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起 3

 学校からの帰り道、夕焼けに染まった道を俺は歩いていた。


 あの後、『作品』を読みきることが出来ず、持ち帰って読め、と言われたので『作品』を鞄に入れ、帰路についた。


 途中までしか読んでないが、それでも先輩の『作品』によって与えられた精神的ダメージにより、げんなりしながら歩き、手に持ったものを見つめる。


「何すか?これ」

「この前、隣の市のテーマパークがリニューアルしただろう。そこの経営者から私に送られてきたチケットなのだが、生憎、私はその手のものにあまり興味がない上に暇も取れない。なので、報酬の一部として、お前に譲ろうと思ったのだ。もちろん、それとは別にいつも通り、報酬をだすぞ」

「俺も興味ないんですけど」

「そうか。まぁ、いらないなら換金するなり好きにするといい。どの道、私には全く必要のないものだ」


 そんな会話を帰り際に先輩としながら渡されたチケットをどうしようか考えていると数日前のことを思い出した。


「そういや、命が行きたいって言ってたな」


 遊んでやっていたときに、CMかチラシでテーマパークがリニューアルオープンしたのを知ったらしく、遊びに行きたいと零していた。しかし、あまり自分の家庭が裕福でないことを知っている命がその呟きを零したのはそれっきりだった。


「・・・・・・あいつにやるか」


 チケットをよく見てみると、テーマパークの経営者は先輩を含む、『三ツ傘工業』社長一家が訪れることを期待していたのか、有効人数が三人分になっていた。


 命の家も三人家族であり、ますます、命にプレゼントしたほうがよさそうだと思いつつ、ポケットにチケットを突っ込んだ。


「ん?」


 前方を見てみると、人混みの中に昨日、撃退したばかり三バカのうちの一人、髪が赤い奴が俺の進む先に立っていた。


 昨日の今日でまたかと溜息をついていると、右後ろと左後ろに残りの二人、青い髪の奴と黄色い髪の奴が立っていることに気付いた。


「?・・・・・・おい」


 何時もの三人組なのだが、何か違和感を感じ、声をかけるが無言のまま何も答えない。


 もう一度、声をかけようとしたときに前方に立っていた奴が俺に背を向けて進みだした。それと同時に後ろの奴等も俺との距離を詰めてくる。


「黙ってついてこいってか」


 後ろの二人は答えないが、いつもとは違う無言の迫力がそう俺に訴えかけてきていた。


 それを薄気味悪く感じながらも、人の多いこんなところで暴れる気にもなれず、素直についていくことにした。





 連れて行かれた先はいつもと同じ、工業地域の中でも人気のない廃工場の一つだった。


「ったく、面倒だな。さっさとかかってこいよ」


 持っていた鞄を適当に放り投げ、俺を中心にした三角形の頂点に立って、囲っている三バカに対して、いつもより強めの語気で声をかけた。


 正直な話、いつもは口やかましく喚いているこいつらが、今日は一切口を開かないことに薄気味悪さを感じていた。そんな気持ちを振り払うべく、強めの語気で言葉を発した。


「「「・・・・・・」」」

「・・・・・・今日は妙に静かだな、テメェら」


 こちらの声に何の反応もしない三人に余計に嫌な感じが増していった。


「まぁ、いい。やるなら早く、―――って、お前、何してんだよ?」


 囲っていたうちの一人、黄色い髪の奴が俺が放り投げた鞄に向かって歩き出した。


「おい!聞いて」


 俺がそいつを止めようと一歩踏み出した瞬間に声を止めざるを得なかった。


 強烈な衝撃を脇腹辺りに感じたと思ったら、一瞬の浮遊感の後、右半身に衝撃、更にその後に背中に衝撃を感じながら大きな物音を聞いていたからだ。


「がぁっ!?」


 意識するより先に苦悶の声が吐き出された。続いて、脇腹からの激痛とそれには負けるがそれでもかなりの痛みを右半身と背中が訴えてきた。


「ごほっ!げほっ!?」


 何が起こったか分からない中で、脇腹を押さえつつ状況を確認してみると、三バカのうち髪が黄色の奴は俺の鞄をひっくり返していて、青い髪の奴は変わらずに突っ立ったまま、最後の赤い髪の奴は拳を振り切った体勢になっていた。加えて、俺がうずくまっている場所はさっき立っていた場所ではなく、壁際だった。


 ・・・・・・信じたくないが、俺はあいつに殴られた壁まで転がされたらしい。


 それを認識すると、俺の中にあった奴等に感じていた嫌な感じが一瞬で、困惑と恐怖に変化し、膨れ上がっていった。


 どう考えたって、今の衝撃は人に殴られたものじゃない。


 まだ車かバイクに撥ねられたって言われたほうがまだ説得力がある衝撃だった。それを何の変哲もないただの人が繰り出したということに困惑し、その力を俺に向けられているということに恐ろしさを感じてしまう。


 俺がそんな風に混乱しているうちに、俺を赤い髪の奴がこっちに向かって歩いてきた。


 困惑や恐怖を必死に押さえ込み、脇腹から伝わってくる痛みを堪えながら片手で体を支えながら立ち上がる。


 最早、こいつらはいつもの三バカではなく、同じ姿をした別の『何か』だと考えることにした。


 逃げろ、と俺の本能が警鐘を鳴らし続ける。


 出口のドアを伺ってみるが、そこに辿り着くには青い髪の奴のすぐ傍を通らなければならない。


 どうやら、逃げるとしてもこいつらと多少はやりあうことを避けられそうになさそうだ。


「ちっ。冗談じゃねぇよ」


 不意打ちとはいえ、殴っただけであんなに人を飛ばせるような奴とやりあうなんて御免こうむる。だが、やらなきゃどうにもならない。


「それに、どうにも無事に帰れそうにないし、な!」


 こちらに向かってきていた奴に対してこちらから距離を詰め、勢いをのせた右拳を顔面目がけて放つ。


 その拳は距離を詰めた勢いに加え、奴等から感じる不気味な雰囲気によって与えられる緊張感でいつもより気合が入り、油断もなくした渾身の一撃だと言えた。


「なっ!」


 しかし、俺の渾身の一撃をあっさりと僅かに横にずれることだけでかわしたそいつは、そのまま俺の胴体目がけて拳を放ってきた。


 それを急いで左腕を体と拳の間に割り込ませることで防御する。


「ぐぅっ!?」


 今度は先程の不意打ちのときと違い、攻撃が来ることが分かっていたので、踏ん張っていたのだが、それでもかなり後退させられるほどの威力を有していた。


 まともに打ち合っていたらすぐに捻じ伏せられる。


 そう判断し、空いてしまった距離を無理に詰めずに、カウンターを狙うことにした。


「―――っ!」


 歩いて近づいてきた奴は自分の拳の間合いに入ったと同時に拳を振るってくる。


 鋭く俺に向かってきたその拳を何とかかわし、右足で脇腹を蹴った。


「ぐっ!?」


 しかし、蹴った足から伝わってきたのは痛み。蹴った足は確かに相手の脇腹をとらえている。なのに、そこから伝わってきたのは人の肌とは思えない岩のような硬い感触。


 その事実に思考が停止してしまった。


「しまっ」


 驚いているうちに右足を脇に抱え込まれた。


 それを振りほどこうと力を込めようとした直前。


「な―――!ぐわぁ!」


 軽々と体を持ち上げられ、投げ飛ばされる。


 またしても浮遊感の後に半身に衝撃を感じ、勢いがなくなるまで地面を無様に転がるはめになった。


「くっ、そ」


 勢いがなくなると出来るだけ素早く立ち上がった。


 あの三人がえたいが知れない『何か』だと感じていたが、今の蹴りで人以外の『何か』だと確定した。


 どんなに鍛えようがあんなに硬くなるわけがない。そういえば、威力にとらわれがちだったが、拳もいやに硬かった気がする。


 出口のドアを見ると、投げられたことが幸いし、だいぶ距離が近くなり、走っていけば何とか逃げ切れそうだ。


 三人の様子を伺い、未だに沈黙を保ったまま俺に歩み寄ってくる髪が赤い奴と突っ立っている髪が青い奴、鞄の中身を漁っている髪が黄色い奴の様子を見て、逃げ切れると判断した俺は出口に向かって駆け出した。


 この廃工場から出れば、この付近の工業地域は入り組んでいるので撒けるはず。そう思い、全力で出口に走っていた。


「がはっ!?」


 が、突如、脇腹に衝撃を感じ、倒れる。


「げほっ!はぁ、はぁ」


 最初に殴られたところに近い部分からの衝撃に痛みを堪えながら、何が起こったのが周りを確認すると、俺の近くに鞄が落ちていた。


 さっきまで鞄を漁っていた奴を見ると、何かを投げたような姿勢になっていた。


 やっぱり、あいつもいつもの奴とは違う『何か』か、と思いながら、逃げるために急いで体を起こし、出口のほうを見る。


「・・・・・・マジかよ」


 ドアの前には、さっきまで突っ立っていたはずの奴が立ち塞がるように立っていた。


 逃げることが出来なくなったことに呆然としていると、足音が響いてきた。


 そちらに視線を向けると、さっきまで鞄を漁っていた奴と俺を相手にしていた奴が一緒に俺に向かってきていた。


 えたいが知れない一方的に人を捻じ伏せられる『何か』かが静かに歩み寄ってくるその姿に恐怖がどんどん増していき、叫びだしそうになったとき。



ズドン!!




 轟音が鳴り響き、その振動が俺の身を震わせた。


「今度は何だよ!」


 半ばヤケになって俺が叫んだ。


 ドシャ!


 俺が叫んだ後に、ドアの前に立っていたはずの青い髪の奴とドアが奴等の向こう側の地面に落ちてきた。


「は?」


 その光景を俺は完全に思考が停止した状態で見ていた。



「ご無事ですか、廻さん?」



 この場にそぐわない柔らかな声が俺の耳に届き、そちらに振り返る。


 声が聞こえてきたのはあったはずのドアの向こう側、廃工場の外からであり、声の人物は突き出していた掌をおろし、白いタートルネックのブラウスと白いロングスカートを身に纏った彼女が中に入ってくる。


「雨潟、さん・・・・・・?」


 俺の呟きに微笑で応える彼女、昨日、俺の住んでいる部屋の隣に引っ越してきた女性、雨潟 つむぎがゆっくりとこちらに歩いてくる。


 何故、こんなところに彼女が、という疑問が湧いてくるが、今の状況を思い出し、彼女に向かって叫ぶ。


「来るな!逃げるんだ!」


 えたいが知れない『何か』がいるこの危険な場所から遠ざけるべく、危険を訴えるが、彼女は微笑を崩さずに声を返す。


「大丈夫です。廻さんこそ、少し下がっていてください」


 ズドン!


 言い終わると同時に彼女の姿がぶれたかと思えば、背後でまたしても大きな音が響く。


 振り返ると、微笑ではなく引き締まった表情で掌を突き出した彼女と壁に叩きつけられている黄色い髪の男。


 その光景の意味を理解する前に赤い髪の奴が彼女に向かって突進してくる。


「速い!」


 俺を殴っていたときとは段違いの速さで彼女に向かい、拳を振るう。


 しかし、彼女はその拳を左手で軽々とさばくと、右手を相手の腹に添える。


 ズドン!


 右手の掌が一瞬、青く光ったと思ったら、相手は吹き飛ばされて壁に勢いよく叩きつけられた。


 俺は目の前で起こった現象に理解が追いつかず、少しの間呆然とその光景を見ていたが、思考が回復してくると目の前に立つ彼女に詰め寄る。


「お、おい。何だよ、今の」

「質問にお答えするのは構わないのですが、もう少々、お待ちいただけませんか?彼らを掃討しないといけないので」


 彼女の視線の先、倒れていた三人が立ち上がろうとしていた。


「なっ。何で立てるんだよ!?」


 傍目から見ても、尋常ではない力で叩きつけられたはずなのに、三人はたいしたことがないかのように平気で立ち上がる。


「情報通り、単純な衝撃ではダメージはほとんどないようですね」


 それが当然といった感じで彼女は奴等の状態を平然と受け止めていた。


開口(コネクト)


 彼女が言葉を発し、彼女の横空間が掌と同じくらいの大きさで歪んだかと思うと、歪みが発生した空間に穴が空いた。


 彼女は手首までその空間に右手を入れるとすぐに引き抜いた。


 引き抜いた彼女の右手は長い棒状のものを掴んでいて、棒の片方の先端には反り返った長い刃が取り付けられていた。


 俺の知識が正しければ、それは一般的に薙刀と呼ばれるものだった。


起動(リンク)


 刃の周りに青い光が纏わりつき、左手も柄を握り、左手をやや前にし、刃先を下げた状態で構える。


「『葉切』、正常に稼働。―――いきます」


 彼女が軽く膝を曲げたかと思った次の瞬間には弾丸のように飛び出した。


 俺が彼女の一連の動作を見ていた間に奴等もこちらに向かってきていたようで、さっきまで奴等がいた場所と俺達がいた場所の中間地点辺りで交錯する。


「はっ!」


 彼女から見て、右斜め下から薙刀、おそらく『葉切』という名称のものを正面の相手に切り上げる。


 切りかかられた相手、黄色い髪の奴はかわそうとするが、回避が間に合わずにその身を『葉切』で切り裂かれる。


 振り上げた状態で器用に『葉切』を回し、刃を止めることなく、今度は右斜め上から先程の軌跡と直角になるように斜めに振り下ろす。


 綺麗に☓の字に切り裂かれたそいつは血を流すことも無く、バラバラに崩れ落ちる。


 俺がそのことに対して何か思うよりも早く、彼女は次の相手に移る。


 踏み込んでいた足を軸に体を回し、向きを変えながら移動し、左からの青い髪の男の攻撃をかわし、彼女の右側から接近し、やや遅れて攻撃をしかけてきた赤い髪の男に向き合い、柄頭を半回転させて顎を強打する。


 続けて、『葉切』を水平回転させて、赤い髪の男の首を切り飛ばす。しかし、血が吹き出ることはなった。


 その隙に背後から彼女に青い髪の男が蹴りを放つ。


 しかし、それは彼女が跳躍したことで回避され、彼女はバク宙で青い男の上を飛び越え、男を飛び越えた辺りで上下逆さになっている中、回転しながら自分の頭上から一気に股下まで振り切ることで男の股下から頭上までを切り裂く。


 彼女が膝を曲げ、着地すると同時に青い髪の男の二つに裂けた体が地面に落ちる。が、何故かその体からは先に倒された二人同様、血が流れていない。


「掃討完了」


 彼女が立ち上がり『葉切』の柄頭を地面につける。


 同時に俺は、助かったと思い、それまで張り詰めていた緊張感が弛緩し、痛みが強烈に主張し始めたのを感じながら意識を手放した。


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