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結 2

「―――以上が報告出来ませんでした昨日と今日の報告です」


『そうか・・・・・・』


『隠れ(ラボ)』の一角でつむぎは博士への報告を行っていた。


 前日はほうほうの体で『隠れ(ラボ)』に逃げ帰ってきて、治療などを行っていたのでそんな暇がなかったのだ。


『私の想いすらも歴史にとっては予定調和だったわけか』

「・・・・・・そのようです。博士の思いも私の存在も廻さんを死へと導くものでした」

『廻はどうしてる?』

「出血が多すぎたため、戦闘終了直後にお倒れになりました。現在、治療を終了し、睡眠についています」

『そうか―――、生きているんだな』

「はい。生きています」


 二人のその言葉に込められた思いは共に安堵であり、嬉しいと分類されるものだった。


『しかし、気を緩めてはいられないぞ。お前の報告にあった知性をもち、不可思議な技法を用いるような『調整者(リバーサー)』がまたやってくるかもしれん』

「はい。正直、同じレベルの存在が続けてやってきたら勝てる気がしません」

『それほどか。それに不可思議な技法、これも確かなのか?』

「間違いありません。起こしている現象は似たようなものでしたが、センサーが測定していた結果から利用しているエネルギー、発動の体系は全く違うものであると判断できます」

『確かに赤いエネルギー光など聞いたことがない。それに機器もなしに私達と同じような現象を起こしているとなると学会が大騒ぎになるぞ』


 今度の二人の言葉に込められている感情は緊迫と戦慄。未知なる強大な敵にどう立ち向かうべきかその考えで不安になってしまっている。


「今後、彼らと戦うことになるとして、現状のスペック、武装ではいささか心許ないです。どうにかならないでしょうか?」

『そうだな。武装についてはミスティに相談する。あれも今回のことを知れば、喜んで手を貸すだろう。しかし、スペック面となると体をいじらんとならんからな。ソフトウェアをアップデートすることで最適化は出来るが、大幅な性能上昇は見込めん』


 画面の向こうで博士は困ったように眉を顰める。


 博士としても、そのような脅威が現れた以上、つむぎを強化したいとは思うのだが、現状、そう簡単に出来ないのが問題だった。


『まぁ、その対策もこちらで考える』

『ふむ、ならばその話、私も一枚噛ませてもらおうか?』


 博士がバッとつむぎからは見えない画面の向こう側の博士がいる部屋の入り口を振り返った。


『・・・・・・勝手に入ってくるんじゃない』

『知らぬ仲でもないだろうに硬いことを言うな』


 画面の中に新たに茶髪を肩口まで伸ばし、鋭い目つきの上に眼鏡をかけた、スーツとヨレヨレの白衣を身に纏った女性が現れた。


 つむぎは記憶しているデータからその人物が誰かを割り出した。


「初めまして、三ツ傘様。私は機種識別名称、特殊戦闘型汎用アンドロイド『つむぎ』と申します」

『ああ、初めまして。君が例の機体か』


 そう言いながら画面越しのつむぎを三ツ傘 知恵はマジマジと上から下までジッと見つめた。


『なるほど、流石はこの子が自信を持って過去に送り込んだだけはある。よく出来ているじゃないか』

『おい、お前。何でお前がこいつのことを知っている?一応、こいつの開発は極秘プロジェクトなんだが?』

『何でも何も、数年前から戦争ゲームをやるわけでもないのに私の所の金属を大量に取り寄せていれば、何か作ろうとしているのは分かる。幻影に怯えるばかりだった君が精力的に何かをしようとしているのだ。昔、世話を見た者として気になり、調べるのは当然だろ?』

『ちっ、余計なお世話だっての』

『そう邪険にしないでもらいたいものだな。私の研究室で実験開発中の物を分けてやろうと思っているのだから』

『何?』


 博士は怪訝そうな顔で知恵の顔を見る。


『三号は私にとっても亡くすには惜しいと思っていたからな。彼が生き延びることが出来るというなら私も喜んで協力しよう』

『・・・・・・まぁ、くれるってんならもらってやる』

『是非とももらってくれ』

「ご協力ありがとうございます、三ツ傘様」

『ふむ・・・・・・、しかし、これでミス博士も加わるとなると、つむぎ君の開発には『変革の賢人(ミーミル)』のうち三人も関わることになるのだね。いやはや、それにふさわしいだけの成果は出ているのだがね。『調整者(リバーサー)』の知的個体の確認、未知のエネルギー、未知の技術。ふむ、上に報告すれば、もう少し大規模に進められるのではないか?』


 その知恵の提案を博士はあっさりと否定する。


『いや、そんなことしたら過去改変が『調整者(リバーサー)』が現れる前みたいに行われるようになる。それは私の望む所じゃない』

『それもそうか。過去改変が行われるようになれば、真っ先に私達は狙われそうなものだからな』

『そういうことだ。上にも適当に誤魔化して報告しておくさ』

『となると、当面は私とミス博士、そして、首謀者である君、命博士の三人でつむぎ君を改良していくことになるのか』

『首謀者とか悪そうに言うな』


 博士、天理 命は嫌そうに吐き捨てる。


『しかし、意外なものだ。色恋になどさっぱり興味がないかと思えば、髪の色が脱色してしまうほど想っていた三号が死んで、四十年近くも初恋の想いを持ち続けているとは。存外、一途であったのだな』

『るっせぇ。私も今回の件でわかったが、ガキが目の前でちょっといいかななんて想ってた男が無残に死ねところを見れば、そりゃトラウマにもなるだろ。一途とかじゃなくて呪いだ、呪い』


 そう言いながらも、耳が赤くなっていることに知恵とつむぎは特に触れなかった。


『では、私は一度自分の研究室に戻って、件の開発中の品を持ってこよう』

「よろしくお願いいたします」


 つむぎがそう言うと、知恵はジッとつむぎを注視した。


「あの、何か?」

『いや、何。君から返事が来るとは思わなかったのでね。ふむ、そうか・・・・・・、一つ、聞いてもいいかな?』

「何なりと」

『君は、どうして三号、尾形 廻を護るのかな?』



「それが私の存在意義であり、使命であり、そして、私の想いであるからです」



 つむぎはその問いに即答した。


 一度は揺らいでしまった自分の存在意義だが、その護るべき対象である廻に諭されて以来、この想いはより一層強く刻み込まれていた。


 視線をふとずらすとその視界にはこの『隠れ(ラボ)』の中では異彩を放つ、廻にもらった羊のぬいぐるみが目に入り、意図せずつむぎの表情が微笑みへと変わる。


 その答えと表情に知恵は愉快そうに笑い、命は苦そうな顔をしていた。


『ふふふ。いや、やはり三号は面白い。ああ、こちらで生き残っていないのが非常に惜しく感じられる』

『・・・・・・間違えた。やっぱり女性型はやめるべきだった』


 その二人の様子につむぎは首を傾げるのだった。






 あの男を撃退してからというもの、なんだか清々しい気分になり、あの戦闘から二日後の火曜日、俺は学園へと足を向けていた。


 やはり自分の死というのは俺にとってとんでもないストレスであり、それを覆した今、俺の気分は稀に見るほどの上機嫌になっている。


 昨日は逆にまた襲ってくるかもしれないと戦々恐々としたものだったが、何事もなく夜が明けて、運命を振り払ったのではないかという結論を俺と雨潟さんで出した。


 なにやら新しい武器も用意したとのことだったが、それを使う機会に恵まれなくて万々歳だ。


 一応、雨潟さんは今日も俺の護衛についているとのことだったが、俺はすっかり晴れた気分で何の憂いもなく学園へと向かっていた。


 肋骨のほうはともかく、流石に散々痛めつけた左腕は一日休んだくらいでは治らず、今日も包帯を巻いているが、これも三日としないうちには治る見込みだ。


「帰りは命の見舞いにでも行くか」


 今朝、家に帰り、そこで会った命の母親である鶴子さんに会い、命のことを聞くとこう返ってきた。


 この前の土曜日は珍しく父親である翔太郎さんが帰ってきていて、家族揃って遊びに行こうという話になり、俺と同様、命がテーマパークに行きたがっていた覚えていた鶴子さんの意見であのテーマパークに来ていたそうだ。


 しかし、突然、命が迷子になり、係員と協力して探したところ倒れている命を見つけ、異常にうなされていたので病院に搬送されたそうだ。


 鶴子さんに見舞いに行ってくれと頼まれたが、もとよりそのつもりだし、そもそも俺のせいでそんな状態になっているのだから謝りにも行かないといけない。


 そんなことを考えながら教室のドアを開ける。


「おはよう」


 俺がそう教室全体にさわやかに声をかけながら入ると、教室がざわめきに包まれる。


 いつもならあり得ない俺の言動に動揺しているのだろう。


 若干、失礼だと思わないでもなかったが、今日は機嫌が良いのでそこはスルーする。


「わるきちっ!?」


 そんな中で一人だけ、異なる反応をアンリミズがしていた。


 彼女は俺を見るとすぐに駆け寄ってきた。


「昨日はいったいどうしたの?心配したんだよ?」

「心配?どうして?」


 アンリミズが俺の命を狙われたことを知っているはずがないのそんなことを言われ、疑問を浮かぶ。


「それは、日曜日、あんなことがあったから」


 周りに聞こえないように小声ででそう言われ、あの男のことをかと一瞬思ったが、その直後、そういえばアンリミズを誘拐犯達から助けていたことを思い出した。


 あの後の戦闘が色濃く記憶に残りすぎて、すっかり忘れていた。


「ああ、そうだったな。あの後、大丈夫だったか?」

「うん。あの後、すぐにSPとか警察の人が来てくれたから。あ、もちろん、言われた通り、わるきちのことは言ってないよ」

「そっか、ありがとな。あんな無理なこと言って」

「ううん、全然いいよ。わるきちには助けてもらったんだから黙ってるぐらいのことなんてどうってことないよ。―――って、わるきち、腕どうしたの?」


 アンリミズが包帯を巻かれた左腕を見て、驚きながら俺に問いかけた。


 剣で斬られました。なんて言えるわけないので


「ちょっとな」


 適当に誤魔化したのだが、それをどうやら彼女は勘違いして受け取ってしまったらしい。


「もしかして、あのときに?そういえば、窓を叩き割ってたもんね」

「あ~、いや、そうじゃなくてだな」


 俺がその誤解を解こうとしたのだが


「三号、いるか?」


 教室の扉から先輩が顔をのぞかせ、言いそびれてしまった。


「何すか、先輩?」

「何だ、ではない。昨日はどうしたんだ?いつもの場所で待っていたというのに来ない上に連絡一つよこさないとは」

「あ」


 すっかり忘れていたが、昨日は先輩のバイトがあったことを思い出した。


「すんません。すっかり忘れてました」

「ふむ、三号にしては珍しいな。―――む?」


 そこで先輩の視線が俺の左腕にいき、更に俺の近くにいるアンリミズに向いた。


「ミスではないか。君もこのクラスだったのか?」

「うん。そうだよ。わるきちと同じクラスなんだ」

「あれ?二人とも知り合いなのか?」


 お互いに知り合いらしい二人の様子を疑問に思い、聞いてみた。


「ああ、ミスは中々の才媛でな。優秀な者同士、仲良くしたらどうだ、と父に紹介されたのだ」


 そう言えば、二人とも将来は『変革の賢人(ミーミル)』と呼ばれる天才だった。


「しかし、その腕・・・・・・。まさか、一昨日の事柄に巻き込んだのではないだろうね、ミス?」

「あ、いや、これは」

「だったら、何?」

「もしそうであるならば、そういったことは極力控えてもらいたい。多少、粗暴そうに見えようとも三号はれっきとした一般人なのだから巻き込むのは関心できんよ」

「だから」

「一般人?ふ~ん、知らないんだ?」

「何をだ?」

「別に~、何でもないよ。ね、わるきち」

「ん、あ、ああ」


 全く俺の話を聞く気配がなかったのだが、いきなり話を振られ、思わず頷いてしまう。


「?・・・・・・まぁ、ともかく注意してくれたまえよ、ミス。それと三号、今日の放課後なのだが、昨日の予定をそちらに移すということでいいな?」

「はい。大丈夫っす」

「では、今日の放課後に」

「わるきちっ!」


 腕をいきなり引っ張られたかと思うと、頬に何やら柔らかい感触があたる。


 先輩はそれをキョトンとした表情で見ていて、俺もそれが何なのかすぐには分からなかったが、アンリミズが少し背伸びをして、俺の頬に顔を突き出していたことから遅れて、何をされたかを理解する。


「一昨日のお礼だからね!」


 赤くなりながらもそんなことを言うアンリミズにどう言えばいいの困っていると


「―――っ」


 ゾクッと背筋が寒くなり、辺りを見渡す。


 しかし、周りではアンリミズの突然の行為で騒いでいるクラスメイトとキョトンとした表情からニヤニヤした顔つきへと表情を変える先輩しかいない。


 しかし、何かプレッシャーのようなものを間違いなく感じるため何なのだろうとキョロキョロ周りを見渡すがやはりおかしなプレッシャーを放つ人物の姿はない。


 何故かイイ笑顔の雨潟さんが脳裏に浮かび上がるが、その理由も分からず混乱するしかなかった。








「これはいったいどうする?」

「どうするも何も手出しが出来んよ」

「その通りだ。奴とミスティリーネの因果が強く結びついてしまった以上、下手に手を出せば歪みが余計に大きくなってしまう」


 どことも知れない空間で複数の声が響き渡る。


「当日であれば、まだどうにか誤魔化せたものの『力天使(ヴァーチェ)』がしくじったせいでそれも不可能になった」

「『力天使(ヴァーチェ)』一人に任せるからこのようなことになったのでは?」

「しかし、あの時点であの世界に『力天使(ヴァーチェ)』の他に受け入れる余裕はなかっただろ」

「ならば、『聖霊』の軍勢で押しつぶせばよかったのでは?」

「『聖霊』相手ではあの機械人形に退けられるだろう」

「そもそもあの男が未来の物を持っていることを何故知らせなかった?」

「『聖霊』に処理を任せていたのだ。誰が所持していたなど特定できん」

「ならば、お前の責任ではないか!」

「黙れ!任務を達成できない無能な『力天使(ヴァーチェ)』を遣わしたお前の責任だろうが!」

「何だと!」


 怒号が飛び交い、責任のなすりつけあいがそこらかしこで行われた。


「静かになさい」


 しかし、その騒ぎもこの一声で一気に沈静化する。


「我々は全知全能ではないのです。いずれ、このようなことは起こっていたでしょう。それがたまたま今回だった。それだけのことです」

「しかし、『智天使(ケルビム)』様。あの世界が正すことが難しくなったことは事実です。いったいどうなさるおつもりですか?」

「『主天使(ドミニオン)』、あの世界は今、どうなっているのかしら?」

「はい。あの世界は現在、不安定な状態になっています。しかし、このまま歪みが広がればおそらくは並行世界の一つとして処理され、安定化するのではないのかと思われます」

「並行世界だと?何故そのような変化になる?」

「恐らくは世界の重要因子にたいして緩やかに接触、改変をもたらしたことで大規模の欠落を押さえることが出来たからではないかと推測されます」

「大規模の欠落が起こることはないのですか?」

「いえ、先程も申し上げましたが。あの世界は不安定な状態にあります。これからの変化次第では大規模な欠落が起きる可能性も否定できません」

「ならば、早急に対策を!」

「落ち着きなさい。それにどのような対策が立てられるというのですか?下手に刺激すればそれこそ大規模欠落の引き金になりかねません」

「では?」

「そうですね。しばらくは様子を見ましょう。状況次第では強制排除も視野に入れます」


 結論が出て、皆が方々に散った後、そこには『智天使(ケルビム)』と呼ばれた者だけが残っていた。



「世界の予定調和を乱す者、そなたは我らに新たな世界を見せてくれますか・・・・・・?」



 誰に向けたわけでもない呟きがその空間に響いた。


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