から空間に投影されている。これも未来から持ち込んだ物の一つだ。


「明日、残りの説明を行いますが、何か伏せておくべき事柄はありますか?」

『前もって言っておいたとおりだ。私のことは出来る限り伏せろ。』

「了解。―――そういえば、確か明日は『未来ノ学園』にあの方が編入してくるはずですが、彼と接触するのを妨害したほうがよろしいでしょうか?」

『・・・・・・いや、妨害する必要はない。あれと廻が出会うのも歴史の一部だ。下手に干渉して『調整者(リバーサー)』を必要以上に刺激しないほうがいい。』


 投影された画面には会話の相手である人物と相手がいる場所、機材や配線が乱雑している部屋が映っている。


『だが、お前は間違ってもあれと接触するなよ。万が一にもお前のことがバレたら干渉どころの話ではなくなる』

「解っています。私のことがバレたらどれだけの規模の『調整者(リバーサー)』が送り込まれてくるか全く予想がつきませんから」


 画面の向こう側でつむぎと会話しているのは、真っ白な髪をボサボサにしたまま後ろに長く伸ばし、目つきが悪く、目の下に隈を作った女性。身嗜みに気を使っているとは思えないのだが、それでも元の素材がよく、なおかつ美しさが損なわれてない。


『ともかく、頼むぞ。廻を死なせるな。そのためにお前を創って、危ない橋を渡ったんだ』

「了解。必ず私の使命を達成します、博士」


 その言葉を最後に画面が消え、部屋は暗闇に閉ざされた。


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