第八十四話 「御用改め」
「なァ、ウンケイ。おっさん達どうすんだ?」
城の裏門から外へ出て、しばらく進んだ山中で、ウンケイの肩に担がれ、逆さになったしゃらくがウンケイに尋ねる。
「・・・さあな」
ウンケイが歩みを止める事なく呟く。
「・・・」
ウンケイの肩で揺られるしゃらくが、眉を顰める。
城の正門前、集まっていた町人達が続々と道を開ける。
「ありがとうございます」
開けられた道の先頭にいる男が、ニコリと笑う。すると男を先頭に、烏羽色の羽織を着た男達が、続々と門に向かって行く。しかし男達の前には、固く閉ざされた城門が聳え立っている。
「おぉ、これは立派な門だ。・・・それに錠がしてあるね」
先頭の男が穏やかな口調で、木造の巨大な門を触っている。
「アケサト、斬れるかい?」
男がニコリと微笑んだまま、後ろを振り返る。
「はっ」
男に声を掛けられ前に出てきたのは、烏羽色の羽織を着た背の高い女。腰に刀を差し、険しい表情をして城門の前に立つ。すると女は、静かに刀を抜いて構える。
「危ないので離れてください」
「おっと、すまない」
男は微笑んだまま、後ろへ一歩下がる。女はそれを見届けると正面に向き直り、刀を振り上げる。刹那、目にも止まらぬ速さで女が刀を振るう。すると、目の前に聳え立つ門扉に、幾つもの切れ目が入る。チャキ。女が刀を鞘に仕舞う。刹那、ガラガラガラ!!! 巨大な門扉がバラバラと土埃を上げ崩れ落ちていく。女は埃を嫌い、袖で口元を覆う。
「流石だねアケサト。太刀筋も綺麗になっている」
後ろに下がった男が寄って来て、、アケサトと呼ばれる女の肩をポンと叩く。するとアケサトと呼ばれる女は、無言のまま頭を下げる。
「・・・来たか」
門の向こう、城内の広場で、門扉が崩れ落ちるのを見ていたアドウが呟く。その隣のくも八も、門にかかる土煙の向こうに目を凝らしている。逆隣のリコウも同様に目を顰めている。やがて土煙が晴れ、数人の人影が見えてくる。
「我ら“八咫烏組”! 御用改めである!」
先頭の男が声を上げる。
すると男はツカツカとアドウらの方へ歩いて来る。そしてその後ろには、門扉を斬った女と四人の大柄な男達が続く。
「アドウさんとくも八さん、ですね?」
先頭の男が、相変わらず穏やかに話しかける。
「・・・そうだと言ったら、あの門扉みてぇに斬るのか?」
アドウがニヤリと笑いつつも、鋭く眼光を光らせる。
「そんな事はしませんよ。・・・もっとも、あなた方が大人しく捕まってくれればの話ですがね」
男が微笑む。刹那、男の眼前に幾つもの小さな砂利が飛んで来る。その砂利の奥には、刀を抜いたくも八が迫っている。
「・・・」
飛んで来る砂利に、男は思わず顔を手で庇う。
「取った!」
くも八が刀を振るう。刹那、ガキィィン! くも八の刀を、アケサトと呼ばれる女の刀が受け止める。
「くっ!」
止められたくも八が、すかさず後方に距離を取る。
「・・・ふぅ。ありがとうアケサト。命拾いしたよ」
男が額を拭う。
「気を抜き過ぎです」
「すまない。・・・叱られてしまった」
男が頭を搔く。
「大人しくする気は無いみたいですね」
アケサトがアドウらに刀を向ける。すると、後ろにいた大柄な四人の男達も刀を抜き、主動格の男を守るように前に出る。
「大人しく捕まる訳が無かろう。俺の通り名を知ってんのか?」
アドウが立ち上がり、大熊手を肩に担いで笑う。それを見たリコウは、静かにその場から離れる。
「“不屈のアドウ”か・・・」
八咫烏組、主導格の男がニヤリと笑う。
「先手必勝!」
アドウがニヤリと笑う。刹那、アドウの姿が消える。ガキィィィン!!! 突然現れたアドウの大熊手を、八咫烏組の男達が四人掛かりで止める。
すると、アドウの背後を取ったアケサトが刀を振りかぶるが、今度はくも八がそれを止める。
「・・・くっ! なんて力!」
アドウを止めた八咫烏組の四人の大男達が、アドウのあまりの怪力に顔を顰める。
「わっはっは! どうしたぁ八咫烏組ぃ!!」
アドウが笑う。そしてアドウは、大熊手を再び振りかぶる。
「来るぞ!」
八咫烏組の大男四人は、主動格の男の前に立ち、再び刀を構え直す。
「“熊爪剝”!」
ガギィィィン!! 振られた大熊手のあまりの勢いに、大男達が四人とも後方に吹き飛ばされる。主動格の男は飛んで来る部下たちを躱し、アドウの方をジッと見つめる。
「・・・流石に手強いですね」
「わはは。手ぬるいわ。・・・お前は違うのだろう?」
アドウが再び大熊手を構える。すると男も腰の刀を抜き、手本のように綺麗な構えを取る。
「・・・ほう。隙が無いな」
アドウが目を顰める。アドウの言う通り、男の構えには一寸の隙も無い。するとアドウはニッと笑い、大熊手を振りかぶって凄まじい勢いで男に向かって来る。
「“熊襲猛武”!!」
ブゥオォォン!!! しかしアドウの強烈な一撃は空を斬る。アドウが目を見開く。すると目の前から姿を消した男は、既にアドウの背後に回っており、刀を振り上げている。ズバァァァ!! 男がアドウの背中を斬る。
「ゔっ・・・!!」
アドウが膝を着く。斬られた背中からは血が流れ出ている。
「ここまでです。神妙にしていただきましょうか」
男が、膝を着いたアドウの背中に剣を向ける。ガラン! するとその背後で、アケサトに切っ先を喉元に向けられたくも八が、刀を落としている。アドウは膝を着いたままそれを横目で見る。
「・・・良く鍛えられてるな」
アドウが呟く。
「ありがとうございます。ですが、あれは彼女の才です」
男はニコリと笑って答える。
「あなたは、ソンカイ城主お抱え商人のリコウ様ですね?」
男はアドウの方を向いたまま、後方に佇むリコウに問いかける。
「ええ。その通り」
リコウが答える。
「では何故ここにおられるのですか? ソンカイ様はどうされたのです?」
「ソンカイ様は亡くなられた。ここにいるのは、・・・ハハ。行く宛てが無いから」
それを聞いた男が目を顰める。
「・・・そうですか。しかし腑に落ちませんね」
すると、男が刀を鞘に仕舞う。そして向こうにいる四人の男達を見て頷く。それに男達も頷き、踵を返して城の方へ駆けて行く。
「・・・何故、行く宛てが無いからと言って、主君の仇の傍にいるのですか? 我々は城主ソンカイ様より、逆賊のアドウとその家臣を捕らえるようにと文を頂きました。そのソンカイ様が亡くなっておられるならば、単純にアドウさんの仕業と思ったが・・・」
男が広場を見渡す。広場は瓦礫まみれで、城壁も地面もいたる所が抉れている。
「この広場、まるで戦でもしていたかのようですね。・・・一体全体何があったのか、教えていただけませんか?」
男が問う。すると膝を着いていたアドウが、そのまま地面に胡坐をかく。
「さっきまで、俺とソンカイの軍勢で戦をしていたからな。そしてリコウは人質。・・・おいリコウ、もう用済みだ。何処へ去れ」
アドウの言葉に男は眉を顰め、しばし思案した後、口を開く。
「・・・そうですか。ではリコウ様はお帰りいただいて構いません」
男の言葉にリコウが驚き、目を見開く。
「わっはっは!・・・この俺を捕らえた者の名ぐらい、覚えておきたいのだが?」
アドウが笑う。すると男はニコリと笑ったまま口を開く。
「これは失礼しました。私は八咫烏組副長、“赤心 南ノ助”と申します」
完




