詐欺師の誤算
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「あんた、すごいモノに憑かれてるわね」
ダミ声の台詞に振り向くと妙な婆さんが俺を見上げていた。
「このまま放っておいたら大変な事になるわ」
「お婆さん、こいつが見えるんですか!」
万感の思いを偽造して叫ぶ。婆さんが怯んだのを確認して俺は畳みかけた。
「いやぁ、こいつに憑かれてからと言うもの様々な事がうまくようになって」
狼狽えだした婆さんを覗き込み視線を合わせる。人間は視線を外さないと上手く他人とは別れられないのだ。
「本当に困ってるんですよ」
「え、困って?」
俺は大袈裟にため息を吐いて肩を落とした。
もちろん演技だ。それでも狼狽していた上に予想を外し、混乱した婆さんに見破れはしない。
「そう、困ってるんですよ」
言葉をさり気なく繰り返し、婆さんの意識に刷り込む。
「な、何で困ってるの?」
食いついた!
しかも、口調まで変わり相談に乗る形になっている。
「聞いてくれるんですかっ? なんて良い人なんだ!」
相談に乗って感謝される。婆さんはこの構図が随分とお気に召したようだ。
嬉しそうに綻んだ顔で俺に先を促す。ありがたく乗ってやることにした。
「実は何でも上手くいくもので努力する事を忘れてしまいそうなんですよ」
首を左右に振って悩んでいるように見せるのも忘れない。
演技派な俺は舞台なら派手な喝采を受けるだろう熱演振りで、疲れた笑顔を浮かべた。
「自分でも贅沢な悩みだと思います。でも、正直に言えば厄介払いしたいんですよ」
力無く言いながら諦め切った表情を作る。手助けして感謝されたいと婆さんに思わせるためだ。
「このブレスレットに憑いてるんですが、彼女からのプレゼントで20万もするんですよ。同じ物をこないだ見つけたんですが、学生の俺には難しくて」
右手を持ち上げて見せる。ちなみに5千円にも満たない安物で数日前に自分で買ったものだ。もちろん値札以外についてはいなかった。
「そ、そうなの? 確かに困ったわね」
20万円という金は簡単に出せる額ではない。婆さんが困るのも無理はない。
それこそがこちらの狙いなのだから。
「本当に参りました。なんとか18万まで工面したんですけど、残りの2万がどうにもならなくって」
大きな要求を断らせ罪悪感を抱かせた後、それより簡単な要求をすると人は従い易くなるのだ。
そう、今回は無力感で代用しこの心理トリックを完成させたのだ。さぁ、2万円を渡せ! そして自尊心を買い取り偽善に浸るが良い!!
「……2万なら、おばさんに任せなさい。代わりに出してあげるわよ」
その言葉が聞きたかったんだ。婆さん愛してるぜ!
「ほ、本当ですか? 信じられないこんな優しい人がいるなんて!」
こんなに騙されやすい婆さんが未だに生息してるなんて信じられない!
俺は感極まった風を装って婆さんに手を取るべく左手を伸ばす。
「あれ?」
そんな俺の手は婆さんの手を見事にすり抜けた……。




